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54:イギリス行き決定

 英国ストーンヘンジ・ゲート局長サー・アーサー・ウィリアム3世とのサシの会談以後、冴内のイギリス行きは避けられないと覚悟した神代であったが、どうにかしてイギリス行きを先延ばしできないか一人頭を悩ませていた。


 そんな中、鈴森より冴内君からイギリスに行きたいという趣旨の相談をうけたという連絡が入った。「くそっ!さすが英国情報部!打つ手が早い!」


 後手に回った感が否めないが、それについては仕方がない話で、そもそも神代は純粋にゲート内での様々な新種の発見や未開拓地域などの情報収集がメインで、情報は情報でも諜報活動を主とする情報のスペシャリストではない。そもそもゲート関連の諜報機関など今やどの国でもほとんど存在しない。


 確かに80年前~40年前まではスパイ活動めいた各国の諜報活動もさかんに行われていたようだが、世界情勢の変化、全世界的ネットワーク通信の拡充、そしてゲートが出現してから長い年月が経過したことで、ある国で秘匿してきたことが他国でも次々と発見されて、もはや秘匿する必要がなくなり、さらにゲートシーカーの純粋な好奇心と探求心という気質と、より多くの仲間にいち早く知ってもらいたいというオープンマインドにより、今や新しい発見はすぐに世界中に公開されるのだ。


 しかしそれでもさすがは英国ゲート情報部。世界的大ヒットスパイ映画シリーズでも知られる歴史的に有名な国家機関情報部を持つ国だけあって、例えそれがゲート情報部であったとしても諜報活動はお手のものといったところなのである。


 なぜイギリスだけがこうまで積極的なのか、それは「英雄剣」がある国だからだ。英雄剣にまつわる5人の伝説はフィクション、ノンフィクション問わずほぼ全世界で様々な書籍や映画などが製作され、神代もこれまで何度も読んで感動に涙した程だ。


 当然自国民である英国民のジョンブル魂が震えないわけがない。英国ストーンヘンジ・ゲート局長サー・アーサー・ウィリアム3世にもその純粋な気持ちが心の根元にあるのだろう。むしろその気持は他の誰よりも強いかもしれない。


 それにしても・・・この女性・・・シーラ嬢といったか、英国情報部の連中め、色仕掛けとはなんともげせ・・・と、心の中で「下世話」と言いかけて言いとどめる。


 端末でシーラと名乗る女性の写真を見つつ神代は思う。冴内君もやっぱり人の子、成人男子なのだなぁと。しかしそんな人間らしさがあるからこそ安心出来る面もあるのだ。そういう人間らしいところがなければ、聖人君子かそれこそ英雄か神のように近づきがたい存在ではないか。


 ともあれ冴内自身がイギリス行きを希望している以上、神代としてもそれを押しとどめることは出来ない。後はこのまま渡英して日本に帰ってこないなどということが起きないように何とかして手を打たねばと、日本のゲート機関本部のトップに相談することにした。


 シーラ嬢と結婚でもして向こうに永住するとか言われたら洒落にならないぞ!我が国の宝ともいうべき「私の」冴内君をイギリスなんかにとられてなるもんですか!と、まるで恋敵に負けまいとする乙女のような心境の神代であった。


 一方、そんな恋心などつゆ知らずの冴内は鼻の下をデレデレに長くしながらシーラ嬢の説明を聞いていた。


 馬具を作るにあたり現地に赴きサイズを採寸する必要があるのだが、アリオンも含めあらゆるゲート内の生物は生きている間はゲートから外に出ることができない。ちなみに消滅後の肉や牙などはゲート外に持ち出すことは可能だ。そこで今回は壁画調査で持ち込んできている高機能3Dカメラを用いて、詳細にあらゆる角度からアリオンを撮影することになった。


 冴内本人は実際に馬具職人の元に行き、各種寸法だけでなく、実際に乗馬して重心位置や身体の使い方の癖などを確かめながら、細かい調整を行いつつ作成していく必要がある。


 シーラは冴内が猜疑心を抱かず、イギリス行きを前向きに検討してくれるよう細心の注意を計り、携帯端末にて様々な「イケてる見た目の」馬具や乗馬の画像を冴内に見せて気分を煽った。勘のいい人物ならば何故あらかじめそんなあざとい画像がシーカー専用携帯端末に沢山入っているんだと気付くかもしれないが「ホラ御覧になって」と時折りさりげなく冴内の手をとるものだから、そんなことにまで考えが回る余裕など皆無だった。


 彼、冴内のプライベートを明かすようで極めて遺憾かつ申し訳ないのだが、恋愛経験、女性経験がまだその・・・アレなものなので、こんな「ちょろい手」に見事に引っかかりまくる冴内なのであった。


 シーラ嬢もすぐに冴内がその手にちょろいことが分かったので勝利を確信したが、待ち受け画像が例の「げぇっ!」だったのを冴内に見られると、みるみるうちに冴内がトーンダウンしていくので、シーラは絶対零度の絶望を味わいかけたが、冴内へのボディータッチを積極的に試みたところでなんとか緊急回避した。


 こうして冴内のイギリス行きが決定した。冴内の心変わりや予期せぬ事態を回避するため、全ての手続きを電光石火の如く異例の速さで処理し、2日後にはゲートを出立する手はずを整えた。


 神代の冴内渡英引き延ばし作戦はそもそも作戦実行以前に、いや、作戦を立案する以前に既に敗北が決定したのであった。


「まだだ、まだ終わらんよ、これからが本当の地獄だ、冴内君英国永住などという最悪のシナリオだけは絶対に阻止してみせる」と、色んな某有名作品のセリフめいたことを口にした神代であったが、知り合いにその手の諜報活動を得意とする人物など一人もいないので、結局日本のゲート機関本部のトップに泣きつくことにした。


 本部長も、現富士山麓ゲート局長もこれまでずっと冷静沈着だった神代のあんな顔は後にも先にも見たことがなかったと述懐する程だったそうだ。

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