92:結婚式
冴内の結婚式と披露宴は富士山麓ゲート研修センターで行うということが決定すると、富士山麓ゲートのシーカー達は狂喜乱舞した。当然全世界のゲート局長は出席を熱望し、出席させてくれれば色々と便宜を図るが断るとこれから先そちらで何が起こるか我々にも分からんぞとか言い出す始末だった。同様に各国のトップシーカーも出席させててくれればそれぞれが保有する一番の宝物を提供しても良いとか言い出し始める始末だった。
今や富士山麓ゲート局長となった神代はそれらを華麗に見事に捌ききった。神代はこれまでずっとコツコツと積み重ねてきた彼自身の実力と能力と誠実さで勝ち取った役職なのだが、神代自身にその認識はなく、これはひとえに全て神の思し召しだったのだと思っていた。我が一族の名前からしてそれはもはや決定づけられていたのだと。
神のチョップを持つ冴内君、いや冴内様、そして神の中の神である優様、この二人の神を取り持つことが出来たのは我が一族、神代家の宿命だったのだと、いよいよ危ない思想に突入しかけている神代であったがそれでも全ての段取りを見事なまでに完璧にこなしていった。いや、ゲート局長の仕事じゃないだろうそれ。
ゲート内世界は一般の人間が入れない世界ということでマスコミや熱狂的支持者などから逃れるには最高の場所であり、結婚式がくるまでは冴内と優はほとんどゲート内で過ごした。
ゲート研修センターには小さなチャペルがある。それは富士山麓ゲート内のシーカー同士が結婚することもあるからだ。夫婦どちらかの実家で婚姻届けを出すシーカーもいるが、ほとんどのシーカーはリタイヤするまでゲート内で働き生活するので便宜上ゲート研修センターで婚姻登録をするカップルも少なくないのである。
しかし冴内と優の結婚式はこの小さなチャペルでは行わず研修センター大イベントホールにて行われることになった。式にふさわしい内装建築は宮の親方も含めた大工職人達も大活躍だった。ちなみにその際、宮は冴内に早乙女と結婚したいと相談している。
話しは前後するが冴内の結婚式の後、翌月には力堂が同じ会場を利用して結婚式をあげ、さらにその翌月には宮と早乙女も結婚式をあげることになる。良野もこの会場が取り壊される前に結婚したいと言ったが、それ以前に相手がおらず「この際矢吹でもいいか」と真剣にブツブツ言っていたが、その矢吹から「オレ婚約者いるけど」と言われて3日近くやけ酒を浴び、木下が献身的に付き合っていた。
そうしていよいよ結婚式当日がやってきた。式場には世界各国のゲート局長に、トップシーカー達、当然冴内一族親類一同、力堂、良野、鈴森、矢吹、手代木、木下、早乙女、宮、梶山、プレハブ小屋のおばさん、アリオン一家(ちなみに1頭増えた)が出席した。
全員が見守る中まずは新郎の冴内がやってきたがこちらはまぁ・・・案の定冴えなかった。そして新婦が出てくる扉が開いたときに全くスポットライトなどあてていないのに後光が差し、あまりの美しさに全員目を伏せてしまう程の神々しさだった。優が歩くたびにシャリーンシャリーンと澄んだ金属音のような音がしてあぁやっぱり彼女は神の中の神だったんだと全員が信じて疑わなかった。
本番に弱いといつも嘆き全く冴えない冴内 洋だったが、冴えない冴内 洋のくせに実に自然に温かく優しいとても清らかなキスをした。なんでだ! その時さらに一層優は光り輝いた、文字通り本当に全身が光り輝いた。ますます、あぁ間違いなく彼女は神の中の神だったんだと全員が100パー信じた。キスが終わり光がおさまると、会場内は大拍手喝采の嵐に包まれた。この模様は当然全世界にライブ中継で配信された。国や地域によっては学校や会社や重要行事すら休みにして視聴した。もはや全世界のほとんどの人間があぁ神の中の神ってホントにいるんだなぁと思った。ともあれ結婚式は無事何事もなく厳かに清らかに美しく終了した。冴内のくせに冴えないところは一つもなかった。なんでだ!
研修センターの大イベントホールも相当大きな会場なのだが、披露宴はその大きさですら収容しきれない程大勢が来場するので富士山麓ゲート研修センターの野外特設会場で開かれることになった。
野外特設会場は世界各国の屋台料理がズラリと並んだ。世界各国の料理人シーカーが自慢の食材を持ち込み自国の料理を奮っていたのだ。また世界各国の一流職人達が作った武器や防具に珍しい鉱石やゲート内素材なども特設ブースで展示された。さらにステージ上では様々な民族舞踊なども披露されて、もはや結婚披露パーティーというよりも万国博覧会の様相を呈していた。あまりの規模のため結婚披露パーティーは2日間ほぼ夜通し開催された。この人類史上今回限りといっても良い一大イベントの放送権獲得のため世界トップクラスの有名放送会社による巨額な入札競争が繰り広げられていたのは言うまでもない。
そうして世界的一大イベントと化した結婚式と披露宴は無事終了した。
普通の人なら疲労困憊してヘトヘトになりそうなものだが、優はまぁ世界一タフだから問題ないとしても冴内の方もやはりシーカーは常人よりもタフなのか大きな疲れもなかった。
研修センター内に設けられた二人のための特別な部屋で冴内は新婚旅行でどこに行く?と優に聞いたのだが優はそこで驚くべきことを口にした。
「新婚旅行はしばらく中止になると思う」
「えっ?そうなの?」
「うん、多分明日には生まれてくると思うよ」
「私たちの子供が」
「なんだってーーーーー!!」
まったく妊娠した姿形でもなんでもない優は明日には自分達の子供が生まれてくると言った・・・