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413:結婚記念日

 相次ぐ電話対応ですっかり注目の的になった冴内は家族からの視線を一身に浴びていた。


「どうしたんだ?父ちゃん」

「何の電話?洋」


「うん・・・ごめん、正直に言うと、明日の結婚記念日のことと3日後の美衣の誕生日のことをすっかり忘れていたんだ」


「?結婚記念日ってなに?」


「アタイ誕生日は知ってる!ケーキに歳の数だけローソクを並べてフーってするやつだ!後皆からプレゼントもらうやつ!父ちゃんの記憶で見た!父ちゃんニコニコして初みたいで可愛かった!そうか、アタイは1歳になるのか、ううむ感慨深い、アタイも大分年を取ったものだ」


 生後1歳足らずで年を取ったという感想を漏らす美衣だったが、美衣も優もすっかり記念日のことを忘れており、優にいたってはそもそも結婚記念日という概念すらなかった。


 結婚記念日と誕生日のことを皆に説明すると、そんな素晴らしいお祭りがあるのかと全員大喜びだった。祭りという程たいそうなものではないが、一応お祝い事という点では合っているし、日本もイギリスもお祭りムードにする気満々だった。


 とりあえず美衣の方からは少しの間なら出てやっても良いというかなり尊大なお言葉を頂戴し、優の方も声高らかに自分こそが洋の唯一無二の妻であると宣言して冴内に悪い虫が付かないように念を押すことが出来ると言うことで、同じく少しの間なら出ても構わないという言葉が返ってきた。


 その旨を日本とイギリスを代表するゲート局長に伝えると両者とも大感激して冴内に礼を述べた。


 その後実家に連絡したところ、緊急全国ニュースで冴内の結婚記念日式典が日本で、美衣の英雄生誕祭がイギリスで開かれるという速報が出て、冴内の父親も街頭で号外新聞を手にしたと聞き、冴内は内心で頭を抱えたくなっていた。


 結婚記念日式典も美衣の英雄生誕祭もどちらもただ顔を見せてくれれば良いと言ってはいたが、果たしてそれだけで済むものだろうかと冴内は頭を悩ませたが、いくら思い悩んだところでそもそも普通の人として生まれ育ってきた一般市民平民庶民で、こうした式典などとは完全に無縁だったので、当事者としての行動規範など知りようもなかった。


 さらに困ったことに優にも美衣にも何をプレゼントすればいいのか、今の今までまるで考えていなかったので冴内の頭の中からはさらに挑発動画のことなどは消え去ろうとしていた。


 まず差し当たり明日の優との結婚記念日のお祝いに何を優にプレゼントすればいいのか可及的速やかに決断して用意する必要があった。


 優が好きなものを考えてみたが、優がこの世で最も好きなものは冴内で、それ以外に例えば服とか宝石とかバッグとか化粧品とかほとんど関心を示したことがなく、せいぜい美味しい食べ物ぐらいしか興味を示さないので、冴内には何をプレゼントすれば良いか全く分からずひたすら焦る一方だった。


 もう一度母や二人の姉に相談しようかと思ったが確実に叱られる気がして悩んだ挙句、父に電話して聞いてみたところ、確かに若い頃や冴内達がまだ小さかった頃は花とかアクセサリーなどをプレゼントしてきたが、やっぱりモノより思い出の方が心に残るということで、冴内達が育って手がかからなくなってきてからは、平日でもなるべく有給休暇をとって日帰りの小旅行に出かけるとか、街に出かけて映画を見て食事をとったとのことだった。


 そういば確かに結婚記念日の時は二人とも出かけていたなと冴内は思い出した。


「洋の話しを聞くと、優さんはあまりモノには興味関心がないようだから、二人で過ごすのがいいかもしれないね。その間美衣ちゃん良子ちゃん花子ちゃん初ちゃん正子ちゃんはウチで面倒みてあげるよ、何の遠慮もいらないよ、こっちから行ってもいいよ、是非そうするといいよ」


 後半は願望がダダ洩れだったが、言ってることはとても合ってるように思われたので、冴内は父に感謝して美衣達を見てもらうことにした。


 実際のところ美衣達を見てもらう必要はないのだが、親孝行にもなるし美衣達も喜ぶし良い事しかないので断る理由はなかった。もちろん美衣達が埼玉の普通の住宅地に出没したらとんでもない騒ぎになるので、両親にはこちらに来てもらうことにした。そして平日なので当然父は有給休暇を取得した。大事な商談があろうとも会社をクビになろうともお構いなしだった。


 冴内は明日は自分と優の結婚記念日だから、優と二人きりで出かけてくると言い、その間冴内の両親が皆に会いに来ると言った、皆の面倒を見てくれるとは言わなかった。


 当然誰一人として文句を言う者はなく全員大喜びしていた。


 どこに行くのかと聞かれた冴内は、行くまでの秘密にしようかと思ったけれど、家族に行先を言わずに出かけるのはそもそも何かあった時にまずいので、打ち明けることにした。


「富士山麓ゲートに行って久しぶりにアリオンに乗って、優と初めてキャンプした思い出の場所に行くつもりだけど・・・それでいいかな?優」

「きゃぁーっ!」

 優は大喜びで冴内に抱き着いた。


「いつ帰ってくるんだ?父ちゃん」

「次の日の昼までには戻るよ」


 冴内の父の午後出社が確定した瞬間だった。


 その後冴内は瞬間移動でアリオンの元に移動し、顔中涎だらけになる程アリオンに大感激されながらも明日の送迎予約をとりつけた。


 そうして翌日になり、冴内は実家の両親を連れてきて美衣達を任せると優と二人で富士山麓ゲートのアリオンの元へと移動した。


 優は去年力堂の妻からもらったポケットがたくさんついている繋ぎの作業服を着ていて当時を再現していた。


 途中で第3農業地に寄って事情を説明し、米と干し沢庵と干し芋と味噌と醤油を少しだけ分けてもらい、村人たちに見送られながら再出発した。


 相変らず富士山麓ゲートの景色も美しく、冴内達にとっては極めてゆっくりした時速90キロのスピードで、優を前に乗せて当時を思い出すようにあちこち見ながら遊覧飛行して目的地へと向かった。


 昼近くになって目的地に到着した。その場所は冴内と優が初めて結ばれた場所で温泉がある場所だった。

 アリオンは気を利かして戻っていき、二人きりにしてくれた。


 優は近くの森から野菜やキノコを採取してきて、冴内は近くの泉から魚を数匹獲った。冴内は久しぶりに獲った魚が消えて食べやすい切り身に変わったのを見てわずか1年前の出来事ではあるが懐かしい思いがした。


 優が料理をして、冴内が飯盒で米を炊くという、まさに当時を思い起こさせることをした。優は終始ご機嫌で管弦楽器のような声でメロディを奏でていた。それは千年前にたつのすけに聞かせていたメロディでもあった。


 魚と野菜がタップリ入った石狩鍋のような味噌味の汁物と干し沢庵をおかずに炊き立てのご飯を二人でうんめぇうんめぇと言いながら美味しく楽しく食べた。


 食後はいったん瞬間移動でさいしょのほしのログハウスに戻り、服を着替えて美衣達も連れて、今度は富士山麓ゲート研修センターの野外特設会場へと移動した。


 どうやら午前中は報道特別番組ということで、去年行われた冴内と優の史上初の宇宙人と地球人の結婚式の模様が放映されていて、最後に本人達が挨拶するという段取りだった。


 冴内はこの1年で家族が増えて、美衣、良子、花子、初、正子の5人の子供の7人家族になりましたと報告し、これからも暖かく見守って下さいと挨拶して一同頭を下げた。

 全くカンペもなく事前に考え何度も練習したわけでもなく完全にその場で考えたアドリブだった。


 その後もう一度冴内と優はキャンプ地に戻り、冴内は久しぶりにイノシシを倒して肉の切り身を獲得し、優は野菜と果物を採取して、夕ご飯の支度をする時間がくるまで干し芋を食べてうんめぇーと言い合って笑い合ったり、裸のまま泉を泳いだりした。


 結局夕食も鍋で、シシ鍋汁にして食べた。満天の星空の元、野外で食べる料理はなによりのご馳走で、しかも愛する者と二人きりで食べるものだから格別の味わいだった。


 食後はフルーツを食べて露天風呂に浸かり、その後二人の愛を確かめ合いながらとても幸せな夜を過ごしたのであった。

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