無題
あらすじにも書いていますが、ベケットの舞台の放送を見た後に書いた「不条理って、こういうカンジでしょ?」的な感じの小説になります。
不条理という言葉を知らない奴が書いた小説と思ってください。オリジナルはあまりに酷かったので、少しだけ手直しをしましたが、大部分はオリジナルです。
手書きにつき、詳しい年月日やタイトルは不明でした。
大勢の男達が行き交う薄暗い部屋の中で、二人の男が向かい合わせに座りながらカードゲームに興じていた。頭に銀色の漏斗を被った老人が身を捩らせながら金切り声で、
「思考盗聴を防止せよッ! 思考盗聴を防止せよッ!」と、叫びながらガラスの小瓶の上に乗り、そのまま夜空に向かって羽ばたいた。
「……やあ、今夜は夜空がだいぶ騒がしいな」
アイザックは、そう言って、ハートのエースを捨てた。
「ああ、まったく、」
ビックスは、軽く頷きながら、クローバーの三を捨てた。ふと、部屋の端から大勢の子分を引き連れたアルバス親分がやって来た。親分、二人の手札を交互に覗き見ながら、腹を抱えて大笑いすると、
「……やあ、調子はどうかね?」と、尋ねた。
「さあ、まったくでして、ええ、市議会議員のナイータム氏なんですがね、ええ、そうです健康増進法に賛成した議員ですがね、その法案を悪用した連中が、現れたんで、袋叩きに遭っているらしいですね」
アイザックが、そう言うと、アルバス親分は、
「ああ、知ってるよ。今しがた、石版印刷所に駆け込んでいった新聞屋のラージから聞いたからね。大方、駅前で号外を配るんだろうさ。まったく、法案が通った時には、我々の為になると興奮気味に話していたのにね。それが、問題が起こった途端に袋叩きだ。まったく、嫌になるよ。蝙蝠みたいな連中だ。彼らはね、法案が通っても通らなくても議員を批判したかったに違いない。いや、きっとそうだ。そうに決まっている。健康増進法で、ジューサー事件が起きたからって、まったく、」と、ため息混じりに言った。
「ハハ、いや、まったく、滑稽な笑い話ですな」
ビックスは、そう言って軽く笑うと、アルバス親分に向かって、
「所で、旦那。株は買いましたかい?」と、言った。
「……残念だが、私は株とかは嫌いでね。……ああ、もう、こんな時間だ。失礼するよ」
アルバスは、そう言うと、子分を引き連れて通りの奥に消えていった。
「……ところで、僕たちはいつまでこうしているんだい?」
アイザックがそう言うと、ビックスは、
「三上に聞いてくれ」と、言った。
「誰だい、それは?」
「さあね、分からないよ」
ビックスはそう言うと、アイザックに向かって、
「君こそ、何か知っているんじゃないのかい?」と、言った。
「さあね、知らないよ。知るもんか」
アイザックは、そう言った。
ふと、天井から銀色に輝く豆電球が光り輝いた。それを見た二人は、
「……やあ、こんにちは、」と、親しげに挨拶をした。