401:攻略完了
穏やかで耳に心地良い規則的な波の音が続いていたが、いつも通り朝日が昇るとほぼ同時に冴内達の腹時計が盛大に鳴り響いた。
「むにゃむにゃ・・・朝だ、お腹が空いた」
「う~ん・・・ボクも・・・」
「おはよう、私もお腹空いちゃった」
「おはよう・・・って、あら?みんな元の姿にもどったみたいね」
「うん?・・・やっ!ホントだ!おチビさんじゃない!」
「ホントだ!ボクはあんまり変わってないけど、みんな元に戻ってる!」
「なんだか力もみなぎってる感じがするよ!」
「そうね、今なら空も飛べて魔法も使えそう!」
「う~ん・・・あっ、みんなおはよう」
「父ちゃん見てくれ!アタイ達おチビさんじゃなくなったぞ!」
「うん、昨日の夜のうちから皆元に戻ってたよ」
「そうだったのか、アタイ気持ち良くなって寝てたから全然気づかなかった」
「ボクも」
「寝る子は育つっていうものね!」
「・・・システム起動、オールグリーン」(最後)
「・・・システム起動、オールグリーン」(音)
「・・・システム起動、オールグリーン」(花)
「・・・まさか、この数日間で2度もシステム起動することになるとは・・・可能性としては限りなくゼロに近い数値だったのだが・・・ウム?これは!?元の姿形に戻っている?」(最後)
「はい、どうやら私達も元の姿に戻ったようですね」(音)
「さすが洋様です!私達まで元の姿に戻してくれたんですね!」(花)
「良子お姉ちゃんの言う通りなんだかアタイもすごく力がみなぎってる感じがする!これならアタイもこの海の奥にいるらしいどうもうなすごいヤツと戦えそうな気がする!」
「あっ、ごめん。それもう倒しちゃったよ」
「「「 なんだってぇーーー!! 」」」
冴内は昨日の夜の出来事を美衣達に話して聞かせて、美衣は宇宙ポケットの中に手を突っ込んで冴内が話した巨大肉食魚を取り出した。
「ホントだ!でっかい魚が出てきた!」
「わっ!すごいお顔だ!」
「私達が小さいままっだたらこのお魚には勝てなかったかも!」
「さすがね洋!ステキよ!大好き!」
グゥゥゥ~~~ッ!
「父ちゃん早速これを料理してもいいか?」
「うん!是非お願いするよ!僕もお腹がペコペコだよ!」
「分かった!腕によりをかけてうんめぇもの作るぞ!」
「わーい!」
美衣はその場で宇宙ポケットからキッチンを取り出して料理を作り始めた。今日はさいごのひとロボ4号機ではなく花子がご飯を炊いた。美衣に言われていつもより多めにご飯を炊いた。
食虫植物の花の蜜により、すっかり本調子になった美衣はチョップであっという間に巨大肉食魚を解体して、胴体は見事な三枚おろしにしてみせた。
まるで戦車の装甲のような甲冑に覆われた頭部はその外骨格に合わせて綺麗に切断されて、優の魔法の炎で真っ赤に熱せられた巨大な岩の上で兜焼きにされていた。
ちなみに巨大な岩は優のライトサーベルでまるで御影石のように真っ平に切断されていた。
巨大肉食魚で作るメインの料理はまず何と言っても握り寿司であった。冴内の手加減チョップにより瞬間脳死されて、すぐに美衣の宇宙ポケットに格納したので鮮度は抜群だった。
花子が多めにご飯を炊いていたのはそのためで、美衣は凄まじい速度と正確さで最高部位のトロ肉を捌いていた。
いつも通り相当太くて頑丈な骨と、大きな内臓やヒレなどはロボット3人組が解体分解して体内貯蔵タンクに取り込んでいた。
冴内と初が軽く海に潜って貝や海藻を集めて、良子がそれらと巨大肉食魚の他の部位を使って「あら汁」を作った。
やがてご飯が炊けたので、花子と音声ガイドロボ2号機がせっせと酢飯を作り始め、美衣はじゃんじゃん握り寿司を作っていった。3個に1個は自分の口に放り込んでいたが、握っている者の特権である。
冴内達はとてもお腹が空いていたのと、とても美味しかったのとでオープニングラップは無言でひたすら握りあがった寿司をまるでオートメーション機械のように口に放っては食べ、放っては食べを繰り返し続けた。
まず冴内と優が50個あたり食べたところでようやくあら汁を飲んでほぉーっと一息つき、次いで初が70個食べたところで一息つき、美衣と良子が150個食べたところで一息ついた。良子も途中から自分で握りながら食べていた。
その後美衣達はお待ちかねの兜焼きを食べた。目玉も脳みそも硬い甲冑部分以外は余すところなく全て食べ尽した。もちろん甲冑部分はロボット3人組が破砕して体内貯蔵タンクに吸収した。
「あ~美味しかった!久しぶりに美味しい高級魚を食べたっていう気がする!」
「ボクもすごくおいしかった!ありがとうお父ちゃん!美衣おねえちゃん!」
「あら汁も凄く美味しかったよ花子」
「ありがとうございます!」
ボウンッ!
「いやぁ驚いたべ!まさかたった2日であんなおっかねぇ獰猛なヤツを倒しちまうとは思わなかったベ、さすが洋さんだべ」
バルダクチュンは相変わらず2頭身の可愛らしい顔じゅうヒゲだらけの人形みたいな姿で現れた。そしてそのサイズは冴内の足の脛にも届かない程小さかった。それ程までに冴内達は巨大化していた。
「あっバルダさん」
「バルダおじちゃんおはよう!」
「おうおはようだべ初ちゃん」
「バルダのおっちゃん、どうしたんだ?」
「おう美衣ちゃんおはよう、オラは皆にお祝いを言いにきたべ、見事この星にいる一番強いヤツを倒した洋さん達はもうこの星で修行する必要はなくなったべ、多分みんなもう気付いているだべ、ここに来た時とはまるで比べ物にならんくらい強くなったべ、いや違う、洋さん達本来の強さに戻ったべ」
「うん!ボクそんな気がする!」
「アタイも!力がみなぎってるぞ!」
「そうだべ!そうだべ!よかったべ!ウワァッハッハッハ!」
「有難う御座いますバルダさん、バルダさんのおかげで僕達はこの宇宙でもこれまでのように過ごすことが出来そうです」
「ありがとうバルダおじちゃん!」
「なんのなんのだべ!オラは何もしてないべ!洋さん達が自分の力で切り抜けたんだべ!」
「さて、それじゃオラはジメンのいる場所までのゲートを開くべ、洋さん達は大分おっきくなったからちょっとしんどそうだべ」
「あっ、バルダさんちょっと待ってください」
「うん?どうしたべ?洋さん」
冴内はバルダの額に人差し指を当てて目をつむった。
「バルダさんがジメンさんのいる場所をイメージして下さい、そしたらきっと僕もジメンさんのいる場所が分かって瞬間移動出来るかもしれません」
「うほぉーっ!さすが洋さんだべ!うん!きっと洋さんなら出来るべ!それじゃオラはジメンのいる場所をイメージするべ!」
バルダクチュンは目を閉じジメンのいる場所を強くイメージした。しばらく二人とも目をつぶって黙っていた。
「どうだ?洋さん、オラはジメンのいる場所さ分かったぞ」
「あっ!僕も分かった気がします!ちょっと行ってきてみます!」
次の瞬間、冴内はまさにジメンのいる場所というより、ジメンそのもののパステル砂漠世界へと移動していた。
『さすがです冴内様!私はとても信じられません!わずか2日の滞在期間での攻略!そして3日目の朝にバルダクチュンのゲートではなく、冴内様自らがこうして瞬間移動でやってくるとは!本当に失礼ながら全く想像すらしておりませんでした!正直に明かしますと奇跡的な異次元的なありえない早さでも10年くらいはかかるだろうと思っておりました!』
「10年もいれば少しは僕の虫嫌いも治ったかもしれませんね」
『あっ、パステルからお聞きしました、冴内様は虫が苦手なんですってね、私からもお詫び申し上げます』
「いえいえいいんですよ、それじゃ僕はいったん戻って家族達を連れて・・・」
と、冴内が言い終わる前に小型のゲートが冴内の前に出現し、良子と美衣と初がゲートを通過してやってきて、優がワープ魔法でロボット3人組を連れてやってきた。
どうやら本当に全員元の力をこの宇宙でも発揮できるようになったようだった。