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なろうラジオ大賞5

カステラは和菓子に含まれますか?

 それは、僕が和菓子普及の為のイベントで、デーパートの催事場のステージに登壇した時の事であった。


「カステラは和菓子に含まれますか?」

 10歳位の女の子がした質問で、僕は衝撃を受ける事となる。その子は、恥ずかしがり屋なのか、ずっともじもじとして母親にくっつくように座っていた。僕の娘と年の頃が近く、ステージ上からでもつい気になってしまう。


 そんな少女だが、話は熱心に聞いてくれている。人前で話す事が多い僕は、話を聞いてる人と聞き流している人の違いが分かる。

 大人も上手く誤魔化しているつもりであろうが、興味が無いというのは一目瞭然だ。反対に関心が強い人も良く分かる。そんな人が多いと嬉しいのだけれど、現実というのは厳しい。聴衆の半数でも聞き入ってくれていたら、良い方と言った所である。

 更に悲しいのは、日本人よりも異国風の容姿の人達の方が、聞き入る割合は高かったりもするのだ。


「え、絵美ちゃん、何馬鹿な事を言っているの」

 この戸惑う母親こそが、僕に思ってもいなかった衝撃を与えた人物である。だって、そうだろう。こんな当たり前の事なのに。


 カステラ。それは、泡立てた鶏卵に小麦粉と水飴を混ぜた生地を、型に流し込んでオーブンで焼いた菓子である。

 場合によっては、砂糖、黒糖、チョコレート、バニラ、バター、牛乳、抹茶等を取り入れて豊かなバリエーションを生み出していく。


「お母さん。馬鹿な質問はしないで下さいね」

「えっ、はい。すみません。ほら、絵美も謝りなさい。お母さん恥かいちゃったじゃない」

 少女は涙目で僕を見上げる。僕はゆっくりと首を横に振ってみせた。

「やめて下さい」

 僕の声に、会場は静まり返る。


「確かに、カステラはポルトガルから伝わった南蛮菓子を基にしています」

「ですから」

 僕がむきになっている真意を、母親はまだ理解出来ていない。


「但し、ポルトガルにカステラというお菓子が存在した形跡はありません。語源は諸説ありますが、一般的にはイベリア半島に存在したカスティーリャ王国、その国のお菓子という意味のボロ・デ・カステラから来ていると言います」

「それなら」

 まだだ。


「残念ながら、そのお菓子と長崎カステラは製法が違います。因みに長崎カステラとは長崎の銘菓という意味ではなく、その製法で作るお菓子の総称ですから」

 一拍溜める。


「カステラは、歴とした和菓子です」

 そう言った僕を見て少女は笑顔をこぼす。それは、僕の一生の宝になった。 

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