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414:誕生日プレゼント

 翌朝、朝食を終えた頃にアリオンが迎えにやってきてくれて、あちこち観光しながらゆっくりとゲートビレッジまで戻った。


 途中、以前アリオンと一緒に食べた美味しい梨に似たひょうたん型の果物がある場所に立ち寄って食べて、お土産用にもいくつかとって帰った。


 わずか1年前のことなのにどこか懐かしい感じのする草原に着くと、薬草取りをしているお婆さんがいたので久しぶりに挨拶すると、優を見てにこやかな笑顔でウンウンと頷いて幸せそうで何よりだと言ってくれた。


 お婆さんに大きなひょうたん型の梨に似た果物を一つあげると冴内は瞬間移動してさいしょのほしのログハウスへと戻った。


 美衣達とさいしょの民達に囲まれて冴内の両親はデレデレのデレ状態で、もう既に半分以上身体が溶けてスライムになっているのではないかというくらい、美衣達の可愛らしさと愛おしさで溶けてしまいそうになっていた。


 美衣が冴内の両親から買ってもらったパステル色鉛筆でほぼ写真に等しい二人の肖像画を描き、正子が見た目2歳児らしい抽象画か印象画のようなエキセントリックな二人の絵を描き、美衣からは自分はこういう個性的な絵を描けないので羨ましいと評されたが、冴内の両親にとってはどちらも最上級の宝物だった。


 初は上手に絵を描けないので、気持ちを込めたお手紙を書いて冴内の両親を号泣させ、良子からは二人の健康を管理するバイタルチェッカーマシンが渡され、もういつ死んでも構わないという良子のプレゼントが台無しになるセリフを口にした。


 別れを惜しむ両親を明後日の美衣の誕生日プレゼントにまた夕方迎えに来るからとなだめつつ、母は実家に送り返し父は勤め先の会社の玄関ロビーに送り届けた。


 若干父の表情が仕事に行きたくないという絶望感を訴えていたかのように見えたが冴内は心を鬼にして会社に届けた。ちなみに会社の送り迎えについてはもはや冴内も父親も隠すことなく堂々と父が勤める会社の玄関ロビーに瞬間移動していた。


 受付嬢がすぐに重役を呼び出し冴内にいつもお世話になっておりますという見た目的には完全に真逆の対応をされて、ふと昨日お土産にとってきた大きなひょうたん型の梨に似た果物を瞬間移動でとってきて、よかったら皆さんで食べて下さいと言って、二つ程手渡した。


 ゲート世界の物はかなりの価値があるので、重役は目を丸くして驚き、重ねて礼を言ったが、森になっていたのをただもぎとってきただけなので気にしないで下さいと言い、それでは父をよろしくお願いしますと言って瞬間移動でさいしょのほしのログハウスへと戻った。


 これで冴内の父は今後も私用で急遽有給休暇を取得しようが相当なヘマをやらかそうがクビになることはなくなることだろう。それどころか定年退職後も嘱託勤務として継続勤務することを強く要望されることだろう。


 ログハウスに戻った冴内は美衣達に結婚記念日はどうだったと聞かれ最高だったとご機嫌な様子で応えていた。二人でアリオンに乗ってあちこち美しい自然の景色を見て回り、その後は現地で調達した食材でご飯を作って食べただけのことなのだが、そうしたことが冴内家の者達にとっては一番幸せなことだった。


 そんな家族達の様子を見た冴内も実に嬉しい気分になったが、明日の美衣の誕生日プレゼントをどうするかという昨日棚上げにしていた重要案件を思い出しまたしてもいささか頭を悩ましていた。


「明日はアタイの誕生日だ!アタイも父ちゃんと一緒に二人っきりで愛の夜を過ごすぞ!」

「ダメよ美衣、誕生日は皆でお祝いするものなのよ」

「しまった、そうだった!父ちゃんの記憶もそんな感じだった!」

「え、えーと・・・美衣はその、何か欲しいものとかってあるのかな~?」


 どさくさに紛れてきわめていつもの調子とは異なる口調でしれっとさり気なく聞いた冴内だった。


「う~ん欲しいものか・・・美味しい食材と珍しいレシピ・・・いや、皆がくれるものなら何でも嬉しいぞ」


「ボク何かおいしそうなたべものさがしてくる!」

「ワタチはみいおねえたんのえをかく!」

「私はバースデーケーキを作るわね!」

「私は可愛いエプロンを作りますね!」

「あっそれじゃ私は可愛いミトンを作る!」

「えっと・・・僕はえーと・・・そうだ、クッキングブックを買ってくるよ」


「やった!皆ありがとう!お父ちゃんレシピ本楽しみにしてるぞ!」


 冴内だけハードルが上げられた。


 ともあれ、早速全員各自行動を開始した。


 皆自分達で創意工夫して自分の力で美衣の誕生日プレゼントを製作したり調達していたが、冴内だけは他力本願で調理本が充実している専門の本屋がないか、多忙を極める日本のゲート局長である神代に泣きつくというていたらくであった。


 しかしそこはさすがの神代、独自の情報網と人脈を駆使してすぐに折り返しで日本でも最高の料理本の専門書店を地図情報と共にデータ送信してきてくれた。


 冴内は即座に瞬間移動してその書店に行き、まさに神代の言う通り世界各国ありとあらゆるレシピ本がズラリと並ぶ専門店に入店した。


 冴内は心の中で踊れもしないダンスを踊るかのような気持ちになった。その理由は膨大な数のレシピ本があるためで、これからは美衣の誕生日プレゼントにここの本を買っていけば悩む必要がないぞと、したり顔でほくそ笑むのであった。


 とにかく様々なレシピ本があったので、冴内はそれらからピーンとくるものがないか五感を研ぎ澄まして眺めまわり、なんとなくこれかなと直感が働いたものを手にしてパラパラとめくり、これだというものを3冊購入した。


 店員がお客様、このレシピ本は相当に難易度が高いですが、お客様が料理なされるのですか?と問われ、いえ僕ではなく宇宙最高の料理人が作りますと答えると、しばしポカンとした書店員も、しげしげと冴内の顔を見て徐々に目の前の人物が誰なのか判明し、ポカンとした顔から口を大きく開けた顔になり、口に手を当てもう一方の手で冴内を指差して、声を出さずに、いや驚きすぎて声も出せずにパクパクと口を動かしていた。


 冴内は店員が震える手で本を手提げ袋に入れようとするのを制止して、この後プレゼント用にラッピングするので不要ですと言い、支払いは電子マネーでお願いしますと言うとコクコクと頷き、3冊で数十万円もするかなり凄いレシピ本を買っていった。


 去り際に毎年同じ頃にまた来ますと言うと、店員はブンブンと頭を縦に降り、店の出入り口までついて行きしばらく深くお辞儀をしたままの姿で冴内をお見送りした。


 個人用のスマホで贈答品のラッピング専門店を検索し、口コミ評価が高い店ではなく、直感に従いなんとなく良さそうな感じがする店を選んで瞬間移動するとそこは静かな住宅街の普通の一軒家だった。


 玄関を見ると普通の表札ともう一つ小さな手作りの木彫りの店の看板が掲げられており、やはり同じく手作りで木彫りのOPENと書かれた札を目にしたので冴内はチャイムを押した。


 出てきたのは冴内の母親と同じくらいの年齢の女性で、冴内を一目見るやあらあらまぁまぁ!と言って驚いて、目の前にいる冴えない普通の青年が誰なのか分かっているようだった。そして次に続く言葉を聞いて冴内はとても驚くのであった。


「あなたはゲートシーカーの冴内 洋さんね!私の所に来たということは・・・あら?その本・・・なるほど美衣ちゃんの・・・そうか!プレゼント用に包装してもらいに来たのね!」


「すごい!その通りです!どうして分かったんですか!?」


「あらあらまぁまぁ、とっても簡単なことよ。だって私の家はそういうことを専門にしているお店だし、そしてあなたはとっても有名な人物で、あなたのとっても美しく可愛らしい娘さんも大変有名で大人気でしかも料理の腕が世界最高っていう程の人物、そんな人が見るからに高そうな、しかもとても難しそうな料理本を抱えきた。そして一番の理由は数日前からテレビのニュースやワイドショーであなたの結婚記念日とあなたの娘の美衣ちゃんの生誕祭のことをずっとやっているのよ、だからすぐに分かったのよ」


 一気にまくしたてて説明したおばさんは冴内を家の中に招き入れた。

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