表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

【第6話】愛へさかのぼるルート

 オー……ホオーゥ……!オー……オォー……!


「ユスティニさーん!!!」


 巨大な雪のカタマリの手が開かれる。ユスティニは地面に伏せて難を逃れていた。剣は鬼の足元に飛ばされている。


 雪の両手へジュゼは剣を叩きつける。何度も、何度も!鬼が動きを止めている内に、ユスティニは自分の剣を拾って、大きな雪の像の左手側へ出る。そして剣で鬼の左肩を貫こうとした。しかし大木(たいぼく)の根っこみたいに広がった<吹雪の鬼>の左手で、彼の剣はつかみ取られてしまう。


 降雪(こうせつ)が静かに成ったので、ジュゼは残った体力を振り絞り、まるでオーケストラの指揮者のようにグレートソードを右から左へ、左から右へ振るう!戦いの主導権は今、(まぎ)れもなく彼女にあり、ジュゼは戦いの場を完全に仕切っていた。

「ハァーーーッ!!」


 女剣士と彼女の剣が吹雪を呼ぶ!<鬼>の動きは次第に(にぶ)り始め、凍りつき、ついには動かなく成った。それを見て、ユスティニはつかまれている剣を、そのまま押し込む。

「ヤァーーーッ!」

 鬼の正面に立つジュゼは、その腹部へグレートソードを突き入れる。

「エエーーーイッ!!」

 こうして<吹雪の鬼>の体は崩れ去った。


 残る<鬼の念>が、ジュゼの優しさに誘導され、(いつく)しみによって怒りも(なげ)きも(やわ)らげられる。そしてついには、彼女の愛に包み込まれて跡形(あとかた)なく消え去ったのであった。


            *     *     *


 離れて見ていた村の人たちから歓喜の声が上がる。女剣士は大剣を鞘へ収めると、そちらへ手を振ってみせた。


「今回の鬼は強かったんだろう?今後も現れるかも知れないよな」

「ありがとう。助かりました」

 ジュゼはそう言うものの、態度で相手を突き放す。

「まだ旅を続けるのでしょう?私も一緒に……どうかな」

 うつむくジュゼ。身を硬くして考えている。


「あなたはどうなの?身寄りの方はどうするの」

「居ない」

 ユスティニは短く返答した。

「私一人だ」

 彼はジュゼの前へ出てから一度、村人たちの方を振り返る。そして彼女へ微笑んでみせた。


「ジャガイモはどうするの?あなたが居ないとワクツルの村が困るのではなくて?」

「育て方は村長と若者たちに引き継いだ。心配いらん」


「前にも言ったけど、私はあることを追及していてね」

 黙って聞いているジュゼへ語るユスティニ。

「私たちの生きる力……生きよう、強く成ろう、優しく成ろう、食事しよう、遊ぼう、歌おう、人生を楽しもう、人を助けよう、支えよう……誰かを好きに成り、自分を高める。そういったチカラは、元を辿(たど)れば<愛>へ行き着くのではないかと感じているんだ。町で調べたり、自分自身との対話を重ねている」


「元を辿れば愛へ?」

「そう、生きる力から愛へ(さかのぼ)るルート。必ずあると思うんだよ!そしてそれは他の人と共有できる」

 ジュゼは何となく分かっていた。彼が言うものの先で何が待っているのかを。ユスティニは大股(おおまた)で自分の家へ戻ってゆく。子供や若者たちと、手を振ってあいさつした。彼ら彼女らの笑い声がジュゼへも届く。


            *     *     *


 翌朝、日が昇るよりも早く、再び旅へ戻る支度を整えて家を出たジュゼを、村長とユスティニが待っていた。


「何もお礼できませんが食糧を少しご用意しました。持って行ってください。鬼の件、感謝しています」

「ありがとう。受け取らせて頂くわ」

 村長は隣の男性を見る。

「あなたを失うのは正直言って手痛い、ユスティニ。けれど、あなたのような生き方もあるのでしょう。村のことは心配なく」

 気を利かせて村長はその場を去った。二人きりだ。雪はそっと、二人へ降っている。


「すまない、女性の扱いが下手で」

「変に女性の扱いが上手すぎるよりも、よっぽど信用できます」

 率直(そっちょく)な愛の交換が少ない。人はもっと素朴(そぼく)でいい。素朴に愛し合えばいいのだ、ありのままに!


「二人で旅しないか。お互いの求めるものを支え合いながらさ」

「ユスティニさんは、愛へ遡るルートを?」

「うん!」

 彼は帯剣して、旅支度(たびじたく)を済ませてある。

「お互いの冒険に付き合うんだ。それならば効率いいだろう?」

 正直、ジュゼは今の「冒険」という言葉に救われた思いだ。気が楽に成った。自分は旅をしているのではなく冒険している。そう思うことで彼女の若さは(よみがえ)った。


 少し下を向いてから彼へ笑顔を見せようとするジュゼ。怖れることも、遠慮(えんりょ)する必要もない。自らの本能に忠実に従って愛へ遡れ。それが人の自然な姿だからだ。


 握手しようと右手を差し出すユスティニ。ジュゼはその手を握っただろうか。


 春が訪れ、吹雪の季節は終わった。


 白いコートとブーツから、ベージュのコートと茶のブーツへ着替えたジュゼ。その後、ジュゼと男性剣士が仲良く寄り添い合う姿や、お互いの気持ちを確かめ合うようにキスする姿が目撃されている。


 吹雪の中の女剣士ジュゼよ、いつまでも幸せであれ!



終わり。


最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。楽しんで頂けていたら嬉しいです。次の作品でもお会いできるよう、がんばります!^-^ノシ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ