441:パステル宇宙のジメン工場
結局その日はブラックが来たことの報告と今後の対応に関する会話と、後はひたすらマンガを読むという緊張感のなさで1日は終了した。
真面目に今後について何かしら作業していたのはさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機とジメンだけだった。
冴内達がログハウスに引き上げる際に、パステルは音声ガイドロボ2号機に日本語を教えてくれと願い出たので、音声ガイドロボ2号機は居残り残業決定となった。夜は正子の音読を聞くことが出来ないので自分でも読めるようになりたいという理由からだった。
さいごのひとロボ4号機は明日以降通信設備の研究開発を行うため、不思議世界ジメンにもベルトコンベヤー式工作機械や、超高性能光演算装置を設置するべく作業を行うと言い、美衣達に協力を要請すると全員から快く了承してもらえた。
そうしてログハウスに戻ると既に花子が夕食の支度をしており、今日はしろおとめ団のしろおとめ・元子と拓美がやってきて、第3農業地から預かってきたという米と納豆とその他の食材を届けてくれたとのことだった。
第3農業地はおとめ観光株式会社と専属契約しており、定期的に農産物を仕入れており、今日もそれらの品物の受け取りに行っていたとのことだった。
そしてどうやら第3農業地にいる青年の一人と元子は最近結構いい感じのようで、結婚も視野に入れているような雰囲気になっているとのことだった。
皆大いに喜んで賛成し、届けてもらった食料品にも大喜びだった。そして早速米などと一緒に送られてきた干し魚を使ったミリン浸けの焼き魚が食卓に並び、干し沢庵と豆腐と玉子焼きと具沢山味噌汁で新米の炊き立てホヤホヤのご飯をかきこんだ。
うんめぇうんめぇの大合唱で、あっという間にタップリ用意された料理を食べ尽した。
翌日、冴内と優は探知機の設置に出かけ、美衣達はさいごのひとロボ4号機の手伝いということで、ベルトコンベヤー式工作機械のある建屋と超高性能光演算子と演算子を製造する精密機械のある建屋にそれぞれ向かい、不思議世界ジメンにも同様の工作機械を設置するための作業に取り掛かった。
冴内にはあらかじめ全木製のゲートを開けておいてもらい量産型花子が見張りをして、間違って動物やさいしょの民達が入ってしまわないようにした。恐らく入ろうとしてもボヨンと弾かれると思われたが、一応用心のために見張りを立てた。
冴内は探知機設置作業をしているので、ゲートの枠内に収まるサイズの機械しか通過出来ないため、モジュールユニット単位で製作して運搬し、ジメンで組み立てることにした。どうしても1モジュールが大きくなってしまうものは、後でまとめで冴内に搬送してもらうことにした。
良子は超高性能光演算子の製造を行い、正子はベルトコンベヤー式工作機械にさいごのひとロボ4号機が指示する資源材料を乗せ、汎用作業支援ロボが全木製ゲート前まで運搬し、美衣と初がジメン内部に運んでモジュールユニットを組み立てた。
美衣はベルトコンベヤー式工作機械の組み立てを行い、初は超精密機械製造機械の組み立てを行ったが、二人とも以前も組み立て経験があるので、空間に投影した設計図面を軽く一瞥しただけで、スイスイ組み立てていった。
不思議世界ジメンはジメンが管理する特殊空間なので、雨風などの天候を気にする必要がまったくなく防塵などの対策も必要ないため、工作機械を納める建物を建築する必要がないので、作業はどんどん進んでいった。
尚、超精密機械の製造のために必要なクリーンルームもジメンの防壁を用いれば良いし、超純水の確保もジメンに言えば用意してもらえるという利便性の良さだった。
ちなみに美衣達が一生懸命働いている横で、パステルは夢中になってマンガを読んでいた。時折立ってシュッシュッ!とか言ってジャブを打ったりシャドーボクシングをしたりしていた。
作業の合間にその様子をチラ見した美衣と初は、自分達が汗水流して労働しているというのに、のんきにマンガを読んでいるとは何事か、こっちはお前の宇宙を救うためにこうして働いているんだぞ、とは全く思わず、パステルも自分達がハマった名作ボクシングマンガを読んで大いに気に入ってくれたみたいで嬉しくなりニッコリ微笑んでいた。
冴内と優が午前中の分の設置作業を終えたので、冴内は大型の機械部品を瞬間移動で搬送し、その後ランチタイム休憩となった。
食休み休憩中の談話にてどうやら夕食前には概ね工事は完了し、残りの作業は汎用作業支援ロボでも出来る作業なので明日には完全完了するとのことだった。ベルトコンベヤー式工作機械はこれまで何度も作って慣れているのが功を奏したようだった。
さいごのひとロボ4号機は不思議世界ジメンに精密機械工作設備が出来ればパステル宇宙初の超高性能光演算装置を作ることが出来、パステル産の光演算装置ならば、もしかしたら通信用プロトコルの解析もうまくいくかもしれないということに期待していた。
もちろんパステルが目下宇宙解析のお勉強をしている真っ最中で、その成果にも大いに期待しているとのことだが、冴内は名作ボクシングマンガを読むのがどれだけ貢献するのかいささか懐疑的だった。
そうして午後も各自作業を継続し、予定通りの進捗にさいごのひとロボ4号機は満足して、その日の作業を終了した。
明けて翌日、冴内達が不思議世界ジメンに到着すると、建屋がないので剥き出しの大きな工作機械が見事に二基完成していた。
これでわざわざさいしょのほしに戻らなくても、様々な物を不思議世界ジメンで製作することが出来るようになり、パステルの宇宙にはここまで高度に発達した科学文明を持つ知的生命体は存在していないので、パステルとジメンは大いに喜んだ。
『ワタシの宇宙を救ってもらえるばかりか、こんなに素晴らしい設備まで作ってくれるなんて、素晴らし過ぎて言葉もないよ。ワタシは皆さんにどうお礼をすればいいのか・・・』
『まったくおっしゃる通りです、私達からはどのようなお礼をすれば良いのでしょう・・・』
『いっそのことこの宇宙丸ごと全部冴内君達にあげちゃおうか』
『それもいいですね』
大分スケールの大きな話だが、権利書とか譲渡証明書とかはどうなるのだろうか。そもそもどこまでの権利があるのだろうか。
「アタイは美味しい食べ物のある星で食べ物をもらえればそれでいい!」
「ボクは色んなお星さまと友達になれればいい!」
「私も色んな星の色んなものと触れ合えればいい!」
「私は洋さえいれば他には何もいらないわ」
「自分もパステルさんとジメンさんが安心して過ごせるのならそれでいいです」
『どうしよう、ワタシ泣いちゃいそうだよジメン』
『私もです、冴内様達に来ていただいて本当に良かったですね』
「それよりもマンガ読んだか!?面白かったか?」
『うん!全部読んだよ!最高だった!』
「それは良かった!これでパステルさんもボクシングの素晴らしさが分かったことだろう!」
『それはもう、凄く良く分かったよ!』
「うんうん、そうだろう、そうだろう」
確か当初の大事な目的はパステルが冴内達の宇宙を理解するということだったはずだが、ボクシングの素晴らしさを理解してどうする。いやまぁ悪い事ではないが・・・
ともあれさいごのひとロボ4号機は早速出来たばかりの精密機械製造マシンを使って不思議世界ジメンでの第一号の超高性能光演算装置を作ることにした。
せっかくなのでパステル宇宙で確保した隕石と、宇宙連合及び、宇宙連盟のある宇宙で確保した隕石を用いることにした。ここで良子がせっかくだから地球の近くにある隕石も使ってみたらと提案し、自ら取りに行くといって冴内に木製ゲートを開けてもらい隕石を採掘しに行った。
良子は10分も経たず戻ってきて、4っつの宇宙から持ってきた隕石とそれに含まれる鉱物資源を使ってパステル宇宙初の超高性能光演算装置の作成を開始した。
果たして記念すべき第一号の出来やいかに。