451:ギャラリーアート
おやつを食べ終わり、冴内からの貴重なアドバイスももらったので、もう一度冴内達は不思議世界ジメンへと戻った。
パステルはいつも通りの冴内達が戻ってきたので安堵し、さらに今日はもうトレーニングは行わないということでジメンも安堵した。
残りの時間をどうしようかと見渡した美衣達は、先ほどのお返しとばかりに冴内にとって結構痛いところを突いてきた。
「あっ、そういえば父ちゃんの素晴らしい像をみんなのほしのホールケーキセンターに飾るんだった」
「あっそうだった!ボクも思い出した!」
『えーこれ持ってっちゃうのー?ヤだー』
「ここに置いておいてもアタイ達しか見れないのは大いなる宇宙の宝の持ち腐れなのだ、宇宙中にこの素晴らしいゲージュツ作品を見たいと願っている宇宙人達が大勢いるのだ、アタイ達はそれに応える義務があるのだ、分かってくれパステルさん」
『えー』
『えーじゃありません、美衣様の言う通りですよ』
『2体ずつあるんだからそれぞれ1体ずつ展示するのじゃだめ?』
「うーん、2体で一つの作品もあるからどっちか一つだと未完成になっちゃうのだ」
「一ついいだろうか、そこの工作機械で複製を造るのではダメかね?本物は万が一にも壊されないようにここで保管し、複製の方をホールケーキセンターに展示すれば良いのではないかと思うのだが」
『それだ!さすがさいごのひとさん!そうだよ!万が一にでもこの素晴らしい洋さん石像にキズがつかないようにここで厳重にワタシが責任を持って保管するよ!それがいいよ!そうしようよ!ねぇそうして!お願い!』
「うーむ・・・どうする?父ちゃん」
「いや、僕はどっちでもいいよ、これを作った美衣達で決めて」
冴内はかなりそっけないセリフを述べた。というのも、どっちに転んでも結局この極めて恥ずかしい石像が宇宙中の人々に見られてしまうのは変わらないので、正直どうでも良かったのだ。
美衣達は冴内抜きで真剣に協議を行った結果、確かにパステルの言う通りだということで、複製品を展示することに同意した。
ちなみに洋さん石像は冴内が意に反して虹色粒子をふりかけたので惑星爆発程度ではキズ一つすら入らない程に頑丈なのだが、大事なオリジナル作品をここで管理してもらうことの安心さと、本物は自分達だけのものよ!と強く優が主張したので、美衣達も確かにその通りだ!と同意して、パステルの案が満場一致で採択されたのだった。
こうして冴内以外の全員の利害が一致したので、早速アイが8体の洋さん石像を自らの目と触診でスキャンして、細かな表面のタッチも含めて完全に正確に3Dモデリング設計を行い、ベルトコンベヤー式工作機械に図面を送信し、まだ大量に置かれていた隕石から適材のものを汎用作業支援ロボ達に運ばせて洋さん石像レプリカを製作した。
美衣達は出来上がった洋さん石像を徹底的にチェックしたが、表面上は全く本物と同一であることにとても感心した。正直破壊してみないと本物かどうか分からないと言う程だった。そのため複製の方には足裏にレプリカと刻印することにした。
本物は冴内の虹色粒子をふりかけたので、恐らく美衣達が全力で攻撃してもレインボースーツ同様にキズ一つ付かないかもしれないとのことだった。
早速出来上がった8体の洋さん石像をみんなのほしのホールケーキセンターの玄関ホールに設置するということで、乗り気マンマンの美衣達は全く乗り気じゃない冴内に頼んで瞬間移動した。
夕方近くでもホールケーキセンターは今日も大賑わいで、各宇宙の時差や様々な宇宙人の生態と生活様式の違いもあって、ほぼ昼夜問わずひっきりなしに何かしらの文化や商業的交流会場として使われているようだった。
もちろん各会場利用後は清掃のための時間が設けられているし、定期的に各設備のメンテナンスのための休館日も設けられている。それでも年間を通してほとんど休みなく利用可能な非常に便利な宇宙間交流会場であった。
そして突如エントランスホールに出現した冴内達を見て、それまでしろおとめ団達の美しい石像とトゲトゲコスチュームを着た洋さん石像を見ていた宇宙人達は大いに驚き喜びの声をあげた。
さらに何やら沢山の新たな石像が運ばれてきたのを見て、より一層歓声をあげた。
美衣達はこれまで石像を設置していた台座をさらに拡張する必要があるということで、すぐにホールケーキセンター内の大型工作機械設備のある場所に行って、まだまだ大量にストックしている隕石から台座の建築部材を製作して、すぐにまた戻ってきて台座の拡張工事を開始した。
それに伴いこれまでの石像の配置も新たに再検討するということで、正子がスケッチブックに何枚かラフスケッチを描き、ウンと頷いたラフ画を元に画用紙を数枚つなげてより正確なスケッチを描いた。
美衣達は正子の芸術的センスを完全に信頼しているので、全く異議を唱えることなくそのスケッチ通りに各種石像を配置していった。
正子はそれぞれの石像の見栄えはもちろんのこと、しっかりと往来する人々の動線も考えて各石像の配置を考えていた。
一緒についてきていたアイは気を利かせて美しい透明な何かのクリスタルのような石板にレーザー刻印で刻んだ製作者の名前と作品のタイトル及び作者の製作意図を記したプレートを製作して各作品の横に配置した。
美衣と初は正子の指摘のもとに石像配置の微調整を行い、良子はスポットライトの増設を行い、優が細かくライティングを調整していった。
冴内だけは依然として全くやる気も乗り気もない様子であったが、その場に居合わせた宇宙人達から大絶賛の賛辞を受けて愛想笑いをしていた。
やがて騒ぎを聞きつけた宇宙人達も続々とやってきて、この様子は3っつの宇宙に緊急配信されていった。当然地球にも日本にもこの様子は伝えられた。
マシーンプラネット性の小さな高性能小型ドローンカメラが空中浮遊して美衣達の作業の邪魔にならないように撮影をして、地球ではまだ再現することが出来ない程の超高画質映像データを配信した。
冴内の全くあずかり知らないところで、記念式典を行おうというムーブメントが高まっており、多くの宇宙人達がネット会議の場で終結していた。
美衣達が十分満足いく状況になり、何度も見返して満足げに頷き「いい仕事をしたら腹が減った」と言い、いつもよりも若干残業して腹の虫がグゥグゥと不平を漏らしていたので、家に帰って夕食をとることにした。
拍手喝采の中見送られ冴内達は瞬間移動した。冴内はようやく終わったとホッとした表情で、後のことは考えないようにした。
ログハウスに戻ると花子が既に食事の用意をほぼ完了しており、食卓に料理を並べていた。今日のメニューは華やかな五目ちらしと煮物料理だった。
「良い仕事をした後のご飯は格別だ!」と、まるで肉体労働をした後のおじさんのような口調でガツガツと料理を口に運ぶ美衣だった。
一方その頃ホールケーキセンターのエントランスホールはまさにギャラリーアート会場となっており、宇宙のあちこちから報道各社が集まってその模様を興奮した様子で伝えていた。その中には日本のメディアも混ざっていて、放送局から専属契約を結んでいるゲートシーカーが伝えていた。
そんなことなどつゆ知らずの冴内は「この五目ちらしすごく美味しいね!煮物も最高!」などと、実にのんきに食事を楽しんでいた。
一方奈良ゲートの食堂ではこちらの方こそしっかり一仕事終えた力堂達が食事をしていたのだが、緊急速報ニュースを写し出していた大型ディスプレイの映像を見て、またしても矢吹が盛大にお茶を吹きだした。
手代木もむせかえり、良野もすぐに手で口を押さえ、力堂も食事を喉に詰まらす程だった。
なんとか耐え忍んだところに、初が作ったウィンクしている冴内の顔がアップで映し出されたところで忍耐の糸が切れて、まるでダム決壊のように一同大爆笑した。
吉田だけは相変わらず真面目な表情で、素晴らしい芸術作品だと感心していたのであった。