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452:血の池地獄

 その夜、美衣達は昼間に冴内にイメージトレーニング戦闘で惨殺された時の悪夢を見ることもなく、洋さん石像の設置に満足してグッスリと良い夢を見たが、冴内は8体の洋さん石像に取り囲まれるという悪夢を見た。


 翌朝、納豆ご飯と焼き魚を食べていると、リビングの壁にある大型ディスプレイにパステルという文字が表示されてコール音が鳴った。


「もしもし、おはようございますパステルさん」

『おはよう冴内君!あっ、そのクモの糸みたいなのはナットウだね!ごめんね食事中のところ』


「いえ、いいんですよ、何かあったんですか?」

『うん!あのね、頭の良い機械が暗黒魔王達の居場所を特定することに成功したんだよ!』


「なにっ!暗黒魔王を見つけたのか!」(美)

『そうなんだよ!すごいよね!アイちゃんも間違いないって言ってるよ!』


「分かった!ご飯食べたらすぐ行く!」

『うん!待ってるよ、それじゃね!』


 宇宙崩壊の元凶でもある暗黒魔王の居場所が分かったという超重要事態が発生したにも関わらず、ご飯を食べた後で行くというお気楽さ加減であった。


 その後続けてさらに大型ディスプレイに実家と書かれた文字が表示されてコール音が鳴った。


「もしもし、母さん?」

「あら朝ご飯中だったのね、ごめんね」


「いや、いいんだけど、どうしたの?」

「テレビで見たんだけど、私達も美衣ちゃん達が作ったアート作品を是非とも見たいのよ、悪いんだけど空いてる時でいいから連れて行ってくれない?」


「えっ・・・・えーと、今日はちょっとこの後大事な用事があるから、その後でもいい?」

「もちろん、そっちの用事を優先してちょうだい、こっちは洋の空いたときでいいのよ」


「わかった、手が空いたら電話するよ」

「ごめんね、お願いするわね、お願いついでに悪いんだけど、娘たちと島根の義兄さん夫婦も見たいって言ってるから一緒に連れて行ってくれる?」


「うっ・・・わ、分かった」

「ありがとう、それじゃ食事中に邪魔してごめんね、美衣ちゃん達何か欲しいものある?」

「正子の色鉛筆がなくなったから色鉛筆が欲しい!」

「みいおねえたん、ありがとうでしゅ!」

「分かったわ!」


「お義母さん!私はさんすうドリルが欲しいわ!」

「分かったわ!まかせて!」


 ますます宇宙崩壊の危機とは程遠い実にお気楽な会話内容だった。


 その後も全く急ぐこともなく普通にゆっくりと朝食を食べて食後のお茶も飲んで食休みしてから、冴内達はいつも通り何の緊張感もなく不思議世界ジメンへと移動した。


 不思議世界ジメンに着いてもパステルやジメンやアイ達が遅いぞ!何をやってたんだ!などと言うこともなく普通に挨拶をした。


 パステルが立体宇宙銀河マップを見るよう促したので見てみると、赤と青と白の3っつの光が矢印マーク付きで表示されていた。白い光は恐らくブラックを指していると思われ赤と青よりも遠い位置で光っていた。


「コレ・・・ホントにここに行けば暗黒魔王がいるのですか?」

『ウ・・・ウン、そう・・・みたいだけど・・・アイちゃんホントにいるんだよね?』


「はい!いますよ!赤いのは恐らく食事をとっている最中で、青いのは・・・あっ消えた!こちらは移動中で今ワープしたようです、ブラックは・・・こちらは多分睡眠中のようですね」


 アイも何故か黒をブラックと言うのであった。


「よし!父ちゃん早速赤いののところに連れて行ってくれ!」

「えっ!早速行くの!?」

「うむ!鉄は早いうちに食えだ!」

「えっ?ちょっと違うんじゃない?鉄は食べれないよ」


 正しくは鉄は熱いうちに打てですよとアイから指摘された美衣だった。しかも言った本人がどういう意味?と聞き返すという始末だった。


「えっと・・・ここだね・・・ウ~ン・・・あっ、綺麗な星がある、地球みたいな青い星だ、ウン?アレは・・・マグマかな?マグマの中に何かいるような気がする・・・」


 冴内は目を閉じて何故か右手をチョップ状態にして自分の額に当ててブツブツと独り言のようなものを口にした。冴内を知らない第三者が見たら相当にこの人はスピリチュアル的な何かの人なんだなと思ったことだろう。


「多分それは赤いのだ!スゴイぞ父ちゃん!」


『えっ!ホント!?どれどれワタシにも見せて!』


 パステルは冴内の背中に自分の掌をそっと触れて俯いた。パステルには目はないが、というよりも顔そのものがないが、何となく目をつむって俯いているように見えた。恐らく冴内が見ているイメージを共感視しているのだろう。


『う~ん・・・あっ!ホントだ!赤いのがいる!間違いない赤いのが・・・マグマの中にいる?』


「アタイも見たい!っていうか早速行こう!父ちゃん連れてっておくれ!」


「うん分かった、どうやら本当に赤いのがいるみたいだ、場所の特定も出来たから行くとしようか、それじゃ美衣は準備をして」


「わかった!」

 美衣はその場でレインボースーツを着た。さいごのひとロボ4号機は高性能カメラ搭載ドローンを2機程準備した。


「準備オーケー!」

「えっと、一応他の皆は優のバリヤの中に入っててくれるかな、優いいかい?」

「いいわよ!」

 優は三角形のバリヤを張り、美衣以外の全員がその中に入った。


「それじゃ行くよ!」

『皆さんいってらっしゃいませ!』(ジ)


 そうしてジメン以外の全員が瞬間移動した。


 冴内達が瞬間移動した惑星は数億年前の地球のようであり、巨大恐竜達が物凄い数いた。


 そして今、冴内達は火山から溶岩マグマがドロドロと川のように流れている場所に浮いていた。


「うわー暑いね!まるでサウナみたいだ!」

「温度調節してるからバリヤの中に入るといいわよ洋」

「うん、そうさせてもらうよ・・・わぁ涼しい!」


「美衣は大丈夫?」

「うん!アタイはレインボースーツを着てるから大丈夫だ!」


 冴内は「あれ?レインボースーツは防御力はあるけど温度調節機能なんてあったっけ?」と疑問に思ったが、美衣が大丈夫だと言っているのでいいかと思うことにした。


「やっ!いたっ!あそこだ!」

「ホントだ!ボクも見つけた!」

「あっホントだ!本当に再現画像とそっくり!」

「えっ?みんなもう見つけたの!?相変らず凄い目がいいなぁ」


 美衣はマグマの川の上流に向かって飛んでいった。その先はもちろんマグマが噴出している火口である。


 そこはまるで別府にある国指定名勝血の池地獄のような光景で、温泉ではなくマグマが湧いていた。


 その中にまるで温泉に浸かっているかのように赤い暗黒魔王がいて、両手にそれぞれ生きたままの肉食恐竜を鷲掴みにしてマグマの中に入れて焼いて食べていた。


 耳を覆いたくなる程の肉食恐竜の悲鳴が響き渡り、そのまま手や足を食いちぎるとさらに断末魔の悲痛な叫びが轟き渡った。赤い暗黒魔王は満足げに恍惚の表情を浮かべてじわりじわりと食いちぎっていった。あまりにも残酷過ぎる光景に普通の人ならば精神的なショックを受けたことだろう。


 日本でも生きた魚介類をそのまま食べる踊り食いや生きたままのどじょうを鍋に入れて煮込む料理もあったりするが、さすがに目の前の状況はかなりエグイものがあった。


「やっ!酷いことするなぁ!食べ物は粗末にしちゃいけないんだぞ!ちゃんと感謝して、なるべく苦しまないようにして、美味しく全部食べないとだめなんだぞ!・・・ゴクリ、でもあの肉ちょっと美味しそうかも・・・」


 さすが美衣先生、修羅の道で育った料理人はちょっとやそっとのことでは動じないどころか、かなり酷い状況でも料理と味の探求を忘れないという鋼の精神だった。

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