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403:名前付け

 パステル調の色彩に覆われた不思議世界そのもののジメンに暗黒四天王の一人だと説明された可愛らしい少女は冴内達の前にひたすら平身低頭土下座していた。


 すると今度はそこに、この宇宙そのもののパステルが登場した。人の形のシルエットをしているが身体の表面はパステルカラーの渦巻き銀河がプロジェクションマッピングのように動いて描かれていて、相変らず前衛芸術のようだった。


『冴内君、ワタシもコイツに名前を付けるのには賛成かな。名前を付けることで強制的に善良で無害な奴に変えてしまおうよ』


「うへぇっ!なんだお前ッ!?キモッ!」


『この宇宙に向かってキモイってのはないよなぁ、なんという失礼な奴だ。お前には大分酷い目にあってるんだぞ。ワタシが直接手出しを出来ないからってさんざん好き勝手やってくれちゃってさ。勝手ついでに言えばそれこそ勝手にワタシの知恵を借りていくし、全く酷い奴だ。やっぱり冴内君、コイツは君のチョップでやっつけるか名前を付けて改心させるしかないよ、ウン』


「チョップでやっつけるのは・・・ちょっと抵抗がありますね」


「なんという優しい寛大なお心!さすが冴内様!」


『何が優しい寛大な心だよマッタク、お前にもその言葉の意味が分かるんだったら、少しはお前自身が優しくなれっていうものだよ』(パ)


『えっと・・・ともあれ、そうなると名前を付けて改心させるしかないですね』(ジ)


『そうだね、コイツが存在し続けるのは少し癪だけど、心を入れ替えて良い奴になるっていうのなら我慢するよ。そんなわけで冴内君、コイツにこれからは良い行いしか出来ないような裏表のない正真正銘の善良な存在に生まれ変わるような良い感じの名前をバシッと付けてやってよ!』(パ)


「アタイも賛成!良子姉ちゃんみたいに良い子になったら友達になりたい!」

「ボクも!」

「私も賛成!お父さんが名前を付けてあげたらきっとどんなに悪い子でも良い子になると思う!」

「私も保証するわよ洋!」


「う~ん・・・そうだね、この場合は軽い気持ちで名前を付けるわけじゃなくてちゃんとした理由もあるし、皆も賛成してくれるからいいか・・・と、その前に本人にも確認しなきゃ、えっと・・・君はそれで良い?僕は君をやっつけたくはないから、名前を付けることになるんだけど・・・」


「へっ!へい!冴内様から名前を頂けるとは有難き幸せ!喜んで謹んで有難くお名前頂戴致します!」


 この時の彼女の心の声は以下のようであった。


【ケッケッケ、全くつくづくおめでてぇ奴らだ。そんなたかが名前を付けられたぐらいで心が入れ替わって改心するわきゃねぇだろ。ほんとアホだなぁコイツら。とりあえずしばらく下手にでて冴内 洋の弱点と力の源を探ってやる。いずれその秘密を解き明かしてオレもその力を手にして冴内 洋を打倒し、他の暗黒魔王よりも上に立ち、オレが全てを手に入れるんだ。ケッケッケ・・・楽しみだぜ】


 心の中でそのように考えていることなどつゆ知らずの冴内は彼女にどういう名前をつければいいかと考えるのに精一杯だった。


 パステルとジメンはほぼ的確に心の中の声を想定していたが、冴内の名前付けによる影響力も十分想定出来ていたので、悪知恵があってずる賢くて頭は良く回るのにアホだなコイツと内心思っていた。結構二人とも腹黒い部分があった。


「良い子は良子で使っちゃったし、優しい子は優と被るし、う~ん・・・どうしようか・・・悪いの反対で正しいって文字を入れるといいかな?それなら善悪の善もありか・・・う~ん、正しくて良い子になればパステルさんも安心するだろうから・・・よしっ、決めた!」


「やっ!決めたのか父ちゃん」(美)

「わっ!楽しみ!」(初)


 その場にいる全員がものすごく期待したので、冴内は結構たじろいだ。内心で即興で安直に決めた感じが少しして一瞬やめようかと頭をよぎったが、閃いた直感を信じてひるまず胸を張ってこう言った。


「君の名前はまさこ!正しい事を為すという意味を込めて正子(まさこ)だよ!」


 土下座状態だった少女が頭をあげると、まるでフラッシュライトを浴びたかのように光のシャワーが彼女を取り囲み始めた。


「父ちゃん、苗字はどうするんだ?」

「えっ、苗字?そうか・・・えっと、パステルさんの宇宙の人だからパステル・正子じゃないの?」

『えーやだよワタシ、コイツがワタシの家族なんてヤだです』


 パステルは嫌ですと言わずヤだですと言った。冴内には結構強めに嫌だと言ってるように聞こえた。


「そしたらうちの家族にすればいいんじゃないか?父ちゃんの娘にすれば父ちゃんとは結婚出来ないから母ちゃんも安心だぞ」

「その通りよ!美衣はとても良い事を言ったわ!」

「ボク家族が増えるの大賛成!」

「私も!」


「そ、そう?・・・そう、なのかな?・・・うん、そうか・・・そうだね・・・よし、そうしよう!」


「君の名前は冴内(さえない) 正子(まさこ)!今日から僕の大事な家族の一員だ!」


 光に包まれてまるで繭のようになっていて、もはや形状が分からない状態の少女の周りには、今度はパステルカラーの虹色の粒子が凄まじい速さで渦巻いて繭のような物体をグルグルと取り囲んだ。


 これまで見た中で最もヴィジュアル的に派手なエフェクトがかかっていた。恐らくそれだけ強大な悪を正に変えるのにパワーがかかっているのだろう。


 それと呼応するかのように冴内とパステルからは虹色の粒子が放出されて繭に吸収されており、冴内もパステルも結構疲労しているように見えた。


 いつもならすぐに終わるのだが、この粒子放出状態が数分程度続き、ようやく納まったところで冴内もパステルも疲れてその場に座り込んでしまった。


「洋!大丈夫!?」

「うん・・・なんか名前付けでこんなに疲れたの初めてだよ・・・えっと、サクランボ・・・いや、桃がいいかな?美衣桃を出してくれるかい?」

「やっ!桃でいいのか?大丈夫か?父ちゃん」

「水で薄める?洋」

「いや、多分そのままで大丈夫」


 美衣が宇宙ポケットから例のヤバイ桃を取り出して冴内に渡すと冴内はチョップで綺麗に二つに割ってまずは半分を一気に食べた。


 半分の桃を最後まで食べ終わると、一瞬の間の後に冴内はまるで感電したかのように大きく背中を反らしてエビぞりになり髪の毛も逆立ったが、数秒後にそれは納まってスッキリしたようだった。


「相変らずこの桃はキくなぁ」と、何か危ない良くないものに誤解されそうなセリフを口にする冴内であったが、その様子はすこぶる気分爽快爽やかなもので疲労は消し飛んだようだった。


 冴内は半分の桃をもってパステルのところに行ってパステルに渡すと、パステルは自分は宇宙だから物を食べないと言ったのだが、まぁ一応試してみて下さいと、そもそも物を食べないって言っているにも関わらず冴内は珍しくゴリ押しした。


 それでもパステルは素直に従って桃を食べたのだが、せっかく頭部があるにも関わらずパステルはお腹のあたりに冴内からもらった半分の桃をズブリと差し込んだ。


 半分の桃はパステルの腹部にそのままの状態で入っていることが確認出来るのが若干グロかったが、すぐに桃の辺りに虹色の渦巻き模様が近づいてきて桃をすっかり覆い包んだ。すると虹色の輝きが力強さを増していき、パステルは立ったままの状態で背中を大きくのけぞり、凄まじいエビぞりで頭をジメンの地面にゴツンというかなり痛そうな音が響き渡る程に打ち付けて逆Uの字状態になった。


「うわっ!だっ!大丈夫ですか!パステルさん!」

『キッ!キクゥーーーーッ!!』


 と、パステルはすぐにバネのようにビョンと元の状態に戻ってビシッと一本の棒のように直立した。


『ナニコレ!?すごいね!ヤバイよコレ、こんな食べ物あってものいいの?っていうか冴内君達よくこれ食べて平気だね』


「いや、僕達でもこの桃を食べる時は大抵薄めてジュースにして飲んでいます。余程緊急事態の時に少しかじるくらいで、半分でもそのまま丸ごと食べたのは今回が初めてです」


『そうなんだ、確かにさっきは緊急事態だったかもしれないね。それくらいここで気持ちよさそうに眠っているコイツを改心させるのに力が必要だったってことなんだろうね。全くこっちの苦労も知らずにスヤスヤ気持ちよく寝ちゃってさ・・・』


 暗黒四天王の一人、最も悪知恵が働き狡猾な者は虹色の繭の状態になって眠っていた。呼吸に合わせて虹色の繭が少し膨らんだりしぼんだりしている様子は見ていて心なごむものがあった。


 果たして繭から孵った後はどう変容しているのだろうか・・・

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