422:作戦変更
さいしょのほしの冴内ログハウスでは、今日も温かな朝日が差し込んでくるのと同時に6つの腹時計アラームが一斉に鳴り響いた。
真っ先に美衣が飛び起きて、すぐに1階のキッチンへとすっ飛んでいった。昨日は夕食をたらふく食べたはずなのだが、1日中肉体労働したのでいつもよりお腹が空いていたのであろう。
オリジナル花子と量産型花子小隊からとれたての新鮮ミルクや玉子やハチミツや野菜をもらい、さらに熟成させて燻製していたベーコン肉を使って美衣はごく普通のモーニングを普通じゃない量作った。
ベーコンエッグの焼ける匂いでたまらず冴内達も1階に降りてきて、ダイニングテーブルについて今か今かと朝食の登場を待ち望んだ。
トーストと自家製バターのとろける香ばしい匂いもたまらなく、同じくお好みで自家製とろけるチーズやハチミツをのせた。
フレッシュ野菜サラダも美衣のドレッシングにかかればご馳走になり、ゴロゴロ野菜とブツ切り肉のトロトロスープもそれだけでいくらでもパンが食べれるご馳走だった。
冴内達は朝から盛大に食卓に並んだ朝食を物凄い勢いで満面の笑みを浮かべて食べていった。
食後のフルーツてんこ盛りも残さずたいらげて、美衣達は空間投影機の自動生産工場の建造に行き、冴内と正子は空間投影機の設置に出かけて行った。
ちなみに今いる宇宙から直接パステル宇宙に瞬間移動することは出来ず、不思議世界のジメンを仲介する必要があった。まだそこまでこちら側の宇宙との親和性は高くないようだった。
パステル宇宙の中でもとびきり巨大な銀河トップ100とかとびきり美しい銀河トップ100など、それなりに目立ちやすい銀河については既に初日に空間投影機を設置したので、これからは把握しやすい区画ごとに効率重視で設置作業に取り掛かろうと思うと、パステルから説明を受けていたところ、優がさいごのひとロボ4号機を連れて冴内達の前に出現した。
すぐに何かが起きたなと肌で感じた冴内はさいごのひとロボ4号機からの説明を待った。
「空間投影機が破壊された。そのうち2か所は残念ながらリング星雲ごと消滅した。それ以外で現在24か所の空間投影機が破壊されていることを確認した。そしてそのルートからこちらに向かっている可能性が極めて高い。あくまでもこのままの進行速度を維持した場合の予測到達時間はおよそ半年から3年以内の間であるという計算結果が出た。リング星雲ごと消失した宙域はほぼ互いに正反対の方向にあるので、まず間違いなく少なくとも2体の暗黒魔王が挑発に引っかかったと断定する」
さいごのひとロボ4号機は現時点で判明していることを端的に簡潔に冴内に説明した。
『すごい!もう引っかかったんだ!冴内君の挑発動画がそれだけ効果があったってことだね!それにこの作戦も見事だよ、アイツら本当に思った通りバカだからすぐに引っかかったね!』(パ)
『はい、それも半年から3年以内の間に接触するかもしれないなんて予想外の早さです。当初は問題解決には百万年単位でかかると思っていたので、この状況は信じられない程に素晴らしい状況です』(ジ)
「この中にもう一体はいると思う?」
「ウム、その可能性は低いと考える」
『多分それはブラックだと思うよ、アイツもバカだけど用心深いから様子を見ているのかもしれない』
「そうなんですね、ということは赤いのと青いのがこっちに向かってるってことか」
『ブラックも用心深く、こちらに気付かれないようにして向かっているかもしれませんね』(ジ)
「なるほど・・・だとしたら厄介だ。そのブラックとやらの到達時間が予測出来ない」
「この近くに探知機とかを設置したらどうかな?」
「ウム、赤と青と思われる相手の移動速度から恐らく相手はそこそこの距離のワープを使用していると推測されるので、それを見越した複数個所の地点に探知機を設置しよう」
事態が予想以上に急展開したので、冴内達は空間投影機の生産と設置をストップし、代わりに自動生産する機械の設計図を探知機に変更して複合センサー搭載探知機を生産することにした。
パステルはジメンと協議して、どの位置に探知機を設置するか検討し始めた。
良子はさいごのひとロボ4号機と一緒に探知機の設計図について検討を開始した。
それ以外のメンバーはすることがなくなってしまい、退屈なので壊れされた空間投影機の場所に行ってどうなっているのか確認しに行くことにした。
うまくいけば何か手がかりが掴めるかもしれないということで、空間投影機の残骸などがあれば回収してきて欲しいとさいごのひとロボ4号機から頼まれた。
冴内はふと思いつき、赤と青の進行ルートが分かればこちらから出迎えに行くことは出来ないだろうかと提案したが、相手の気分次第でルートが不規則になっているのと、一回のワープの移動距離もまちまちなので、そう簡単に接敵することは出来ず、下手すると入れ違いになる可能性もあるので現状ではあまり効率的ではないという答えが返ってきたが、一考の余地はあるので検討材料としては残しておくとのことだった。
そうして冴内と優の二手に分かれて、壊された空間投影機の状況を確認しに行くことにした。
グループは冴内と正子、優と美衣と初という構成で、パステルが用意した宇宙銀河マップに印を付けて毎回必ず不思議世界ジメンに戻ってから次の地点に行くという決まりを作った。
どちらも単独で宇宙を破壊、もしくは冴内あたりは修復すら出来てしまうのではないかという程の力量を誇るメンバーが内在しているので、まず赤と青に後れを取ることはないはずだが、それでも一応用心するということで、互いに必ず毎回ジメンに戻ってきてお互いを確認してからまた次の宙域に行くことにした。
もしも一定時間が経過しても片方のメンバーがジメンに戻ってこない場合は不測の事態が発生したとみなし、応援に駆け付けることにした。
これは結構な緊張状態になった訳だが、美衣と初などはかなりワクワクした様子で、こりゃ面白いことになったぞと実に嬉しそうだった。
相手はリング星雲を簡単に消し去ることが出来る程の恐ろしい存在なのだが、美衣も初も早く赤いのか青いのに会いたくてしょうがないといった感じだった。
そうしてとりあえず最初のリング星雲ごと消失した宙域に冴内達は移動して調査を開始した。
どちらも空間投影機どころか数日前まで綺麗なリング星雲だった跡形もなく、宇宙のチリ一つない状態だった。
冴内が向かった方はリング星雲以外にも惑星が破壊された跡があり、冴内は少しだけ悲しい気持ちになった。冴内に抱っこされていた正子はなんとなく雰囲気を察して冴内に優しく抱き着いた。
「ワタチもましゃこになるまえはこういうことをちていたんでしゅ・・・ごめんなしゃいでしゅ」
少し涙目の正子を見て冴内も優しく正子を抱きしめた。
冴内は破壊された惑星の残骸にむけて少しだけ虹色粒子を放出すると、不思議世界のジメンへと戻った。
一方の優達のチームはというと、リング星雲が消失したことは残念に思っていたが、周辺の状況から絶対零度のブレスで凍結された星の欠片を発見し、恐らくこっちには青いヤツがいたのだろうということで、初は少し嬉しそうにして低温やけどの危険も何のそので凍結した欠片を手で掴んで状況証拠品として持ち帰ることにした。
そうして当初の決め事通り、いったんジメンに戻って互いを確認し合ってから次の調査ポイントへ向かうということを繰り返して、現場から残骸が残っている場合はそれを持ち帰った。宇宙ポケットは冴内が美衣から借りて残骸を格納し、優は魔法の重力制御を使って残骸をまとめて運搬した。
昼までに24か所全ての調査ポイントに向かい、回収できるものは全て回収し、特にトラブルもなく無事調査を完了してジメンの元へと戻ってきた。




