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396:巨大マダラグモ討伐

 パピヨン冴内は同じ蝶仲間の大きくて美しいカラスアゲハ蝶を救出するべく、巨大なマダラグモへと挑むことにした。


 巨大マダラグモは頭から胸のあたりまでは毛むくじゃらで目は赤く、大きな腹には毒々しい色のまだら模様があり、虫嫌いの冴内でなくても生理的に受け付けない見た目をしていた。


「オヤオヤ、モウイッピキ ウマソウナノガ ヤッテキオッタワイ」

「アッ!アナタハ ワタクシトオナジ チョウデスノネ! チョウデハゼッタイニカテマセン! ワタクシノコトハ ホウッテオニゲクダサイ!」


「いえ!僕は逃げません!これから僕はもっと強いヤツと闘わなければならないのです!だから僕は逃げずに闘います!」


「ワッハッハッハ!チョウゴトキガ コノワシニ カテルハズナカロウ!」

「やってみなければ分からないさ!いくぞ!」

「ダメデス!オヤメニナッテ!ニゲテ!」


 一体全体冴内はどうしたんだというくらい、いつもの冴えない冴内とは思えない程に歯の浮くようなセリフがどんどん冴内の口から出てくるが、今の冴内の口には歯がないどころか蝶々の口のようにワイヤーのような細い管がグルグルと渦巻き状になっていて、正直かなりキモイ見た目になっていた。


「バカメ!」


 巨大マダラグモは冴内にお尻を向けて糸を射出してきたが、冴内は難なくヒラリヒラリと躱した。


「そんな糸など当たるものか!」

「ハハハハ!ソウカイ!」


 冴内に向けて飛ばしてきた糸はその糸で冴内を絡めとろうとしたのではなかった。その糸を飛ばした意図は冴内の背後にある木の枝に糸を付着させて、その糸を手繰り寄せることで自分の身体を一気に移動させて冴内に急接近し、自らの脚で冴内を捉えようとしたのだ。


 風を切り裂く音と共に巨大マダラグモが急速に冴内の眼前へと近づく、その巨体に加えて太く長い脚が8本も生えているし8っつの目で正確に捉えられているので、冴内お得意の体捌きで側面に避けてチョップを放つことは出来そうにもなく、このまま為すすべなく冴内は巨大マダラグモに捕食されてしまうかと思われた。


 冴内は両の掌を合わせて頭上に掲げ、背中を逆方向に曲げてエビぞりの体勢になった。とはいえ2頭身状態で頭が極端に大きく腕が短いため、実際には頭の上にまで手は届かずに顔の前に両手がある状態だった。


 この時冴内は既に回避不能な距離になっており、巨大マダラグモの大きな口はあんぐりとあいて左右の牙が今にも冴内に噛みつこうとしていた。8本の太く長い脚も開いておりどこにも逃げ場はなく、ガッシリと冴内を掴み取ろうとしていた。


 いよいよ万事休すと思われたその刹那、エビぞり状態の冴内は一気に腹筋を中心とした全身の筋肉を使って思いっきり両手のチョップを真っ直ぐに振り下ろした。


 巨大マダラグモは咄嗟に2本の脚をクロスさせてガードの構えをとったが、身体の前側にある筋肉を一気に弛緩させた冴内渾身の一撃はガードした脚ごと巨大マダラグモを一刀両断した。


「チョマッ!」


 ちょっと待つこともなく巨大マダラグモは左右真っ二つになって落下していった。


 その凄まじい斬撃は巨大マダラグモを突き抜けて後ろにあった木まで真っ二つにし、地面にも深々と亀裂を作る程の威力だった。もちろんその円を描く軌道はパステルカラーの粒子残像を残していた。


 もしも巨大マダラグモの真後ろに、救助対象の美しいカラスアゲハ蝶がいたら、それも真っ二つになってしまっていたであろう。


 冴内は我に返って、自分のやらかしたことに戦慄し、恐る恐る辺りを確認したが、救助対象のカラスアゲハ蝶は無事のようで、あまり見たくない巨大マダラグモは地面に真っ二つになっていた。


 冴内は蜘蛛の巣に引っかかっている大きなカラスアゲハを助けるべく近づいたが、近づいてクモの糸を良く見てみると糸というよりはもはやロープのような太さであることが分かったのだが、糸自体は半透明で周りの風景に溶け込んでいるので、うっかりしていると飛び込んで絡まる危険性があった。


 そして指で触ってみると粘着力が強い所と弱い所があり、強い粘着力のところはまるでガムテープのような粘着力があった。


 冴内はとりあえずチョップでスパスパとカラスアゲハの周りの糸を切断していった。


「ア・・・アリガトウゴザイマス! ソレニシテモ アナタサマハ、イッタイ ドナタサマ ナノデショウカ? ワタクシトオナジ チョウノヨウニミエマスガ トテモオナジ チョウトハオモエナイホドニ オツヨイデスノネ」

「僕は冴内 洋といいます、ここには強くなるための修行に来ました」

「シュギョウ?デスカ?」

「はい、僕はこの先とても強い相手と闘わないといけないので、まずはここで強くなるために鍛えているところです」

「マァ!ソウデシタノネ!」

「さて、今から残った糸を切りますがなるべく動かずにいてくれますか?動くと他の糸にまた絡まってしまいます」

「ワカリマシタ」


 冴内は残った糸を切断し、最後の一本を腕に巻き付けて切断し、カラスアゲハをそのまま腕一本で牽引して安全そうな場所まで飛んでいった。


 小さな水たまりを発見した冴内はそこに降りて、水で手を濡らしてカラスアゲハに絡まった蜘蛛の糸をそっと取り去っていった。


 なんとか大事な羽にダメージを負わせることもなく全ての糸を取り除くことに成功し、無事に飛べそうか確認したところ、カラスアゲハは問題なく華麗に綺麗に優雅にヒラヒラと舞い上がってみせた。


「アア!ワタクシハ ジユウニナリマシタワ! サエナイサマ! アナタサマハ ワタクシノ イノチノオンジンデス! コノゴオンニムクイルニハ ワタクシハドウスレバイイデショウ? ワタクシニデキルコトナラバ ナンデモイタシマス!」


「いえいえお気になさらないでください、さっきも言いましたが僕は強い敵と闘って今よりもっと強くなるためにやっていることなのですから」


「デスガ、イノチヲスクッテイタダイタノニ コノママナニモセズ カンシャノコトバヲ イウダケデハ ワタクシハトテモ ココログルシイノデス」


「なるほど・・・でしたら・・・う~ん・・・あっそうだ、それならこの辺りで一番美味しい花の蜜のありかを教えてくれませんか?」


「イチバンオイシイ ハナノミツデスカ?・・・ソウデスネ・・・ソレハ・・・イヤ、サエナイサマ ナラバ デキルカモシレマセン」


「???」


「タシカニ コノセカイデ サイコウノハナノミツハアリマス、デスガ ダレヒトリトシテ ソノミツヲノンデ イキナガラエタモノハオリマセン」


「毒・・・ですか?」


「イイエ、ソノオイシイミツガアルハナハ ワタシタチヲ タベテシマウハナナノデス」


「分かった!食虫植物だ!」

「ショクチュウショクブツ?」

「はい!僕が住んでいた場所でもそうした花はありました!様々な種類がありましたよ!こういう感じでバクッっと食べられるようなものも・・・」


 冴内は両手の掌で楽器のカスタネットか二枚貝が閉じるような動きをしてみせた。


「アッ!ソレデス!ソレトオナジウゴキヲ スルハナナノデス!」

「なるほどやっぱりそうか・・・」


「ワタシモ セイジンシタテノコロニ ソノハナノミツノカオリニ サソワレテ チカヅイテシマッタノデスガ、ソコデ ワタシヨリモ ガンジョウデツヨイカタガ ツカマッテ トジコメラレテ ソノママスコシヅツ トカサレテイクノヲ コノメデミマシタ アマリノオソロシイコウケイニ ワタクシハ キヲウシナイカケソウニナルノヲ ケンメイニコラエテ ソノバカラニゲダシマシタ イマデモアノオソロシイコウケイハ ワスレラレマセン」


「なるほど、そんなことがあったんですね」

「デモ ソノミツノアジハ コノヨデモットモ オイシイラシク、ジブンガトケテ シンデイクノニ マッタクキニナラナイホドマデニ スバラシイアジナノダソウデス」


『うわ!ワタシそれめっちゃ気になる!どうする冴内君!?』

「それではお願いがあります、とても怖い体験を思い出させて申し訳ないのですが、僕をそこに案内してもらえませんか?」

『そうこなくっちゃ!』


「・・・ワカリマシタ、サエナイサマナラバ アノオソロシイハナヲモ タオセルカモシレマセン デハ、アンナイイタシマス、ワタクシニツイテキテクダサイ」


 こうしてパステルパピヨン冴内はこの世界で最も美味しいとされる花の蜜を吸いに、命がけで挑むことになるのであった。

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