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445:アイの歴訪

 相次ぐ突然の早退と休暇でこのままでは父は会社をクビになりやしないかと少しだけ心配した冴内であったが、お金の面では心配ないはずの額を仕送りしているので、後は父のやりがいがなくなるのと名誉に傷がつかないかという心配が残った。なにせその原因を作っているのが自分なだけに。


 それを詫びた冴内であったが、父からは全く何の心配もいらないと言われ安堵した。


 そうして久しぶりに父らしい顔を見た気がして冴内は少し嬉しくなったのだが、家に着いた途端、その顔は一瞬で消えてなくなり、まさに天使そのものという程に可愛らしい孫たちを見るや、目じりも口元もすべて緩んでデレデレな表情になった。


 美衣達は新しい漢字練習帳とひらがな練習帳、そして冴内からリクエストのあったさんすうドリルが優に手渡され、全員大喜びで書き始めた。


 アイはその間冴内の両親に冴内が小さかった頃の話しをしてもらった。美衣達も途中で手を止めてその話を興味深く聞き始めた。


 母親が昔の写真アルバムを持ち出してくるとさらに全員興味津々で集まってきて、とりわけ優の関心度合いが非常に高かった。


「わぁ父ちゃん本当に初そっくりだ!いや、初が小っちゃい頃の父ちゃんにそっくりなのか」

「ホントだ!ボクがいるみたい!」

「お父さん、可愛い!」

「ねぇアイ!この写真全部スキャンして!」

「はい!分かりました!」

「アイがいてくれて良かったわ!今日はとっても来て良かった!今日の夕食は私が張り切ってご馳走を作るわよ!美衣宇宙ポケットを貸して!」

「分かった!」


 そうして優はとてもご機嫌な様子でキッチンへと向かっていった。


 ダイニングテーブルでは小さいので、リビングに背の低い大きなテーブルを用意して、いささか狭くはあるが全員床に座布団を敷いて座って食事をした。テーブルは正月などに娘の家族達がやってくる際に良く使用するものだった。


 美味しい食事を食べながら冴内の昔話が続いた。いたって普通のどこにでもありそうなありきたりな日常生活を送ってきた冴内の昔話だったが、そうした普通の人の平穏な暮らしぶりをその当事者たちから直に聞くことでアイはやはりその後の思考の核となる大事な何かを構築していった。


 さいしょの民達もそうだが、小さな家で家族が肩寄せ合って暮らしている様子はとてもかけがえのない心地良いものだということを深く理解した。


 食後、恐らく宇宙で最も高性能で優秀な人工知能ロボットのアイは皿洗いを手伝った。休んでいて下さいと言われた冴内の母は「アイちゃん達と一緒にやりたいのよ」と言って洗った食器を拭いたりしていた。その間も冴内の母はアイと優に色んな思い出話しを語って聞かせていた。


 話しをするのが好きな母にとっても、大好きな冴内の昔の話しを知ることが出来た優にとっても、血の通った母親の心境というものを知ることが出来たアイにとっても、全員に利益のある実に有意義な皿洗いだった。


 その間美衣達は小さなお風呂に入っていた。いつもは足を伸ばすどころか少し泳げるほどの大きさの風呂に浸かっているが、今日は美衣と初、良子と正子が交代で浸かる必要があった。それでもとても新鮮で楽しくワイワイキャァキャァ言って喜んで入浴していた。


 そんな孫たちの楽しそうな声を幸せそうに聞きながら父と冴内は少しお酒を飲んでいた。冴内は今日は昼間から結構酒を飲む1日となった。


 冴内が途中で眠り始めたので、今日はそのまま実家に泊まることになった。冴内の両親は大喜びで、布団の用意をした。ちなみに優は冴内をお姫様抱っこで抱き抱えて「私と洋は洋の部屋のベッドで寝るわね!」と言って運んでいった。一人用のそれほど大きくないベッドなのだが、まぁそんなことは問題にすらならないだろう。


 美衣達は客間で寝ることにした。狭い家でもまだ全員小さな子供なので客間のスペースには余裕があり、家主の当然の権利として冴内の両親も布団を敷いて美衣達と一緒に寝る権利を行使した。


 アイはロボットなので睡眠の必要はないのだが、自分の分の布団も用意されたので、せっかくの好意を無駄にしないために、アイも横たわってスリープモードに移行した。


 そうして全員にとって幸せな1日が終了した。アイにとっても非常に貴重な体験をした1日となった。


 翌朝、今日も会社を休もうかと連絡しようとした父を止め、今日はこれから富士山麓ゲート研修センターに行くので、いつも通り出勤してくれと冴内に言われ、あからさまに「えー」と言いたげな表情を見せた父であった。


 冴内の瞬間移動があるので、電車で通勤するよりもゆっくりしていられるので、ギリギリまで粘って美衣達との朝食のひと時を堪能した。といっても美衣達はいつも朝5時前には起きて朝食の用意をするので、結構な長い時間を堪能出来た。そのため父も溜飲を下げて納得満足して良い気分で出社した。


 ちなみに冴内が父を会社に送り届けると、玄関ロビーに会社の社長と昨日の取引先の会社の社長までもがやってきて冴内に挨拶してきた。


 二人とも昨日渡された隕石の欠片について、本当にこんなに価値のあるものを頂いてもいいのかと言ってきたが、冴内はいつも無理言って父を連れ出している謝礼ですと答えた。思わず口から「父をクビにしないで下さい」と出かけたが、色々とコンプライアンス的にもダメな気がしてそれは飲み込んだ。


 どうか応接室にてお茶でもと言われたが、この後富士山麓ゲート研修センターに行く用事があるのですと言って冴内は早々と退散することにした。


 冴内はいったん埼玉の実家に戻り、次に富士山麓ゲート研修センターに向かうことにした。冴内の母親は今回は別れが寂しくて泣くこともなく、また来てねと言って冴内達を笑顔で見送った。


 富士山麓ゲート研修センターに到着すると、センターの建物には入らずに、目の前の富士山をアイに見せた。アイも含めて全員空を飛んで富士山を眺めた。アイには飛行ユニットなどないのに、別の宇宙からやってきたばかりだというのに、重力制御飛行が可能なようだった。


「とても美しい山ですね、ここまで見事な綺麗な三角形の山が作られるのも珍しいです。恐らくこの場所は地震が発生する可能性が高いはずなのですが、麓には沢山の人が住んでいて街を形成しているのですね」


「そうだね、日本は地震大国だから昔から大きな災害が起きて、大変な被害にあった歴史が数多く残っているよ、そしてそれでも人々は歴史から多くを学んで共存してきたんだ」


「過酷な自然環境の中で生きていくために長い年月をかけてヒトの社会は発展していったんですね」


 次に冴内はアイを奈良ゲートから比較的近い吉野熊野国立公園へと連れて行き、ほとんど人が立ち寄らない森の中に入って、冴内が滝に打たれて修行した場所や山の頂で瞑想した場所を案内した。


「こういうのを確か・・・神秘的?と言うんですよね、大自然がもたらすパワーのようなものを感じます」

「そうそう、昔の人はこの大自然の中に身を置くことで心と身体を鍛えることをしたそうだよ」

「そうなんですね」


 自分の故郷である地球の日本を見せた冴内は、次にアイをみんなのほしに連れて行くことにした。


 みんなのほしのホールケーキセンターのエントランスホールに瞬間移動すると、ちょうど色んな種類の宇宙人達で賑わっており、今日も文化的交流が盛んに行われているようだった。


 宇宙人達はエントランスホールに飾られていたトゲトゲコスチュームを着せた洋さん石像を食い入るように見ていたが、突如本物が出現したので大いに驚きつつも大喜びして集まってきた。


 クリスタル星人と思われる人やマシーンプラネットの機械星人に、懐かしいドワーフのような見た目のドムゲルグフ星人もいた。


 手先が極めて器用なドムゲルグフ人はトゲトゲ洋さん石像の見事な出来栄えを大絶賛したが、それよりももっと遥かに素晴らしい芸術作品の洋さん石像が8体もあるのだと美衣から聞かされ、是非とも拝見したいと興奮した。


 残念ながら冴内達以外には行くことが出来ない別の宇宙に保管してあると言うと非常に残念がっていたので、今度持ってきてここに飾ろうと美衣は冴内の承諾を確認することもなく勝手に宣言した。


 冴内が「ちょま!」と、ちょっと待って!と言う間もなく、優を始め家族全員が賛成!と言い、その場にいた宇宙人達も全員拍手して喜んだので、冴内は撤回するわけにもいかず心の中で天を仰いだのであった・・・

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