88:新婚「前」旅行
翌朝麻酔から覚めた冴内はもう一度気絶した。
一夜明けて目を覚ますと、優が直視できない程ありえない程この世のものとは思えない程美しい上に殺人的にピッチピチのムッチムチのボインボインになっていたからだ。
昨日はブカブカだった肌着の半袖シャツが張り裂けそうなくらいパッツパツになっておりシャツの下が実にきわどい位置で、そこから露出している生足と合わせて瞬殺破壊力満点の極めてけしからん状態になっていた。
最初は麻酔が残ってボーッとしていたのだが、目の焦点が合って、視界に映るものを脳が認識し始めた途端、冴内は昏倒した。その後優に水をぶっかけられて冴内は目を覚ました。目を開けて恐る恐る優を見ると今度はポケットがたくさんついている繋ぎの作業服を着ていたので安心した。
「ごめんね、ダーリンにはちょっと刺激が強すぎたね」
昨日までの声も美しい澄んだ楽器のような音色だったが、今のこの声は女性らしさが増した優しく温かい音色だった。そして少し口調が変わったような気がした。
「今日はわたしがご飯を作ってみたよ!一緒に食べよ!」
普通この手の物語にありがちな壊滅的な料理の腕というネタもなく、昨日冴内が作ったのと同じご飯と味噌汁と沢庵でとても美味しい朝ごはんだった。味噌汁に何かの草とキノコが入っていてこれが実に美味しかった。食事を終えて早速また今日も空を飛んでゲートに向かう。
優が「今日は後ろに座る?」と聞いてきたが、二つの山が実にけしからんことになっているので遠慮すると、昨日までは「グヘヘヘヘヘ」と下卑た笑いだったのに、いや、グヘヘは書いてなかったと思うが・・・「あははっ!」と、とても爽やかで可愛らしい笑い声で優は笑った。
そうして優を前に乗せて飛んだのだが、優の匂いがとても良い匂いなのと、頬に触れる優の髪の毛の心地良さで意識が遠のきそうになった。
「まるで新婚旅行みたいだね。まだ結婚してないから新婚前旅行か!ウフフ!」と、またしても意識が飛びそうなるセリフを口にする優。
「ねぇ優・・・」
「なぁに?洋」
「どうして僕だったの?」
「うーん・・・そうだなぁ、最初から決まってたんだけど、それじゃ分からないよね」
「えーと・・・まずちょっと酷い言い方みたいになるけど、洋が人畜無害だからかな」
「人畜無害?」
「そう・・・もの凄い強大な力を手に入れても洋は冴えない優しい冴内 洋のままだから、人畜無害の冴内 洋のままだからだよ」
「人畜無害って・・・人の方はそうだけど、畜の方は結構倒してきちゃったような気がするけど?」
「フフフ、そうね、でもそれは家畜とかの畜じゃなくて、人や大人しい動物達に危害を加える危険な存在でしょ。だから人畜無害だよ」
「あのね洋、ただ優しいだけの人なら宇宙に沢山いるけど、洋はどんなに強大な力を手にしても洋のまま変わらない。宇宙広しといえどこんな素質を持っている人はなかなかいないのよ。
心が清らかで聖人のような人物だとしても
優しさで包み込まれた慈愛の人だとしても
強大過ぎる力を手に入れてしまうと変わってしまう
心が壊れてしまうこともある
だから私と結ばれる人は私の強大な力を中和して、バランスを取れる存在であることが必要なの」
「冴内ファミリーはその家系的に類まれな稀有な存在の一族なのよ。ただ洋達のいる人間社会ではあまり尊重されないみたいだけれど・・・」
なんと、名は体を表すとはいうが我が冴内ファミリーはそんな希少一族だったのか・・・人間社会ではあまり役に立たないみたいだけど・・・
自分だけがそんな一族の中で宇宙一の大ラッキーくじを引き当てたようでなんとも先祖英霊に対して申し訳ない気持ちになる冴内なのであった。
ちなみに以前泉にいた水の精霊達が『やさしい ひと しらせなきゃ』と言っていたのは優に洋の存在を知らせていたことだというのを聞いて驚いた。
そうして色々と話していると夕方近くになった。優がアリオンに「ちょっとあっちの方角に行って」と指示した場所に着いてみると綺麗な泉が湧いており、触ってみると温かかった。小さな滝から流れる水と、脇の方から流れてくる熱い温泉がまじりあって入浴にとても良い温度になっていた・・・
って入浴ゥゥゥ!?
R15指定なので詳細は割愛するが、いや待て諸君、私だって詳細に書きたいところではあるが、最初にこの小説の年齢設定をR15で設定してしまったのだ。ここは一つ我慢して辛抱こらえてくれ、堪忍や、堪忍・・・と、それこそ読者から堪忍袋の緒が切れられそうではあるが、なんとかして二人とも入浴して身体を綺麗にすることが出来た。一人は7日ぶりに、もう一人は800年ぶりに・・・
そうして今日も恐ろしいことに、いや、こうして書いてる作者自身、冴内が羨ましくて恨めしくてメラメラとふつふつと殺意が芽生え始めてきたが、二人は今日も一つの寝袋の中に一緒に入った。
「あのね、洋、私の願いを聞いてくれる?」
「うん、聞きたいよ優」
「私の願いは死ぬことなんだよ」
「愛する人と結ばれて、子供を産んで、愛する人と一緒に年を取って一緒に生きて、一緒に死ぬことなんだよ」
「洋は何歳まで生きたい?500歳くらい?」
「いや、500歳は長過ぎるよ」
「じゃあ200歳くらい?」
「200歳でも長いよ」
「じゃあ100歳は?」
「うん・・・そうだね100歳までならいいかな?」
「分かったじゃあ100歳まで一緒に生きよう、そして100歳になったら一緒に死のう。病気とかケガとかじゃなくて自然に、ちゃんと二人で生ききって一緒に死のう」
「死んだ後はどうなるの?また転生して一緒になるとかしちゃうの?」
「ううん、無だよ、なにもない本当の無になるんだよ。そうだね、宇宙の一部になるのかも。身体も魂もこの宇宙にお返しするんだと思うよ」
「そうなんだ、うん、それはとても素敵だね。優、一緒に生きよう、そして一緒に生ききって一緒に死のう」
「有難う洋、愛してるよ」
「うん、有難う優、愛してるよ」
その夜、二人は結ばれた
いつも本番に弱いと嘆く二人であったが、この時ばかりはうまいこといったようだった。
アリオンは帰ったら二人目作り、いや二頭目作りに精を出そうと心に誓っていた。