448:バージョンアップ
翌朝、いつも通り腹時計アラームで朝5時前に起床してしまった冴内達は、宇宙で最強家族とはいえども空腹には勝てず、たとえそこが人様の由緒正しき豪邸であろうが、勝手に厨房を借りていつも通り朝食の準備に取り掛かった。
すぐに料理人や給仕の者達がすっ飛んでやってきたが、自分達は朝早いのが日常なので気にしないでくれといって料理をし続けた。気にするとかしないとかそういう問題ではないのだが・・・
どうしたものか困惑して途方に暮れていた料理人や給仕の者達であったが、とりあえず料理人達は美衣の手際をじっくり観察し、給仕の者達は皿などの食器を持ってきた。
この日はトーストを主体としたいわゆる世間一般に知られるところのモーニングセットで、この宇宙でもそれは大体同じようなものだった。
ただ、確かに同じようなメニュー構成で見た目も同じようなものにも関わらず、見ているだけでもお腹がグゥグゥ鳴り止まず、料理人達や給仕の者達は非常に恐縮した。
といってもそれ以上に美衣達の腹の方が盛大に鳴っているので、本人達は全く気にせずどんどん料理を作っていった。
特製ハムを豪勢に分厚く切ってジュウジュウ焼き目を付けて、特製ソーセージもジュウジュウ焼いて、巨大ニワトリの卵でスクランブルエッグを大量に作り、新鮮野菜とまだ少量残っているピーチスライムゼリーを砕いて混ぜ合わせたサラダを作り、さいしょのほしでさいしょの民達が栽培しているトウモロコシによく似た植物の種を使ってコーンスープそっくりの味の濃厚スープを作った。
料理人達も給仕の者達も口の中は唾液で一杯で、何度も飲み込んだ。
最後にハチミツ入りホットミルクをタップリ作って冴内家モーニングセットは完成し、早速朝食タイムとなった。
出来上がった料理は食堂に持っていくこともせず、厨房でそのまま食べ始めた。そして驚くべきことに、料理人達の分も給仕の者達の分もタップリ用意されており、自分達の目の前にトーストや各種料理の皿が置かれていることに驚愕して声も出なかったが、腹の虫の声だけはしっかり大声を上げていた。
美味しい食事は全員で一緒に食べるとさらに美味しいのだと美衣が言ったので、それに従わないという理由は宇宙のどこにも存在しないので、調理人や給仕の者達も素直に有難く従い、朝から生涯で最高の絶品モーニングを味わうことにした。
冴内達にとってはいつもの朝食であり、黙々と爆食し続けてどんどんおかわりしていったが、ご相伴に預かった料理人や給仕の者達は朝から涙を流す程に美味しい料理を頂くことが出来て、何度も心の中で神様冴内様に感謝した。
ロエデランデ家の人達の寝室は厨房からはかなり距離が離れているのにも関わらず、しかも結局一族全員興奮冷めやらずほぼ一晩中大会議をしていたので眠いはずにも関わらず、凄まじいまでの良い匂いがどこからともなく漂ってきたので睡眠どころじゃなく、一体この素晴らしい香りは何だ?と起き上がってきた。
ロエデランデ家の者達が厨房に辿り着くと、そこはまるでこの世の楽園のような光景になっていて、皆美味しそうに幸せそうにトーストとハムとソーセジとスクランブルエッグを食べていた。
全員由緒正しき名門名家で今なお各界で活躍している一流の著名人達であったが、食欲という生理的に最も直結した欲望を抑えることは出来ず、全員腹の虫を盛大に鳴らして私達にもご飯下さいと正直に訴えていた。
その様子に気付いた美衣は、既にほぼほぼ満足行くまでお腹を膨らませていたので、残りの料理を一気に平らげて「今すぐ皆の分も作るから待ってて!」と言ってロエデランデ家一族の分のモーニングを作り始めた。
さすがに料理人達も何か手伝わせてくれと申し出てきたので、美衣は陣頭指揮をとって、それぞれの料理人達に的確に指示をして、美衣は料理の味の確認をするに留めて同じクォリティのモーニングを出すのだと料理人達にはっぱをかけた。
程なくしてほぼ同じクォリティのモーニングがロエデランデ家の者達全員の目の前にも差し出され、ロエデランデ家一族は全員一切話をすることもなく一心不乱にモーニングを食べた。
昨日も結構お寿司と天ぷらを食べて満足したはずなのだが、まるでここ数日何も食べていなかったのかと言いたくなる程全員美味しそうにモーニングを黙々と食べ続けた。
その姿を見て美衣は実に満足顔であった。料理長はその横で美衣の表情を見て、これこそ本物の料理人の顔だと大いに感動し感銘を受けた。
こうしておよそ2話にも渡って、ひたすら食事シーンのみが進行している一方、本来の重要な目的であるアイの大事な宇宙交流体験も大変充実した時を過ごしていた。
イリィーティアの数百万年にも及ぶ2つの宇宙の狭間で過ごしてきた膨大な経験情報は、他の宇宙とかなり異なるパステル宇宙出身のアイにとって、相当有益な情報を得ることになった。
この時も当然アイだけでなく、遠く離れたパステル宇宙の不思議世界ジメンに設置された超高性能光演算装置本体にもリアルタイムでデータリンクされており、物凄い速度で情報データがバージョンアップされていた。これによりこれまでとても親和性が低くほとんどコミュニケーションが取れなかったパステル宇宙も各段の親和性向上が見込まれることになった。
そんな不思議世界ジメンでは、1メートル四方の立方体で何故か表面にはパステルカラーのマーブル模様が描かれている超高性能光演算装置本体がさらに眩しく光り輝いていた。
『うわぁ何だかスゴイことになってるよ、この頭が良いっていう機械』(パ)
『恐らく分身体のロボットから何か凄い情報を得ているのではないでしょうか』(ジ)
『あっ今度は物を作る機械が勝手に動き出した!』
『小さなロボット達も自分達を改造し始めていますよ』
突然ベルトコンベヤー式工作機械がフル稼働し始め、さらに数体程さいしょのほしから運んできた汎用作業支援ロボ達も自らの身体を分解して、ベルトコンベヤー式工作機械に乗せて改良していった。
パステルもジメンも冴内を信頼しきっているのと、全くこうした事に予備知識もないため、普通ならとても不安がる光景なのだが、全く恐れを感じることもなく事態を見守っていた。パステルあたりはそれどころかかなりワクワクしていた。
汎用作業支援ロボ達はどんどん逞しくカッコ良くなっていき、一通り改造作業が終了すると、今度は宇宙探知機の大幅能力向上版の製作作業を再開した。ある程度まで出来上がっていたのだが、もう一度各パーツを刷新し組み立てていった。
ロエデランデ家の食卓では昨夜の一族会議の疲れも吹き飛ぶほどの美味しい食事を全員堪能していた。一般人には効果が強すぎてかなり危険な食べ物であるピーチスライムゼリーであるが、極めてごく少量をクラッシュゼリーにして野菜サラダにかき混ぜていて、それのおかげでほぼ徹夜に近かった疲労と、結構遠路から来た移動疲れもいっぺんに吹き飛んで、これまでにない爽快感も味わった。
イリィーティアからロエデランデ家当主に午前中には用事は終了すると連絡があり、改良型宇宙探知機も昼前には完成すると冴内様に伝えて下さいとのことだった。
全員満足して朝食を食べ終わってもまだ時刻は7時前という早さだったので、それから冴内が帰宅するまでの間には時間があったので、遠方からはるばるやってきたロエデランデ家の親族達もあらためて冴内達と挨拶と自己紹介をすることが出来た。
各自どういう方面で活躍しているのか説明し、今後自分達の分野にて何かお役に立てそうな場合はいかなる時もどのような要件でも申しつけて下さいと冴内に言った。
冴内は内心で税金のこととかで分からないことがあったら聞こうかしらなどと、極めてとんちんかんな事を考えて心強い気持ちになった。
大人達の会話は結構退屈だったようで途中で美衣はキッチンに行ってお茶菓子を作ってくると言い、初は漢字練習帳、正子はひらがな練習帳を書き、良子はイリィーティアのところに行って様子を見てくるといって向かって行った。
ロエデランデ一族と冴内の歓談は続き、途中で宇宙最高のパティシエでもある美衣が作ったケーキが出てきて絶品スイーツとお茶を楽しみながら、ロエデランデ家と冴内家、両家の互いの親交を深めていったのであった。