412:撮影終了
時刻は昼になったのでそのまま昼食となったが、美衣が立案した美味しい料理を美味しそうにたらふく食べる姿を見せることで暗黒魔王達の興味を引くという作戦用の動画も撮影することになった。
冴内が昨日矢吹から演技指導を受けている間、美衣達は暗黒魔王達の気を引く料理のメニューをどうしようかあれこれ考えており、赤い魔王は肉が好きそうだとか、青いのは魚が好きそうだとか、黒いのは分からないので肉と魚以外にしようだとか議論した結果、肉、魚、野菜果物を使った料理ということで、それぞれステーキ、寿司、干し芋を作って食べることになった。ラーメンやカレーライスも候補に出たが、暗黒魔王達には伝わりにくいかもしれないということで分かりやすい料理にした。
料理の方はあらかじめ作っておいてすぐに宇宙ポケットにしまっていたので、取り出したらすぐに出来立てホヤホヤでアツアツの料理が食べられるようになっていた。
そうして昨日のうちに準備しておいたので、早速一面パステルカラーの不思議世界ジメンにテーブルと椅子を揃え、家族全員でご馳走料理を食べることにした。
冴内だけはコスチューム姿のまま食べるというまるで何かの罰ゲーム状態だったが、これも挑発動画のためにという音声ガイドロボ2号機からの要望で、家族全員からもそのカッコイイ姿のまま食べて欲しいと言われたので冴内は素直に一人だけ存在自体が何かのジョークのような姿でご馳走を食べることにした。
以前確保した肉や魚の中でもさらに厳選して大事にとっておいた希少部位を用いて、美衣の最高の技を駆使して作り上げた至高の品と、第3農業地の人達が丹精込めて作った干し芋を冴内達は最高の状態で食べた。冴内の動画撮影でいつもよりも少し昼食時間が過ぎていたので全員お腹が空いていたのだ。
「うんめぇーッ!この肉最高ッ!」
「噛む程に肉汁が口の中いっぱいに溢れてとってもうんめぇわよ!」
「噛み応えも抜群!硬くもなく柔らかすぎでもなく歯ごたえ最高!」
「バクバクゴクン!お肉うんめぇーーーッ!!」
「しゅてーきおいちいでしゅ!うんめぇでしゅ!」
「この魚も最高にうんめぇーッ!」
「甘くてトロけるこの魚最高にうんめぇわよ!」
「少し噛んだだけでトロけて、酢飯ご飯と交じり合って最高に美味しい!お寿司考えた人は宇宙一の天才だと思う!」
「バクバクゴクン!お魚うんめぇーーーッ!!」
「おしゅしおいちいでしゅ!うんめぇでしゅ!」
「干し芋もうんめぇーッ!お腹いっぱいなのに手が止まらないよ!」
「この絶妙な味加減、甘すぎない素材の持つ程よい甘さ!さすが第3農業地の人ね!」
「この噛み応えも抜群!柔らかいのに噛み応えがあって適度にしっとりして舌ざわりも最高!」
「バクバクゴクン!干し芋うんめぇーーーッ!!」
「ほちいもおいちいでしゅ!うんめぇでしゅ!」
食事を摂取する必要がないさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機とパステルとジメンですら、冴内達が心底美味しそうに食べる姿を見て自分達も食事をとりたくなる程だった。
そしてたまらずパステルも干し芋をもらって、いつものように腹部に干し芋を差し入れると・・・
『うんめぇーーーッ!!何コレ!?すごくうんめぇーーーッ!!』
もちろんその姿もバッチリ高画質カメラで撮影していた。
こうして挑発動画用に最高の動画素材が揃ったので、音声ガイドロボ2号機はこれから自分の高性能演算装置の性能をフルに活かして最高の挑発動画を製作すると意気込んだ。高性能をフル活用して作る動画が感動作でも娯楽作でも教養番組でもなく、挑発動画というところが何とも残念な感じがする。
ともあれ、撮影を終えた冴内達はいったんログハウスに戻ることにした。
演技お疲れ様でしたという花子のねぎらいの言葉をもらい、冴内はコスチュームを脱ぐと美衣がこれは記念に父ちゃんの石像に着せようと言うと、家族全員が素晴らしいアイディアだと美衣を賞賛し、冴内が止める間もなく優のワープ魔法でみんなのほしのホールケーキセンターのエントランスに移動して、そこの玄関ホールに飾ってある白い冴内の石像に撮影で着用したコスチュームを着せた。
これから毎日様々な宇宙人達がここに来るたびにこれを目にするのかと思うと冴内はかなり苦い思いになり、目を背け現実を直視しないようにした。
だがしかし、挑発動画が完成すると冴内はもっと現実逃避したくなるのであった。
その後、午後のおやつの時間に冴内のゲートシーカー専用携帯端末が鳴り、矢吹から撮影はうまくいったかと聞いてきたので、周りの皆から大絶賛でしたと答えたところ、そうだろうそうだろう冴えないお前にしちゃなかなか良く演技出来てたからな、うまくいったんなら良かったぜ、動画の完成が楽しみだ、それじゃあな、と言って電話は切れた。やはり矢吹はなんやかんやいって後輩思いの良い奴であった。
矢吹からの電話で少し気を良くしたところで、今度は個人用スマホが鳴ったので出たところ、埼玉の実家にいる母からの電話だった。
「ちょっと洋!大変!」
「えっ!?どうしたの母さん」
「もうあと3日じゃないの!」
「えっ!?3日?って何が・・・」
「アンタ!何言ってるの!お父さんでしょ!まさかその様子だと明日のことも分かってないんじゃないの!?」
「えっ?明日?って・・・あっ!!」
その時ようやく冴内は気付いた。明日は結婚1周年記念日であり、3日後は美衣の1歳の誕生日であることに。
「あ~良かったわ電話して、宇宙のなんだかだか知らないけどアンタはやっぱりアンタのままね」
「うん、でもすごく助かったよ母さん、ありがとう」
「まったく、優さんも美衣ちゃんもとっても優しくて良い子だから何も言わないと思うけど、ダメよそれに甘えちゃ、宇宙がどうとか忙しいのかもしれないけど、アンタの家族のことを一番に大事にしなきゃダメよ」
「そうだね、本当にそうだね、有難うお母さん」
息子が宇宙を救う全宇宙の愛の使者だろうが何だろうが、冴内の母にとってはそれこそ知ったこっちゃないといった感じで、いつまでも冴内 洋は一人のちょっと冴えない変わらぬ息子なのだった。
その後も幾つかアドバイスをもらい、3日後の美衣の誕生日には是非とも参加させろという要望を受諾し電話を切ったところ、さらにまたゲートシーカー専用携帯端末が鳴ったので出たところ、今度は英国ストーンヘンジ・ゲート局長サー・アーサー・ウィリアム3世だった。
「冴内殿!ご機嫌麗しゅうございます!此度のパステル殿宇宙の崩壊の危機を救う活動、誠にお勤めご苦労様であります!ところでその・・・そろそろ美衣殿の誕生1周年にあたると思うのですが・・・」
「はい、3日後ですね」
「冴内殿!どうか!どうか是非とも我が英国にて記念式典を開かせては頂けないだろうか!」
「えっ、式典ですか!?」
「はい、もう既にこちらでは各地で熱狂状態が始まっておりまして、英雄誕生祭を開くムードが漂っております!こちらとしても全国民の期待に応えないわけにはいかず、冴内殿におかれては甚だご迷惑かとは存じますが、どうかこちらの心情を汲み取っていただきご容赦いただければと思います」
「えっと・・・その日は身内だけで密やかにお祝いしたいと思っていたのですが・・・」
「はい、左様でございましょう、重々承知いたしております。美衣殿にはほんの少しの間だけで構いませんのでそのご尊顔をお見せいただけさえすれば良いのです。ほんの数分、いや数秒でも構いませんので、どうかその尊いお姿をお見せいただくわけにはいかないでしょうか」
「う~んチラ見せぐらいなら・・・少し待っていただけますか?これから美衣や家族と相談します。その後こちらからまたかけ直します」
「もちろんです!冴内殿におかれてはご多忙の中大変恐縮ではありますが、是非ともよしなにお願い申し上げます」
「分かりました、それではまた後ほど・・・」
ちなみにこの後神代からも結婚1周年記念の式典に関する連絡がやってきて、冴内の頭の中は人生最大の恥ずかしい黒歴史になる挑発動画のことなど完全に忘却の彼方になっていたのであった・・・