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50:さすがにもう我慢ならん

 一方その頃、富士山麓ゲート研修センターの小会議室では、神代が一対一のサシで英国のストーンヘンジ・ゲート局長のサー・アーサー・ウィリアム3世とネット通話で対話していた。以前大会議室で世界各国の代表が参加した会議の場で議長を務めていた人物でもある。ちなみに世界各国代表会議の議長役は一年ごとの持ち回り制である。


 英国ストーンヘンジ・ゲート局長サー・アーサー・ウィリアム3世の開口一番のセリフは「さすがにもう我慢ならん」だった。


 さすがに神代も内心「さもありなん」と思った。前回議長は冴内を「英雄ではないか?」と言い、あの場の誰よりも冴内の能力に強い関心を寄せていたのだ。


 冴内に関する情報は世界同時発信されるが、英国ストーンヘンジ・ゲート局長サー・アーサー・ウィリアム3世からは、もっと詳細な情報を寄こせとか、まだ何か隠している事があるんじゃないのかとか、何故冴内専属調査チームを作らないんだ、何ならこちらの職員を派遣して、私自ら陣頭指揮をとろうかなどと、ことあるごとにやたら突っかかってきて正直かなり厄介に感じていたのだ。


 そうでなくても今は例の壁画調査で、世界各国から多数の外国人シーカーが来ていて、それら海外シーカー達による合同調査チームを結成し、一癖も二癖もある連中をどうにかコントロールし、さらに世界各国の局長クラスへの根回しを含め様々な調整事を抱えている多忙な日々を送っているのだ。


 それどころか泉で出てきた水の精霊(呼称)を含む「深い森事件」(やっぱり事件なんだ・・・)に今回のペガサス騒動。まさにここ富士山麓ゲートはカオスな状態でこれ以上他国からの厄介事などとても引き受けられる状況じゃなかった。


「その辺りの事情をどうかお察し願いたい」と神代が述べると、

「私も局長職を務めているのでミスター、カミシロの言い分も重々理解出来るが、それでも、だ。それでも、もう我慢ならんのだ。頼む、この通りだ、冴内 洋をくれ! じゃない、こちらに寄こしてくれ! 1週間、1週間でもいいから、彼をこちらに招待させてくれ!見返りは何でもそちらの言う通りにする。さすがにSクラスは無理だが特Aクラスまでなら、アイテム、情報ともに私の権限で譲渡することも可能だ!」


「実に有難いご提案ですが局長閣下、以前申し上げた通り彼は今でも一切の武器を手にすることが出来ないんです。一般社会に存在する包丁やナイフ等は手にすることが出来ますが、ゲート内での攻撃用武器はありとあらゆる種類が、まるで彼を拒絶しているかのようにすり抜けるのです。提供した情報はありのままをお伝えしております。一切の加工や省略等はしていません」


「分かっている、それは分かっているのだ。しかし【英雄剣】が唯一の例外になるかもしれないではないか。およそ30年前に英雄剣が作られて以来、誰一人として扱うことが出来なかった。そんな中、80年に渡る歴史の中で初めて全く前例のない異能と言える人物が現われた。しかも彼が現われてから一体世界は今どうなっている?壁画の発見といいエレメンタル(精霊)といい、そして今朝の情報はなんだ?ペガサスに乗って空を飛んだだと?これを英雄と呼ばずになんと呼ぶ?」


 そんなことは承知の上だ!と神代は心の中で声を張り上げたかったが、グッと飲み込み「ですが局長閣下、壁画の件は客観的に見ても偶発的事象に過ぎないと・・・」と、言ってすぐに後悔した。


「そんなことは分かっている!!だが、その偶発的事象ですら、英雄だからこそ引き起こされたのだとは思わないのか!?」


 今度こそ神代は目を閉じ口を閉ざした。

「頼む、ミスター、カミシロ・・・どうか彼を招待させてくれ。1週間、1週間でいいんだ、彼の安全は絶対に保証する。我が国最高のスタッフで迎え入れる。一切彼にはストレスを与えることのないよう最大限の配慮をする。どうか、願いを聞き入れてくれないか・・・」


「・・・分かりました・・・日程については調整させて下さい。しかし、私の承認よりもまずこちらの局長の承認が必要であることをどうかご理解していただきたい」


「いや、既にそちらの局長には話しはつけてある。ミスター、カミシロがOKというなら彼はOKだと言っていたよ。君は君が思っている以上に周りから信頼されているようだ」


 神代は冴内がどこか遠くへ行ってしまうような気がして、これまでの人生の中で最も酷く淋しい思いを味わっていた。神代の心の中では冴内はもう既に【英雄】だったのだ。


 そんな神代の鎮痛な思いなどまったく知る由もない冴内は馬具に関する画像検索結果を見てはどれが一番アリオンに似合ってカッコイイだろうなどと腑抜けた思いにうつつを抜かしていた。

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