43:別れ
ユニコーンは静かに近づいてきて、スリスリと顔をこすりつけてきた。鼻筋を撫でてやると気持ちよさそうな顔をしてくれた。
なんとなく早く乗ってよ!と言われてる気がしたので早速飛び乗ろうとしたがまたしても勢い余って反対方向に転げ落ちてしまった。
改めてユニコーンの背に乗るとユニコーンは森の中を駆け抜けた。よくこの大きな体でうまいこと進路を見分けるものだと感心する。
かなり速いペースで森の奥を駆け抜ける。山の方に向かって森を駆け抜けあっという間に森を抜けると今度はぐんぐん山を登り始めた。うん、こりゃ今日も昼は別行動だなと思った。
山の中腹あたりでちょっとした草原の広場になっている平坦な場所に出た。そこにはユニコーンが10頭くらいいた。あわてて携帯を掲げて録画モードにする。
全てのユニコーンの目が自分をガン見する。なんとなく「なんか、すいません」という気持ちになっていると一回り小さいユニコーンとさらに小さいユニコーンが2頭近づいてきた。一回り小さい方のユニコーンがすぐ近くまできて自分の前で頭を何度もペコペコ下げる。携帯を持ち換えて鼻筋を優しく何度かさすると優しい目をしたように見えた。それを見たもっと小さいユニコーンは自分達の周りをくるくる回り始めて、時折ピョンピョン飛び跳ねた。
小さい方のユニコーンが自分が乗馬しているユニコーンの横にぴったり寄り添いもっと小さい方のユニコーンは前に立って乗馬しているユニコーンと頭をこすりあっている。他のユニコーン達も近づいてきてずっとその様子を見ていた。
少しの間その時間が続いたが、山から暖かい風が吹いてきたとき、頭を上げてヒヒーン!と嘶いた。続いて小さな方もヒヒーンと嘶いて、もっと小さい方もヒヒーンと嘶いた。他のユニコーンもヒヒーン!ヒヒーン!と嘶きだしてしばらく続いた。
ひょっとして・・・家族と仲間に別れを告げているのだろうか・・・恐らくそうなんだろうと何故か分かった気がした。
最後にもう一度顔をこすりあって、さらに他のユニコーンとも軽くこすりあった後にユニコーンは背を向けてまた森の方に歩き始めた。止めようかと思ったが、なんとなくせっかくの決意に水を差すのはよくないと思ったのでそのまま歩かせた。
広場の端にたどり着いたときにユニコーンはいったん足をとめ後ろを振り返りヒヒーン!と嘶いたので自分も「さようならー!」と言った。背後のユニコーン達も皆ヒヒーンと嘶いていた。
山を下りてまた森に入り泉のところまでくると、ユニコーンが止まったのでなんとなく察して降りることにした。ユニコーンは泉の水を飲み始めたので自分は弁当を取り出して昼食をとることにした。時刻は午前11時過ぎだった。
弁当を食べている間ユニコーンは泉の近くにある何かの木の根元に生えている草を食べていた。昨日も同じものを食べていた気がする。
弁当を食べ終えて泉の水をマイコップで掬い飲んでいると、泉で出会った光の玉が『やさしい ひと しらせなきゃ』と言っていたことを思い出した。なるほど、これはユニコーンに知らせるということだったんだなウンウンと感心した。
残念ながらこれは見当違いである。
そう遠くない未来にこの認識が間違っていたことを知ることになるのだが、さすがにこの時の冴内にはそんなことはまったく1ミリも知る由はなかった。