85:I'll be back
力堂チームはここまでの一部始終を冴内のアクションカメラから映し出される映像で見ていたのだが冴内達が戻ってくるのが分かったので全員テントから出て竜が降りてくるのを見た。今見ているのはフルCGムービーじゃなくて本当に存在する現実なのかと全員夢に包まれた気分だが、間違いなくそれは現実だった。
最初は豆粒くらいの大きさだったのだが、近づくにつれてその巨体が、その馬鹿げた巨大な物体が目の前に迫ってきた。ヴィジュアル的に相当恐ろしい風貌をしているのでこの場にいる全員がそのまま食べられてしまうのではないかという恐怖を感じた。
しかし頭の上には仁王立ちする10歳くらいの銀髪少女がいて、ますますこの状況をどう理解してよいのか混乱して思考が停止してしまい、このあまりにも現実離れした光景をただただ見守ることしか出来なかった。
そしてとうとうその馬鹿げた巨体は力堂達の目の前でフワリと着陸した。若干遅れて冴内を乗せたペガサスもゆっくり滑空した後着陸した。竜の方はまるで重力を無視したかのようだった。翼で風が巻き上がることもなく、巨体が地面に降り立つことで地響きや揺れなどが起きることもなかったのだ。竜が着陸して頭を下げて地面の上に置くと頭の上から10歳くらいの少女がフワリと降り立った。
冴内もアリオンから降りて竜に近づき「りゅう君色々とありがとう」と言った。
少女の方も「ごくろうじゃった、れいをいう」と竜に礼を言った。
「えへへ~、いいよ~」と竜はまるでその巨体にそぐわない声で人間にも通じる言葉を発した。
「あのね~、ボクずっと一人で退屈だから、たまに遊びにきて欲しいなぁ~ボクはオジサンの代わりでここにちゅうざいしてるから、ここからあまり離れられないんだぁ~」
「分かった!また干し柿もって遊びに来るよ!」
「ほんとぉ~嬉しいなぁ~ありがとう~まってるよ~それじゃぁボクもういくねぇ~」
「ウン、有難う!またね!」
といって竜はまた山の頂に向かって飛びだっていった。やはりフワリといった感じで離陸したので、翼による風で吹き飛ばされることはなかった。
力堂達は映画館でファンタジー作品を見ているただの一観客状態で目の前に存在する者達に対して、何と話しかければいいのか、どうリアクションすればいいのか全く頭の中の整理が追い付かなかった。
「ユ、ユウさんと言っていいのか・・・その、私は力堂といいます」
「ウム、わしはユウじゃ、これからダーリンと結婚するので冴内 優になるんじゃ、ケッヒッヒッヒ!」と、直視出来ない程ありえない程この世のものとは思えない程美しい少女の可憐な口から楽器の美しい音色のような声と、その声で奏でる言葉の内容と笑い方のギャップがあまりにもあり過ぎるので、恐らくゲート世界の翻訳機能がバグってるのだろうと力堂チーム一同は思うことにした。
「オヌシのおかげで思った以上に早くワシはシャバに出ることができた。心から礼を言うぞ。ワシはぎりがたいからの、礼だけでなく近いうちにカタチのあるもので、こたびの礼にこたえようぞ」
「我々は探索こそが生きがいのどうしようもない冒険バカなので、あなたや竜に会えただけでも十分過ぎる褒美をいただいているのですが、それでも受け取らないのは非礼にあたると思いますので、有難くあなたからのお礼を頂戴することにいたします」
「おおそうか、受け取ってくれるか、それは良い。さて、すまぬがわしらはすぐにでもここを発たねばならん」
「えっ?どこに行くの?どこか行かなきゃならないところがあるの?」
「うむ、お前様よ、早急に行かなければならぬ」
「それはどこ?」
「お前様のおやごどのに会ってけっこんの許しをもらうのじゃ」
ホントに結婚するつもりなんだ・・・と冴内は思ったが口には出さなかった。
「そういうわけでわしらはここを発つ。また後で改めて礼をしにくるのでしばしの別れじゃ」
本当は何としてでも二人を引き止めて根掘り葉掘りあらゆることを聞きだしたいところだがさすがに止められないし止める気もなかった。
「分かりました、再会の折には是非ともあれこれお聞かせ願いたい」
「うむ・・・ところで、大人さいずの服を一着くれぬか?」
「・・・服ですか?」
「うむ、明日の朝になればわしはムコ殿の希望通りピッチピチのムッチムチのボインボインの20歳になるからの。この服はもう着れんのじゃ」
希望したことは一度もないが、それでも反論出来ない冴内であった。残念ながら冴内も一人の助兵衛なオスなのである。今の姿でも直視出来ない程ありえない程この世のものとは思えない程美しい少女なのに、これが自分と同い年になってピッチピチのムッチムチのボインボインにでもなったら、果たして自分は生きていられるのだろうかという程、殺人的な美しさとエロさになるに違いない。
両親に合わせる前に恐らく殺人的美しさとエロさで死んでしまうに違いない。父さん母さん、先立つ不孝をお許しください。
「・・・わ、分かりました、すぐに用意します。あまりその、美しい服は用意出来ませんが、ご容赦願いたい」
「うむ、かまわぬ、恩にきる」
着る物の他にもタオルや歯ブラシや缶詰などをもらい布袋に入れ、アリオンに装着された簡易馬具に取り付けた。簡易馬具ではあるがこれがあるだけもこんなにも便利なのかとつくづく思い知った。
ところである女性隊員が「私が使用したもので恐縮ですが寝袋をどうぞ」とユウに渡そうとしたところ「わしはムコ殿と一緒に寝るから不要じゃ、ケッヒッヒッヒッヒ!」という会話がされていたことは冴内は一切全く金輪際誓って知らなかった。ちなみにこの女性隊員は長年の思いを遂げ今回の遠征の後力堂と結婚することになる人物である。
「それでは力堂とやら、世話になった!いずれまたあおう!」と、どこの君主か王様かという尊大な態度で、しかしそんな態度がごく当たり前に似合ってしまう直視出来ない程ありえない程この世のものとは思えない程美しい少女と、その従者にしか見えない冴えない青年冴内はアリオンに乗ってゲート村に帰ることにした。
ちなみに次の日りゅう君は一回り大きくなって全身が金色に輝いていた。格好良いツノが2本生えて見た目がさらにヤバくなり、誰が見ても世界最強生物のようなヴィジュアルになった。そんなりゅう君は英国側からもペルー側からも確認され、まさしく世界は繋がっていることが大々的に発表された。