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425:バトルスーツ

 昼になったので、冴内達はそのままランチタイムとすることにした。昼食は花子が石窯でピザを焼いてくれて、様々な具材がトッピングされており、チーズはもちろん放牧している大人しいモフモフ動物の乳から作った自家製チーズである。ちなみに石窯はいつの間にかさいしょの民達が作ってくれたようである。


 美衣達はトレーニングで相当激しく動き回っていたのでピザを軽く10枚もペロリと食べた。


 食後、不思議世界ジメンに残って空間投影機の残骸を分析していたさいごのひとロボ4号機に丈夫なバトルスーツを作りたいのだが素材や作り方などどうすればいいか相談した。


「繊維構造として強靭なのは炭素素材、君達の技術用語で言うところのカーボンナノチューブを応用すれのが最適だとは思うが、それでも天体爆発並みの衝撃に耐えうるかと言われれば無理だ。以前冴内 洋達が試練の門で手に入れたシルクワームの最強の絹糸ではダメなのか?」


「あっ、そういえばあれがあった!」

 美衣は早速宇宙ポケットから以前試練の門「この世の地獄」の第二の試練でかいこワームを倒した時に手に入れた最強の絹糸で作ってもらった防護服と余った糸で作ってもらった下着も取りだしてその場で着込んだ。


「美衣お姉ちゃんカッコイイ!」


 その防護服は神代が世界で活躍する一流日本人ファッションデザイナーに、動きやすくそれでいて神にも等しい美しさを誇る存在が着用するのに相応しいものになるよう依頼し、道明寺自らが指揮を取りクラフトスキルを持つゲートシーカー達を動員して編み出した現時点で最強の防護服であった。


「父ちゃん!これで少し稽古をつけてくれ!」

「えっ!う・・・うん、分かった・・・けど、お手柔らかに頼むよ」


 明らかに立場が逆の発言をする冴内であった。


 ジメンがトレーニング空間を作成すると、普段着の冴内と防護服を着た美衣と画用紙と色鉛筆セットを持った正子が入っていった。絵的にかなりシュールな光景だった。


「アタイはチョップガードで防御するから、父ちゃん攻撃してみてくれ!」


 チョップガードなんて技あったっけ?そもそもチョップでガードってどうやるんだろう、などと考えた冴内であったが、美衣が攻撃してこないようなので少しホッとするというなかなかに情けない師匠ぶりだった。


「どうしよう、力加減が難しいな・・・どれくらいの力で攻撃すればいいのかな?」

「大丈夫だ!死んだらみらくるみっくちゅ・・・ミラクルミックスジューちゅ、ミラクルミックスジュースで生き返らしてくれ!」


 別に3回も言い直さなくても良いが、死んでも生き返らせてくれという訳にはいかなかった。


 実の親が修行とはいえ一度自分の愛する娘をこの手で殺めて、強制的に生き返らせるというのはスパルタ教育の範疇を超えており、社会通念道義的倫理的にアウトだ。


 さいごのひとロボ4号機が助け舟を出して、防護服の防御力を調べるのが目的だからとりあえず段階的に少しづつ威力を強めていくのはどうかと提案したところ、冴内も美衣もなるほどと納得した。


「うん、それなら出来そうだ、じゃあ行くよ!」

「よしこい!」


パッ、・・・ハラリ・・・


「・・・!!」(美)

「・・・!!」(正)


 パッ、ハラリで何が起きたのか分かる人などいないと思われるので何が起きたのか説明すると、冴内が何気なくノーモーションで振り下ろしたチョップがその部分だけ映像が途切れて、まるでコマ落ちしたアニメーションのようになったので、全員が?と思ったところ、その2秒後くらいに美衣の防護服の前面が綺麗に真っ二つに裂けたのだ。ちなみに二人の距離は大体5メートル程である。


「えっ?」(冴内)

「・・・」(美)

「・・・」(正)

「「「 ・・・ 」」」(全員)


「父ちゃん・・・もうそんな遥か遠いところまで到達してしまったのか・・・今のアタイ達じゃもうどうにもならん・・・果たして生きているうちにアタイらはそこまでの領域に達することが出来るだろうか・・・」


「ワタチにもみえなくてかけないでしゅ、はやしゅぎてみえないというれべるじゃないでしゅ、おとうたんがなにをしたのかわからないからみえないみたいでしゅ」


「えっ、いや、普通にこう、振り下ろしただけなんだけど・・・」

「それでもアタイは身動き一つ出来なかった、目で見ても分からなかったし、予測すら出来なかった、手も足も出ないっていうのはこういう意味だったのか・・・日本語はすごいな・・・」


 そう意味ではないような気もするが、間違ってもいないかもしれない。


 さいごのひとロボ4号機が防護服の切断面を分析したいというので、美衣達はトレーニング空間から出てきて、美衣は防護服を脱いでさいごのひとロボ4号機に手渡した。


「なるほど、これも一応炭素繊維ではあるが、超々高分子量繊維になっているようだ。しかしこれでもこうも易々と切断できるものなのか・・・」


『すごいね冴内君、ワタシにはさいごのひとさんが言ってるなんとか繊維については良く分からないけどそんな強い繊維すら何気ないチョップで切断しちゃうんだ。もう冴内君には切れないものなんてないんじゃない?その気になったら星ごと切断どころか宇宙空間そのものすら切断しちゃいそうだね』


「さすがおとうたん、ぜんうちゅうのちょっぷ、れべるまっくちゅでしゅ」


 ちなみにしろおとめ団達のユニフォームでもあるバトルスーツは試練の門「最高に難しい」の第1ステージ攻略のボーナスアイテムだったが、美衣が着ている防護服よりも防御性能は劣っている。


「これよりも丈夫な繊維はさすがに宇宙連合でも存在しない。この後さいしょのほしに戻って宇宙連盟に駐在している3号機にも問い合わせてみるが、恐らく宇宙連盟にも存在しないだろう」


「洋様のチョップを防ぐ程とはいかないまでも、超新星爆発程度の衝撃に耐えられるものは作れないものでしょうか?」(音ロボ)


 超新星爆発の衝撃力よりもチョップの方が強いという相当おかしな発言をする音声ガイドロボ2号機ではあったが、特に頭脳回路が壊れているわけではなかった。


『あっ!ワタシ閃いた!冴内君が作ればいいんじゃない?』

「えっ?ボクですか?ボクは糸を編んだり口から糸を吐いたり出来ませんよ?」


 口から糸を吐くとか冴内も相当にアレな発言をするが、以前パステルと融合して蝶々のようなパピヨン冴内になった冴内ならば、おかいこさんやクモのようになって糸を産み出せるかもしれない。


『そのなんとか繊維に冴内君が虹色の粒子を纏わせるとかして強く出来ないかな?』

「ホウ、それは面白いアイディアだ」

「そんなこと出来るのかな?」

『物は試しだ、やってみてよ!』

「美衣、私の防護服を出して!」(優)


 美衣は優の防護服と下着を取り出して優に手渡すと優はその場で着替えた。


「はい洋!虹のつぶつぶで私を包み込んで!」


 ジメンは繊維に虹色粒子をコーティングしたらどうかと言ったのだが、優は自分を包み込んでくれとかなり異なる発言をした。冴内の優しく温かい虹色粒子に包み込まれたいだけのようだった。


「えーと・・・ちゃんと出来るか分からないけど、やるだけやってみるか」


 冴内は右手を掲げると虹色の粒子が優の頭の上から降り注いできた。以前は結構しっかりとポーズを決めて強く念じなければ虹色粒子は出てこなかったが、冴内がその時からさらに成長したのか、それともそれほどフルパワーじゃなかったからなのか、何気ない所作だけで虹色粒子が優を包み込んだ。


「わぁ、温かい、いい気持ち・・・」


 優は心地よさそうに目を閉じて虹色粒子シャワーを浴びた。程なくしてシャワーがおさまると防護服がパステル調のレインボーカラーに変色していた。


「やっ!防護服が虹色になった!これは強そうだ!」

「お父ちゃん、さっきのチョップやってみて!」

「いいわよ洋!洋にやられるなら本望よ!でも、その後みらくるみっくちゅ・・・ミラクルミックスジューちゅ、ミラクルミックスジュースで生き返らせてね!」


 優も3度も言い直したが、冴内は頷いて先ほどと同じようにチョップを振り下ろしてみせた。


 果たして優の防護服も真っ二つに裂けて、サービスお色気シーンになるのだろうか。

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