421:赤と青
冴内達が充実した1日の労働を終えて至福の眠りについている頃、パステル宇宙銀河のとある宙域では非常に不愉快な気持ちで漂っている存在がいた。
それは暗黒魔王想像図で描かれた魔王の中でも赤い色をした者で、その姿はまさにイメージ図通りの容姿をしていた。
その者が現われたのは冴内達が初日の午後に空間投影機を設置した宙域で、同じ銀河系内の片隅にある惑星で眠っていたところを何やら妙な音が微かに脳内に聞こえてくる気がして、音の発信源を探っていたところ空間投影機が設置されたリング星雲に辿り着いたのであった。
この宇宙でそのようなものを見るのは生まれて初めての事だったので最初は非常に驚いた。
しかもその者が見たのは、たまたまループ再生で美衣達が美味しそうなものを食べているところで、最初は意味不明理解不能だったが、うまいうまいと心から本能のまま美味しそうに食事をする姿を見て、思わずその赤い者も口内に涎が充満してきたのだった。
そして美衣達が食べていたのがその赤い者の大好物の肉だったので、赤い者は画面を食い入るように見た。赤い者が食するのは大抵生き物の形をしたままの肉なので、画面の中に出てくるカットされた一枚の肉、それも焼かれて調理されたものを見るのは初めてだった。
赤い者は画面に手を伸ばし、美味しそうに食べている肉のようなものを奪おうとしたが、全く触れることも出来ず首を傾げた。そしてその後出てきた魚と何かの植物には全く興味はなかった。
何だこれは?とさらに近づいてみるとどんどん映像が大きくなるだけで、一向に目の前にいる存在に接触することが出来ないので不思議に思っていたところで、画面が切り替わり全身トゲだらけの冴内が登場した。
赤い者は咄嗟に離れて距離を取り身構えた。するとその画面に現れた自分と同じようなトゲだらけの存在は、次の瞬間全身のトゲがなくなった不思議な姿に変わり様々な強敵を次々と倒していった。
赤い者は全く何が起きているのか分からずにいると、暗闇から虹色の渦巻きが出てきて、その渦巻きの中からまたしても全身トゲだらけの冴内が出現した。しかも今回は自分をまっすぐ見つめて威圧してきた。
赤い者はその姿を変身させ、トゲと尻尾はさらに鋭く長くなり硬い表皮はまるで装甲のようになり、低い唸り声を上げた。
すると全身トゲだらけの冴内は赤い者に向かって、赤い者を見下し嘲る様な表情でお前は弱い生き物だと言い放った。
それを聞いた赤い者は激昂し、灼熱のブレスを冴内に向かって吐いた。
赤い者が誇る1兆度を超える灼熱のブレスを受けてもその全身トゲだらけの存在は消えることなく、余裕の笑みを浮かべ、くやしかったらかかってこいと赤い者を挑発してきた。
赤い者は狂わんばかりの雄叫びをあげ、何度も冴内を切り裂いたがまるで手ごたえがなく、程なくするとまたしても美衣達が美味しそうに肉を食べるシーンが始まった。
赤い者はピタッと止まり、またしても美衣達が美味しそうに食べる肉を凝視して生唾を飲み込み、何度も奪おうとしたが、やはりそれを奪うことは出来ず、自分はただ見ているだけで、目の前にいる不思議な生き物達は自分を無視してひたすら美味しそうに肉を食べ続けていた。
赤い者はさらに一層顔を赤らめ、頭から湯気が出始め、こめかみの辺りに血管が浮かび上がり、目はつり上がり充血し、かつてない程の怒りの感情が湧き上がり、両手を口の前に掲げると口と両手の間に真っ白く光り輝く球体が出現し始めた。
カァァァ・・・と力を込めていくと真っ白く光り輝く球体はさらに輝きを増し、その周辺にはプラズマの稲光が輝き始め、やがて臨界点に達したその瞬間、光の球体は真っ直ぐ前方に向かって極太の白い閃光のビームを撃ち放った。
その一撃で空間投影機はリング星雲もろともチリ一つ残さず消失した。
実に不愉快な存在はその一帯から消え去ったが、それでも赤い者は怒りが収まらず、近くに存在する星々を手あたり次第に木っ端微塵に消し去った。
やがて赤い者の怒りが少しおさまったところで赤い者は静止し、何かを考えているようだった。
赤い者の脳裏では先ほどの不愉快な映像が残っており赤い者は顔を歪めたが、その中で大事な何かがあることを思い出そうとしていた。
赤い者は宇宙空間で静止したまま目をつむり怒りで見過ごしていたシーンを必至に思い出そうとしていた。
そしてそのシーンをハッキリと思い出した。
「くやしかったらかかってこい」
そしてその後、幾つか見覚えのある形の銀河渦巻きが沢山描かれた絵が出てきて、その真ん中に強く光り輝く箇所があり、やがてその部分が大きくなって点滅し、オレはここにいるぞという声がしていたことをハッキリと思い出した。
赤い者は薄目を開けて、酷く歪んだ笑みを浮かべるとゆっくりとその場から飛び去って行った。
一方全く別の銀河においても同じように挑発動画を見ていた存在があった。
それは暗黒魔王想像図で描かれた魔王の中でも青い色をした者で、その姿もやはりイメージ図通りの容姿をしていた。
青い者はとある水の惑星にて、その海に生きる大型の生き物を死滅させるほど暴虐の限りを尽くし、満足げに残虐な笑みを浮かべたところで、何かの声が自分の頭に直接聞こえてくるのを感じた。
その時点で非常に不愉快な気持ちになった青い者は、すぐにその音の発生源を突き止めるべく移動した。
今いる銀河の中心部に近いところから聞こえてくるのが分かり、青い者は何度もワープして銀河の中心部へと向かった。
やがて一際明るく光るリング星雲を見つけ、本来ならばその中央部は暗いはずなのだが、何やら動く光が見てとれたので、青い者は用心深く警戒しながらリング星雲へと近づいた。
すると何やら見慣れぬ生き物達が青い者の大好物の魚を見たこともない状態にして食べている様子が見えた。
青い者は大きな魚を生きたままそのままの姿でかぶりつくのが好きだったが、その生き物達は何故か魚を小さく切って見たこともない白い粒々の上に切り身をのせて、何かの液体につけて食べていた。
生き物達はとても美味しそうにその小さな食べ物を食べており、思わず青い者は生唾を大きくゴクリという音を出して飲み込み、その食べ物を奪おうとして手を伸ばした。
しかし奪い取ったはずの手には何もなく、見たこともない生き物達は相変わらず美味しそうにバクバクと青い者を無視して食べ続けていた。
青い者は激昂し、絶対零度のブレスを吐いた。分子レベルで何もかも凍結して死滅させる死のブレスだった。
しかし相変らずその生き物達は美味しそうに食べ物を食べ続けていた。今度は青い者にとっては全く興味のない何かの植物を食べていた。
青い者は何だこれは?と不思議そうな表情をして動きを止めてしばし眺めていると、突然真っ暗闇になり、そこから虹色の竜巻が出てきて、さらにその竜巻の中から全身トゲだらけの強大な力を感じる何かが出現した。
青い者は咄嗟に離れて距離を取り身構えたが、次の瞬間さっきまで全身トゲだらけだった存在は突然トゲがなくなった不思議な姿に変わり様々な強そうな相手を次々と倒していった。
青い者は全く何が起きているのか分からずにいると、もう一度全身トゲだらけの存在が出現し、今度は自分をまっすぐ見つめて威圧し、自分を見下し嘲る様な表情でお前は弱い生き物だと言い放った。
青い者は怒り狂い赤い者の時と同じようにリング星雲を消滅させた。
その後の行動も赤い者と同様で、しばらく静かにその場にたたずんでいたかと思うと、口元を醜く歪ませた表情でその場から移動し始めた。