表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

愛する会ったことのない貴方へ

「あのですね。私はデートを拒否しているのです。関わらないでください」


 そう言ったのは、冷徹な令嬢として知られる、レイザ・ヴァンパ。

 レイザは美しい銀髪をしている。それも、とても長い。瞳も銀色で、美しいと言って差し支えない。そして、驚くべき肌の白さ。絹のようである。

 着ているドレスも品がある。紫色で、なんとも妖しい雰囲気だ。

 そんなレイザは、男性に口説かれていた。


「レイザ殿、そこをなんとか……貴女のような、美しい方は、そういない。是非、我々と茶会を……いや、わかっております。嫌がっているということは。しかし、この機会を逃したくない」


「嫌がっているのがわかっているのなら、誘わなければいいのでは?」


 しかめっ面のレイザ。その通りである。


「それは、認めます。しかしながら……」


「もう良い」


 眼を細めたレイザ。一応、相手の男性の爵位は、レイザより上である。それなのに、この言葉。


「迷惑です。私には付き合わなければならない人がいるので」


「レイザ殿に、付き合っている殿方はいないとお聞きしましたが」


「います。現国王の息子……アルトラン・ディヴァイスです。アルトランの恋人であるこの私に、言い寄るとでも?」


「ア、アルトラン様!?……も、申し訳ございません。そういえば、用事を思い出しました……レイザ殿、またの機会に、お話していただけると幸いです」


「またの機会などない」


「は、はい。……アルトラン様に、何卒、良い印象を持ったとお伝えください」


「下がれ」


「はっ」


 そう言うと、レイザを口説いていた男は去っていった。言葉尻といい、なんとも冴えない感じである。

 レイザの隣で、事の成り行きを見守っていた、侍女のアルファが口を出した。彼女はメイド姿である。青いショートカットが愛らしい。


「レイザ様、貴女はアルトラン様と付き合ってなどいないのでは?彼らを追い払うための方便ですか?」


「真実です」


「え?」


「夢でお会いしましたので。婚約を申し込まれました。私はそれに応えねばなりません。それには、それなりの修行が必要。さあ、アルファ。もう少し歩を進めましょう。美しい身体を手に入れませんとね」


「ゆ、夢?レイザ様、それは流石にどうかと……」


「私に、意見するの?」


 レイザは鋭い眼でアルファを見た。その瞳は厳しく、そして、涙が滲んでいた。


「滅相も御座いません。しかし、何故、泣いておられるのですか?」


「時間がないから」


「時間」


「アルトラン様は、病を患っておられます。それは、公表されていないこと。もう、残りの命は少ないのです。それなのに、勇気を出して、私に婚約を申し込んでくれた。きっと、霊力を振り絞ったのでしょう。その感覚が、痛いほど伝わってきました」


「……なるほど。レイザ様の霊力なら、有り得る話かもしれません。……いえ、失礼。レイザ様に間違うことなどありません。わかりました。このアルファ、誠心誠意、レイザ様のサポートをさせていただきます。しかし……もう少し早く言ってほしかったです。そういう事であれば、今宵から、ヘアセットの時間は倍にさせて頂きます。食事も、質素な、されど、体つきを良くする物に変更させて頂きます。構いませんね?」


「アルファ、まるで逆。構いませんね?じゃないわ。私は貴女を信頼してるのよ。異論のあるはずもない」


「光栄の余りで御座います」


 アルファは美しく礼をした。洗練されている。ただの侍女ではない。


「いいのよ。さあ、散歩に参りましょう」


 冷徹令嬢は薄く微笑んだ。レイザのことである。


 その日から、レイザとアルファの生活は変わった。レイザを、より美しくするために。

 細かい体重測定は勿論、身だしなみには最短の注意を払い、また、内面をアップデートするために、レイザはよく本を読んだ。


「レイザ様、コークル侯爵からのお茶会の招待が届いております。どうしますか?」


 青髪を揺らしながら、レイザのヘアセットをしていたアルファが言った。


「コークル侯爵……確か、アルトラン様と知り合いだったはず。受けて、その誘い。絶対に行きます。アルトラン様に会うための手筈を整えねば」


「かしこまりました。しかし、コークル侯爵は、女好きと聞いております。くれぐれもご注意を。レイザ様へのアプローチも予想出来ます」


「構いません。それで、アルトラン様に関する情報が得られるのであれば」


 端から見れば、異質なやり取り。まだ出会ってもいない男性に、恋をする女性。

 その日、床につく時、レイザは夢を見た。アルトランとの夢。

 レイザの姿はそのままに、美しい金髪の、アルトランの姿が見えた。


「アルトラン様、私、必ずあなたの傍に参ります。だから、待っていてください。どんな手を使っても、貴方に会いに行きます」


「ダメだ」


「どうしてですか」


「君の性格だ。君は無理をするに決まっている。こんな霊性に、付き合うことはないんだ」


「いいえ。私、それで幸せです。まだ見ぬ貴方に会えるのであれば、少しでも可能性があるのであれば、ずっと追いかけ続けます」


「君のことが嫌いだ」


「私を呼んだのに?」


「……あれは、偶然だ」


 レイザは目を閉じた。偶然だと、アルトランは口にする。それが、わかる。嘘をついていると。自分を巻き込まないために、嘘をついてくれていると。


「嘘をつかないで」


「嘘ではない」


「それでも愛してる」


 その自分の一言で、レイザは目を覚ました。天井が見える。柔らかいベッドに横になっている。

 身体を起こす。ふう、と溜息をつく。そして、一言。


「見殺しに出来るわけないじゃない」



 ベッドから出てから、レイザはアルファに挨拶をした。アルファはいつもメイド姿である。レイザは白のドレスに身を包んでいた。


「今日はコークル侯爵とのお茶会ですね」


「そうね。まったく興味は無いけれど」


「その態度、察されないほうが良いと思いますが」


「私は阿呆ではない」


 レイザはクッキーを口にした。ただの甘いクッキーではなく、主に筋肉を強化してくれる、アルファお手製のクッキーだった。

 綺麗に食べ終えると、レイザはすっと立ち上がった。


「出かけます。アルファ、今日はこの屋敷にいなさい」


「かしこまりました。馬車の用意はしてあります。どうか、お気をつけて行ってきてください」


「流石に根回しが早い」


「レイザ様の侍女ですから」


「私の信頼するアルファ」


 レイザはフッと笑った。彼女が笑顔になるのは珍しい。


「行ってきます」


 レイザは身を翻した。銀髪が揺れる。


続きが気になりましたら、ブックマークと評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ