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447:逆おもてなし

 宇宙連合の中でもトップクラスの名門名家ロエデランデ家の厨房では、美衣が料理長から直々にフォルロイデン地方に古くから伝わりその地に住む人々から長く愛されている郷土料理のレシピと作り方を教わっていた。


 当然料理が完成するや即座に美衣は完食し「分かった!次はアタイが作ってみる!」と言って、全く完全に寸分違わず忠実に再現した一品と、宇宙ポケットから幾つか食材と調味料を取り出して美衣オリジナルアレンジを加えた一品を作り上げた。


 その手際の良さはまさにゴッドハンドともいえるもので、ただ残念ながら包丁やナイフを用いる所は全て素手による万能チョップで行っているので、その点だけは誰にも参考にすることも真似することも出来なかった。


 それ以外のフライパン捌きや火加減や調味料のさじ加減など、全て測りや時計を利用することなく、驚異的な正確さと速さで作り上げた。


 料理長以外の料理人達もこれには舌を巻き、料理長が何十年もの歳月をかけてようやく身に着けた技を一目見ただけで完全にコピーした美衣シェフに、これが宇宙一の料理人の技かと衝撃を受けた。


 彼等は例えばりゅう君と神代の結婚披露宴パーティーでの美衣の料理姿を全て隅から隅まで何度も見て美衣の腕前については重々承知していたが、こうして目の前で生でライブで見て、美衣の腕前は本当の本物のものだと真の意味で深く思い知った。映像で見るのと直にその場でその目で見るのとでは真実味という点において大違いだった。


 そして美衣オリジナルアレンジが加えられた一品を口にした途端、身体が勝手に条件反射的に目をギュッと閉じてしまう程の衝撃が走った。全員が「何だこの美味しさは!こんなにも美味しい料理がこの世に存在するのか!」と心の中で雷が直撃したかのような衝撃だった。そして咀嚼して飲み込んだ後には何故か涙が溢れてこぼれ落ちてきた。


 美衣は大事な宝とも言える郷土料理のレシピと作り方を教えてくれたお礼に、結構とっておきの食材を幾つかと今作ったレシピを与えたところ、あまりにも莫大な価値があり過ぎて、そんなにも素晴らしい品々ではとても釣り合いませんと恐縮したが、受け取らないのも無礼にあたると思い、どうしたものかと非常に困惑していた。


 給仕の者が気を利かしてすぐにロエデランデ家の現当主に知らせ、すぐに厨房に駆け付けてきて料理長に代わって深々と頭を下げて礼を述べて有難く頂戴いたしますと答えた。


 ロエデランデ家当主がこのような素晴らしい品々を頂戴したからには、こちらからも何かお礼返しをさせて頂きたいと言うので、美衣は困ったぞこれではキリがなくなると内心思ったが、すぐに閃いて、それならばこの地方の特産品の食材や調味料が欲しいと答えた。


 宇宙ポケットがあれば生鮮食料品でもずっと鮮度を保ち続けるので、そうした食材も欲しいと言った。それでも大分価値に差があるのだが、ロエデランデ家当主も一応これで溜飲を下げてくれることだろう。


 ちなみに当初の最大の目的であるアイとイリィーティアの交流は冴内達とは別行動でずっと進行中であり、離れの別館にあるイリィーティアの研究所兼住居にてずっとこれまでのことをヒアリングしていた。といってもその場にいるのは全員身体がロボットなので、実際に話しを聞かせているのではなく、光通信による大容量超高速データ交換をしていた。


 はたから見れば、3体のロボットが向かい合って静かにじっとしてただ目を明滅させているだけにしか見えなかったことだろう。


 冴内達はその日はロエデランデ家に宿泊することになり、ロエデランデ家の優秀な親族たちは冴内達に会えるという千載一遇のチャンスを逃すまいと、多忙なスケジュールをなんとかやりくりして、遠く離れていようとも、例え一目見るだけであろうとも構わず、ここぞとばかりに多額の移動費用をかけてやってきた。


 各界で相当に活躍している優秀なロエデランデ家の親族達はなんとか夜になる前に到着し、冴内達とのお目通りが叶うことになった。


 20人以上は集まったようなので、せっかくだからと美衣が張り切って寿司をご馳走すると言い出し、まだ宇宙ポケットに残っていた海鮮食材をふんだんに惜しみなく使って寿司を提供した。


 既に冴内達は夕食を済ませていたので、美衣は腹を空かして寿司を握りながら自分で食べてしまうこともなく、遠路はるばるやってきたロエデランデ家の親族達に寿司を披露した。


 冴内の故郷の世界に誇る最高の料理のうちの一つだと説明したので、皆とても興奮していた。


 彼等は生魚など食するのは初めてで、本来ならば不安もあっただろうが、何せその料理を作っているのは宇宙一の料理人である。例え口に合わなかろうが毒が入っていようが有難く頂くつもりだし、それ以前にそんな考えなど全くなく、さぞや美味しいものなのだろうという期待しかなかった。


 実際に目の前に出された料理は、まず非常に美しく光り輝いており、ほんのりと漂う香りも非常に上品で、その香りをかぐだけで口内に唾液が充満した。今回美衣は気を利かして醤油をあらかじめネタに塗布した。その理由は魚が最も美味しく食べられる最高の適量の醤油を美衣自らが味付けしてあげたからである。


 ちなみに優と良子はその間天ぷらを揚げており、こちらもまた非常に興味がそそられる料理であった。


 ロエデランデ家の者達は寿司を手に取り口の中に放り込んだ瞬間、やはり自然と目を閉じてウットリした表情で堪能した。口の中でホロホロとバラける酢飯と数回噛んだだけでとろける魚の甘味、酢飯と魚の味が交じり合うバランス、ただ生の魚を切っただけの料理なのにこれ程にまで芸術的な美味しさを持つことが信じられなかった。


 そして一度食べ始めると美味し過ぎて手を止めることが出来ず、どんどん次の寿司を食べて行った。


 途中で酢飯がなくなったので、その間優と良子が作った天ぷらを食べたのだが、これがまた衝撃的な美味しさで、表面のサクサクした食感の衣の中にプリプリしたエビとホクホクした白身魚とさらにイモやカボチャなどのほんのり甘味のある野菜が入っており、今回は天つゆではなく岩塩を荒く削ったものをつけて食べたのだが、塩だけの味付けにも関わらずその美味しさたるや想像を絶するものがあった。


 ロエデランデ家の者達は無理してスケジュール調整をし、多額の長距離超高速移動費を支払って来た甲斐は十分以上あったとしみじみ自分の選択が正しかったことを喜んだ。


 そして酢飯が出来上がったところで第二回戦が始まり、大いに舌と胃袋を満足させたのであった。


 そもそもゲストとして招待された冴内達なのに、その逆に自分達がもてなされたことに大変恐縮しつつも大感激して、遠縁に当たるロエデランデ家の各界で活躍する一流の著名人達も冴内に対して、金品等ではなく彼等自身の忠誠心という最大の贈り物を冴内に捧げることを決意したのであった。


 また、少々ヒマを持て余していた正子は画用紙を繋げて、その晩餐会の様子を色鉛筆で絵を描き、途中で色鉛筆セットがなくなってしまったので、初の分の色鉛筆セットをもらって、横3メートル程の絵を即興で完成させた。


 出来た絵は「きねんにあげるでしゅ」と実に気前よくロエデランデ家当主に言ったところ、その場にいたロエデランデ家一族は凍り付くほどに驚愕し、これ程までに素晴らしい芸術作品をいただいても良いのかと冴内に何度も確認したが、正子があげると言っているのでもらってくれると嬉しいですと答えたので、その場にいたロエデランデ家の人達は全員深々と正子に頭を下げて感謝した。


 その後夜8時過ぎになったので、美衣達は眠くなる前に風呂に入るということで、とても広い一面大理石の浴場にて豪勢な風呂を堪能して、大きなフカフカのベッドでグッスリと眠った。


 冴内も美衣達と同様に早く寝る習慣になっているので、優と二人で大きなベッドで寝た。さすがに人様の家のベッドなので夫婦のスキンシップは控えた。


 冴内達が寝静まった後、ロエデランデ家一族は今日起きた最高に名誉な出来事について一晩中それはもう大変な一族会議を実施することとなったのであった。

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