グリーンフィールド(2)
「トリス!起きてトリス!」
「おじさん早くモルを街まで送ってあげないといけないよ」
聞き覚えのある大きな声で俺は目を覚ます。ドアにもたれかかり寝た俺は毛布なんて着ていなかったはずだが今は毛布が掛けられている。
「はやくモル君をグリーンフィールドまで送ってあげて!」
「そうだぞおっさん!もうそろそろ夜も明けるから連れてってくれ!」
もうそろそろ夜が明けるってことはまだ朝じゃないのに俺は起こされたのか。俺は眠い目をこすりながらモルの方を見た。モルはもういつでもいけるように昨日摘んだ薬草をバスケットに入れて持ち俺の方をじっと見ている。朝一番に連れていくと約束してしまったし仕方ない。俺は立ち上がりモルを抱きかかえた。
「おっさんなにすんだよ!」
「俺が今からグリーンフィールドまで連れて行ってやるよ」
そういって俺はドアを開け周りの風を集めた。
「アミル、レイラちょっとついでに買い物もしてくるわ!」
そう言い俺は集めた風を使い勢いよく走りだした。モルを落とさないよう気を付けながら走ったので昨日アミルと一緒に飛んだ時のようなスピードを出すことはできなかったがジャイアントベアーが走る速さ(50km/h)程度は出て居ると思う。モルの方を見るとビビって目をつむっている。
「あと30分もすればつくからちゃんとしがみついとけよ!」
「そんなにこれが続くのかよ」
「早く着かないといけないんだろう?我慢してくれ」
そういい俺はグリーンフィールドまで走っていった。しばらくすると俺たちの暮らしていた森を抜けた。先程までは木しか見えなかったが森を抜けるとそこには広大な農地が広がっておりその奥には高さ10mはある堅固な石の壁が円形に連なり、小さく見える門からは隙間のないほどびっしりと建っている住宅街が見えた。
「門までは普通に歩いていこうモル」
「その方が助かる」
モルは先程までの俺との素早い移動が響いたのかそういうと俺から離れ一人でゆっくり歩き始めた。モルの後ろを歩きながら俺は今からどうするのがいいか考えていた。現在指名手配されている身であろう俺がモルと一緒にいたらモルにまで危険が及んでしまう。俺の目的はこの街で旅に必要になる地図を買いにきただけだ。元地理情報隊といえ世界の地図を丸々暗記しているわけではない。地図があれば大きな街を避けて進むことができ安全な潜伏先を見つけることができる。まずは国宝窃盗の真犯人やアミルの両親を探す前に身の安全を確保したい。そんなことを考えているとグリーンフィールドの門の前についた。門の前には門番の男が一人立っている。
「おっさんこっちきて」
そういいモルは門番の男に話しかけられることのないまま街の中に入っていった。しかし俺がモルの後に続き街に入ろうとすると門番の男は俺の前に立ちふさがってきた。
「旅のお方でしょうか?」
「そうだがなんだ?」
俺に話しかけてきた門番はじっと俺の方を見てくる。顔から足までじっくりと見ている。指名手配中の男だとバレたか?そうだとしたらこの門番には悪いが吹き飛ばして街へ入れてもらおう。そんなことを考えていると門番は俺がつけているポーチを指さしながら
「このポーチの中身を確認させてもらいます!」
そういい門番は俺のポーチの中身を見る。俺のポーチの中にはこの間アミルと二人で一緒に木に穴をあけて作った手作りの水筒しか入っていない。それを確認した門番は申し訳なさそうにしながら謝罪してきた。
「あなたが野盗ではないことを確認しました!グリーンフィールドへようこそ」
「野盗ってあいつらは門番がいるのに堂々と侵入してくるのか?」
「はい。グリーンウッド村が襲われたあの日以降この地域での野盗の活動が活発になっており市長の指示のもと入念な確認を行っております」
入念な確認っていうなら服の中まで見るべきだろ。そう思いながら俺はグリーンフィールドへと足を踏み入れた。
グリーンフィールドはこのあたりの地域では一番大きな街で農業が発展しており小麦の生産地としてとても有名だ。サイレン王国に献上している物資も小麦が中心で俺も王国にいる頃はよくここの小麦で作ったパンを食べていたな。そんな街の商店街には小麦から作ったパンやケーキが並んでいる。そんな食べ物には一切興味を示すことなくモルは歩いている。しばらく歩くと人通りの少ない路地につきそこでモルは立ち止った。
「おっさん、ここまでありがとう。ここが僕の家」
そうモルが紹介した家はレンガでできた小さな家だった。モルはドアを開け俺が入ってくるのを待っている。
「悪いな、家にいれてもらって」
「ベットの上を見て」
ベットの上を見るとそこには顔を文字通り青くした痩せた女性がしんどそうに横になっている。モルはその女性のそばに行き持って帰ってきた薬草を薬研を使って粉にし女性に飲ませる。
「モル。あの方は誰?」
「森の中で出会った人でここまで送ってきてくれた人なんだ」
「あなたがモルを街まで送り届けてくれたんですね。ありがとうございます」
「まだ治ってないんだから無駄なことはしゃべらないで!」
モルは女性にむかってそういいまた薬草をすりつぶし始めた。しばらくするとモルは薬草をすりつぶしながら俺に話しかけてきた。
「おっさん、おかげで母さんの病気治りそうだ」
「そうか、よかったな」
「うちは貧乏だから薬変えなくてさ、ドクバチに刺された母さんを治療できなかったんだ。顔が青くなってたからあと1時間遅かったら助けれなかった。だから、ありがとう」
モルはそう笑顔で言った後幸せそうに眠りに落ちた。そりゃあそうだ。昨日は夜遅くまで外にいて今日は日が昇る前から起きていたんだ。10歳になっているかなってないかわからないようなやつにはキツイよな。モルが寝てしばらくするとモルのお母さんが急に話しかけていた。
「モルが本当にお世話になりました。大したおもてなしはできませんがどうぞくつろいでいってください」
「お気遣いなく。私は旅の者でこれからの予定も待っている仲間もいるのでここらで失礼します」
そういって俺はモルの家をでた。モルの家からでた時誰かに見られているような気がして気になったが見られているとしても指名手配をされている俺にかけられている賞金目当ての人間だろうと気にかけなかった。俺は商店街に地図を売ってている店がないか探しに行った。地図の売っている店はすぐに見つかった。もうボケが始まっていそうな白い髪をしたおじいさんが営業しているぼろい屋台に地図はあった。
「じいさん、その地図もらいたいんだがいくらだ」
「こいつは10000サイじゃ」
「10000サイってそんな額あったら田舎に立派な家が建つぞ!」
「払えんならこれは売れんよ」
こんなバカげた値段を提示してくるじいさんなんかから買うか!そう思った俺はじいさんに
「金が溜まったら買うよ」
とみっともない別れの挨拶をし、ほかの地図を探して商店街を一日中回ったがそれ以外の地図は見つからなかった。地図を探して商店街を彷徨っていると太陽は沈みはじめ辺りは茜色になっていた。
「そろそろ帰らないとあいつらも心配するだろうな」
そう口に出した俺は朝街に入ったときと同じ門から街をでて家に帰った。