427:デザイン決定
夕食は高級画用紙やスケッチブックのお礼ということで島根の叔父夫婦の家で美衣達が腕を振るいご馳走を作った。
少々せこい話しではあるが、画用紙代等で支払った金額に対して破格の返礼品となった。美衣手作りのご馳走料理はその食材も含めて恐らく金額に換算するととんでもない額になるだろう。
これでまた寿命が延びたと、まるで神に最大級の感謝をするかのように叔父夫妻は手を合わせて美衣達にお礼を言い幸福の絶頂に包まれながらご馳走を堪能した。
夜になったので冴内達は帰っていった。少しづつ冴内達が遠ざかっていくのではなく、瞬間移動ですぐに消えていなくなったので悲しむ間もなかったが、美衣達がいなくなって急に静かになった客間に残された叔父夫妻は寂しくなって涙が出た。
そんな叔父夫妻のことなど知る由もなく、美衣達は出来上がった虹色の宇宙最強の糸を見て大喜びし、明日はこの糸でバトルスーツを作るぞと大いに意気込んだ。
明けて翌日、朝食を食べて意気揚々とバトルスーツの製作に取り組んだ美衣達に思いもよらぬ試練が立ちはだかった。
美衣達が宇宙最強の糸をカットしようとしても全く切れないのだ。美衣と初の本気のチョップでも切れず、良子の何やら極めて危険な感じのする技でも切れず、優のライトサーベルと光のブレードをまとったレイピアでも切れず、それどころか冴内の渾身のチョップでも切ることが出来なかった。
「やっ!この糸強すぎて切れないぞ!」
「ホントだ!全然ちぎれない!」
「分子破壊をやってみてもダメみたい!」
「私の二本の剣でもまったく切れないわ!」
「さすがおとうたんのいとでしゅ、とてもじょうぶでしゅ」
「これじゃお裁縫が出来ない!こまったぞ父ちゃん!」
冴内は絶句して心の中でしまった!と叫んだ。ふと後ろを振り返ると、さいごのひとロボ4号機がガックリした様子で額に手を当てかなりうなだれているように見えた。そんなさいごのひとロボ4号機の姿を見るのは初めてだった。
「ごめんなさい洋お父様、虹色粒子をふりかけるまえに裁断しておけばよかったです・・・」(花)
「いや、その時はまだバトルスーツのデザインが完成していなかったから裁断出来なかったと思うよ」
「あっ、そうですね・・・」
「申し訳ない冴内 洋、まったく自分でも信じられないようなミスをしてしまった・・・大変申し訳ないが、もう一度元の素材から作り直そうと思うのだが良いだろうか」
「そうだね・・・」
「でっ、でも皆さん!これでその、この糸が最強の防御力を持つことが証明されましたよ!この糸でバトルスーツを作ったら服が破れることもなく、皆さんの防御力も宇宙最強になりますよ!」
音声ガイドロボ2号機がなんとか場を盛り上げようと必死にあれこれ訴えかけると、美衣達も気を取り直してその通りだと同意し、父ちゃんもう一度糸を作ってくれと冴内に頼み込むと、まぁ確かにもう一度作ればいいだけのことだねと言って、またしても島根の叔父に連絡した。
叔父はとても喜んだが、今日は自分と優だけで行くと言ったところ、急に明らかにテンションが下がり「そうか、あるだけもってけ」とかなりそっけない応えが返ってきた。
冴内と優は早速島根の叔父の家の裏庭に瞬間移動して、昨日と同じ要領で竹藪の竹を刈り取った。結局竹藪は全て刈り取って綺麗な更地になってしまったが、恐らく数年もすると元通りになることだろう。
さいしょのほしに戻り、ベルトコンベヤー式工作機械がある建屋に行って竹を取り出して適当な長さにカットしてどんどんベルトコンベヤーの端っこに置いていった。
竹を乗せる前に冴内はさいごのひとロボ4号機に防護服を使い切っちゃったけど大丈夫?と聞いたが、既に昨日成分解析は終了しているので問題なく、ストックしてある隕石を幾つか指定するのでそれを加えれば問題ないと答えた。
隕石はこれまでいろんな場所で沢山採取しておりストックは大量にあるので、取り出してさいごのひとロボ4号機がこれが良いと指示したものを仕分けしてベルトコンベヤーに乗せていった。
程なくして昨日と同じつや消しの黒い繊維の毛糸玉がどんどん出てきた。今回は裁断や裁縫出来るようにそのままの状態にしておくのだが、この状態でも地球の技術では裁断するのは相当に困難な程丈夫な糸であった。
出来上がった大量の毛糸玉を別のベルトコンベヤー式工作機械を使って布を作るようにさいごのひとロボ4号機が良子に指示した。
良子はその場で空間に高分子結晶が描かれた画像を投影し、糸をどのように編んで布にするか網目の設計図を作成し始めた。近くに建造されている超高性能大型光演算装置に搭載されているAIが無線でサポートしていた。
良子は丈夫で頑丈な生地と、伸縮性がある生地の二種類の設計図面を製作し終えると、2台の小型ベルトコンベヤー式工作機械にそれぞれの図面をインプットした。
美衣と初が毛糸玉を持ってそれぞれのベルトコンベヤー式工作機械に置くと、それは工作装置内部に運び込まれていき、やがてつや消しの真っ黒い布が反対側から出てきた。
正子が出来上がった2種類の布に触れて、丈夫な方の手触りや伸縮性のある方がどれくらい伸びたり縮んだりするか確かめ、バトルスーツのデザインに取り入れると言った。
さらに裏地用に肌触りの良いものも作れないかと尋ねたところ、良子はそれならついでに保温性が良いものと通気性の良いものも作ろうと言って、追加で2種類の生地の設計を開始した。
そうして家族総出で今度は繊維業を営んでいるような状態になった。
こうして昼までに全ての素材を使いきって、丈夫な生地、伸縮性のある生地、肌触りが良く保温性のある生地と通気性のある生地の4種類の布が完成した。
昼食後は正子のデザインスケッチの発表会と選考会が行われた。
機能を優先するならばやはり上下一体型がつなぎ目がない分最も強固な防護服になるということで、満場一致で採択された。
ファッション性を意識したデザインも多数あり、中には可愛らしいまるで魔法少女のようなコスチュームもあったが、一応それらも生地が余ったら作っても良いが、まずは防御性能が最も良いものを作るのが先決だということで、ファッション性は皆無で見た目は全身タイツというか頭部も覆われているのでダイバースーツのようでもあるバトルスーツを作ることにした。
ちなみに昨日作ってしまった虹色の宇宙最強の糸は糸を何重にも束ねてねじりを加えて宇宙最強のロープを作り、さいごのひとロボ4号機のウィンチワイヤーとして搭載されている超強力軽量カーボンナノチューブと交換した。さいごのひとロボ4号機もこれだまた一段とスペックアップすることになった。ロープだけの性能でいえば大型航宙艦だろうが人工惑星の巨大要塞だろうがまったくちぎれることなく牽引出来るだろう。
正子がデザインしたスケッチを美衣がまさに写真そのものといった感じでクリンナップして、家族全員が着込んだ姿を描いた。
音声ガイドロボがその絵を見てスキャンし、近くにある大型超高性能光演算装置にデータ送信し、良子がすぐに空間に画面を投影し、送信された画像データを元に3D立体画像を作成して映し出した。
良子は3D画像に虹色を着色して完成予想図を作りだし、等身大の冴内、優、美衣、初、良子、正子を空間に映し出した。
その様子はまるで1960年代後期から70年代前半に海外のアーティスト達の間で流行したサイケデリックなもので、当然冴内はそのようなものは1ミリも知らず、爆笑コメディ映画とかお笑い芸人が着るような衣装にしか見えず、これを着るのには精神的にかなり辛いものがあった。
「これは素晴らしい!全く無駄のデザイン!究極のスーツだ!そして父ちゃんの光り輝く虹色の美しい色合い!まさしくこれこそ我が家の正式なスーツだ!」
「ボクもそう思う!早く着てみたい!」
「そうね!私も早く着てみたいわ!」
「私実はちょっぴりしろおとめ団のお姉さんたちの衣装が羨ましかったの、私もあんな風にお揃いの服を着てみたいなって、でもこれで私も家族お揃いの最高の服が着れるからとっても嬉しい!」
「ワタチもはやくきてみたいでしゅ!かぞくおそろいでしゅ!しかもうちゅうさいきょうでしゅ!」
冴内は一人だけ心の中で天を仰ぐ気持でいっぱいだった。もちろん美衣達とは逆の思いで・・・