出会い(3)
グリーンウッド村を襲った悲劇から一夜たち監禁されていた人たちも全員解放、治療することができた。グリーンウッド村の被害を知った隣街グリーンフィールドはグリーンウッド村の住人をすべて引き受けることを決断しグリーンフィールドの役人がくるまで昨日の不明な組織に襲われないよう護衛するため、村の入り口に待機していた。
「お姉ちゃん大丈夫?」
アミルが泣いているレイラを心配し問いかける。
「うん。大丈夫、心配してくれてありがとうね。」
そういって涙を無理やり止め立ち上がったレイラはジッと俺の方を見つめてきた。レイラは美人だ。可愛い異性にそんなに見つめられると恥ずかしい。レイラは俺の目を見ながら
「ねえトリス。ありがとうね。村のみんなを守ってくれて。」
「むしろ遅くなったぐらいだ。」
「たくさんの人が亡くなってしまったけどあなたがいなかったら村が壊滅してたよ。」
レイラはそういうと顔を下に向けまた泣き始めた。それをアミルが慰めに行く。俺は今まで地理情報隊としてたまに野盗と戦闘していたが今回のように組織的に動いている野盗を見たのは初めてだ。野盗っていうのは5人程度でグループを組み街を襲う。野盗にも組織で動くやつらが現れたのならこれは王国に報告しないといけない。そう考えているとあることを思い出した。
「そういえば俺、指名手配犯だ」
そう呟いてしまった俺の発言を近くで泣いていたレイラは聞き逃さなかった。先程まで泣いていたはずのレイラは驚いて涙が止まってしまっているようだ。レイラはしずかにこちらに向かって歩いてきた。
「やっぱりただの旅人ではなかったのね。ワコク出身っていうのはほんと?ワコクの人は刀っていう刃物を腰に据えているらしいけどトリスにはそんなのないよ......あなたは何者なの?」
ワコク出身のものは腰に刀なんて物騒なものつけてるのか。知らなかった。しかし俺はレイラに自分が下級貴族出身の貴族だとは言えない理由がある。俺の生まれたバー・サイレン王国は貴族のみが生活をしている国だ。軍事力で世界を統治しており他国に侵攻しないかわりに多くの物資を納めさせている。そんな王国の出身者を小さなグリーンウッド村出身のレイラが良く思うはずがない。
「刀はお金がなくて質に入れたんだ!そして旅人っていうのも本当さ」
「本当に?もしあなたがワコク出身の旅人だとしてどうして指名手配されるの?理由は何?」
必死に考えて質問に答えたのにレイラはまた質問をしてくる。指名手配をされている理由は街の酒場や大きな通りに行けばどうせバレる。ここは本当のことを話そう。そう思った俺は一度深呼吸を行い落ち着いて話し始めた。
「俺が指名手配されている理由は国宝窃盗の罪だ。けど俺は国宝を盗んだりしていない。だから自分の無実の証拠と真犯人を探すために世界を旅しているんだ」
「ふーん。そうなんだ。じゃああの昨夜の野盗を倒したのは国宝の力を使ったっていうこと?」
「国宝は盗んでいないっていっただろ!あれは俺の身につけた能力'エアロキネシスト'だ」
レイラはぽかんと口を開けて固まっている。横にいたアミルは俺たちの話なんか聞かずに少し離れた木を叩いて遊んでいる。あんなに強く木を叩いて痛くないのか?そう思いながらアミルを見ていた俺に向かってレイラが話しかけてくる。
「能力なんて言うんだっけ?エアなんちゃらってやつ今見せてよ。」
「自分の能力を他人に披露するのはできない。能力がバレてしまうと対策を取られて殺される危険が高まる。能力の詳細を見せるのはよっぽど信頼している仲間か身内くらいだ」
「私はトリスが指名手配犯だと知っても信用しているよ」
俺がいったことをきちんと理解しているか怪しい返答をしたレイラは後ろを振り向き木を叩いてい遊んでいるアミルを眺めながら言った。
「あなたはしようと思えばこの村にいる人全員を殺すことができるよね。でもそれをしなかった。それはあなたが悪いひとじゃなかったからだって私は思ってる。だから、理由としては弱いけどなんとなく、あなたのことは信用できる人だって思ってる。」
「あぁ、ありがとう」
「私も、村のみんなを守りたかった。昨日は怖くて腰が抜けちゃって何にもできなかったけどトリスぐらい力があれば戦える気がするの。だからお願い。私に能力の使い方を教えて!」
後ろを姿しか見えないから分からないがおそらく泣きながら話している。そんなに昨日なにも出来なかったのが悔しかったのか。
「能力は人によって違うからレイラがどんな能力を発現させるかどうかは分からない。それでもいいなら俺にできることは教えよう」
「やったー!ありがとうね!」
「ただ俺は指名手配されている身だ。警察、特にサイレン王国の警察の代わりの王国騎士団という組織に見つかってはいけない。過酷な生活になると思うけどついてこれるか?」
ちゃんとしたベッドもなければ食料もあるかわからない不安定な生活をしていく覚悟があるのかどうか確認しておきたい。そう考えて言ったのだが
「それくらい大丈夫だよ!」
こちらに振り向いて軽い感じで彼女は返事をした。レイラは俺についてくるのか。アミルにもこれからどうしたいか聞かなければいけない。俺は木を叩き飽きて木にもたれかかっているアミルに話しかけに行った。
「アミル、お前はどうしたい?俺についてくるかそれとも村の人と一緒にグリーンフィールドに行くか?」
「おじさんがいないとおいしいご飯がたべれないからついてく!」
「まあ両親も探さないといけないしな、そりゃあそうだな」
地理情報隊にいたときの記憶が正しければグリーンウッド村の近くにある街はグリーンフィールドしかない。そうなると俺達も生活に必要なものをそろえるために一度グリーンフィールドに行かないと
「グリーンフィールドの役人がきたら出発するからレイラは旅の準備をしてきてくれ」
「わかった!」
そういうとレイラは村に走っていった。そういえばレイラの家はどこにあるんだろう。そんなことを考えていると遠くに荷車をひいている馬の姿が見えた。
「そろそろかな」
そう呟いて俺は村の人からお礼としていただいたポーチを身に着けアミルを呼び、レイラが戻ってくるのを一緒に待った。しばらくするとレイラが戻ってきた。空のように青いシャツに黒色のショートパンツを履いていた。
「はやくいこうよ!」
そういってレイラは俺の背中を押し、アミルの手を握ってアミルが居た森の方角へ歩いて行った。俺の前を歩く二人は笑顔で何かを話しているようだ。
「おじさんもはやくこっちきてー!」
「アミル!レイラ!行く場所を決めるのは俺だからな!先に歩いていって迷子になるなよ」
そう言って俺は二人の方へ走っていった。これが俺達3人の始まりだったよな。