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395:パピヨン冴内

 パステルと融合合体し、フランス語で蝶を表す単語のパピヨンのようになってしまった冴内はそのままヒラヒラと宙を舞い林の方へと飛んでいった。


 美味しそうな花の蜜の匂いがする方へと飛んでいき、お目当ての大きな美しい花に近寄ると、グロテスクな見た目の冴内はいっそうグロテスクさを増して、口の部分がホースのような細長い管のように変形して花の蜜をチュウチュウ吸い始めた。


 パピヨン冴内はお腹いっぱいになるまで吸うことはせずに、もっと色々な花の蜜を吸ってこの世界を感じ取ろうとして別の花の蜜を吸いにいった。


 様々な花の蜜を吸いながら、時折同じように花の蜜目当ての他の昆虫達と挨拶し、他の蝶々達から求婚されることもありながら、冴内は蝶のように舞っていた、いや、蝶そのものになって舞っていた。


 そうして林にある花の蜜を一通り吸い終わったところ、まだ見たことのない白い大きな花が目に留まった。匂いもこれまで嗅いだことのない良い香りで色も鮮やかで美しかった。


 不思議と誘い込まれるようにその花についつい吸い寄せられていくかのようにヒラヒラと近づいて行ったところ、パステルは冴内に警鐘を鳴らし、冴内自身も以前テレビの生き物番組で見た花に擬態するカマキリのことを思い出した。


 果たしてその通りとなり、白く美しい花だったものは変形して大きなカマキリへと姿を変えた。


『危なかったね!こんな生き物もいるんだなぁ』

『ええ!これと似たような昆虫をテレビか何かで見たことがあります!』


 パピヨン冴内は心の中でパステルと思念会話をしていた。


『どうする?冴内君、結構良い腕試しになると思うけど』

『そうですね!やってみます!』


 冴内は巨大白カマキリと対峙することにした。


 巨大白カマキリは両腕が大きなカマになっており、ブレードは極めて鋭利で危険な感じがした。そして頭部には左右に大きく湾曲した牙があり、牙の先端には恐らく毒液か消化促進作用も兼ねたピンク色の溶解液が付着していた。


『フフフ、トンデニゲヨウタッテ ムダヨ』


 巨大白カマキリは背中の大きな羽を展開し、パピヨン冴内に両手のカマを大きく開いて襲い掛かって来た。


 凄まじい風切り音をたてながら両手のカマブレードでズタズタに切り裂こうとする巨大白カマキリの攻撃をヒラリヒラリと回避するパピヨン冴内。


『いいぞ冴内君!蝶のように舞い蜂のように刺すんだ!』


 パステルは何故か昔大活躍し殿堂入りした米国ヘビー級黒人ボクサーの有名な戦闘スタイルを表すセリフを言ったが、冴内は蝶ではあるが蜂ではないのでお尻のトゲで刺すことは出来なかった。


 巨大白カマキリは突進してくることなく、リーチを活かした中距離の間合いを維持して戦っているので、冴内は得意の体捌きからのチョップ攻撃が出来ずヒラリヒラリと躱し続けるだけだった。


『冴内君!このまま躱すだけだといずれアレは君の動きに慣れてしまうよ!』

『はい!でもこっちもその前に見切れそうです!』


 巨大白カマキリは確かにスピードと反射神経においては相当な戦闘力を持っていたが、人間のように様々な戦術を駆使して頭を使って戦ってくる相手ではなかった。


 そのため冴えない冴内でもこれまでそれなりに戦闘らしい経験をしてきたのと、学生時代にハマった大人気狩りゲーム「モンスターハンティング」で巨大モンスターの戦闘パターン、動作モーションを見て覚えて学習することも出来たので冴内の方が巨大白カマキリよりも早く対応することが出来た。


 後は蜂のように痛烈なひと刺しの攻撃をどうするかだが、どうするもこうするも冴内にはチョップしかないので、しかも残念ながらこの宇宙でも新たなスキルが発動することもないので、冴内はいつも通り右手をチョップ状態にして構えた。


『おお!冴内君のチョップが見られるぞ!しかも合体してるから自分の身体を通して直に見られる!これは僥倖!僥倖!』


「ウフフフフ、ソロソロ アナタノ ウゴキモミナレテキタワヨ オトナシクカンネンシナサイ」

「こっちも そっちの動きは見切った!いくぞ!」

「アラアラ カヨワイチョウチョノアナタニ ナニガデキルノカシラ」


 巨大白カマキリは右腕のカマブレードを垂直に振り下ろして冴内を一刀両断にしようとしてきたがそれはフェイントで、左に避けた冴内を今度は左腕のブレードで水平に薙ぎ払ってきた。


 ちなみに巨大白カマキリのブレードは長くて衝撃波もあるため最初の垂直振り下ろしを後方へ避けた場合今のパピヨン冴内の移動速度と距離では斬撃を食らってしまう。その間合いを理解していた冴内は左右どちらかに避けるしかなかった。


 巨大白カマキリにもその程度の戦術を考えるだけの頭脳はあったが高度な頭脳戦というよりはほとんど反射的な動きのもので、一応グロテスクな見た目ではあるが冴内の方がしっかりと人間の頭脳で考えて次の一手を予測していた。


パキィーーーンッ!


 林の中に極めて甲高い硬質な金属音が響き渡り、根元から折られたブレードが地面に落ちて突き刺さった。


「グゥゥゥゥッ!!」


 次の瞬間、冴内は巨大白カマキリの眼前にチョップをかざして静止していた。


「いつでもあなたにとどめを刺せます。どうしますか?まだやりますか?このままこの場から立ち去ってくれるなら何もしません。まだやるというのなら残念ですが僕はあなたを倒さねばなりません」


 どうした冴内?とツッコミたくなる程にホレボレするセリフを言う冴内だった。


「ワカッタワ・・・ワタシノマケヨ、ココカラサルワ・・・」


 巨大白カマキリは悪者パターンによくある油断を誘って再攻撃してくることもなく、素直に冴内に背中を見せて飛んで去っていった。


『ヤバイヤバイヤバイ!冴内君ちょっと君カッコ良すぎ!ワタシ君のことがますます好きになっちゃうよどうしよう!優さんにバレたら怒られる!っていうか倫理的にアウトになっちゃう!』

『確かにそれはアウトになるので程々にお願いします。自分は生涯優一筋を貫くことを誓っていますから』


『うん、そうするよ。あくまでもヒトとして君が好きだという範囲に留めるよ。一応ワタシも宇宙だしね、ところでどう?少しは何かつかめたかい?』

『そうですね、色んな花の蜜を飲んでまた一段とパワーアップした気がします、それに今の戦闘で身体の動きも元いた世界の感覚に近くなってきた気がします』

『それはいい!合体したことが役に立ってくれてるみたいだね!』

『はい、出来れば今みたいな戦闘をもう少しやってみたいです』


 冴内は巨大白カマキリが去っていった方角とは別の林の奥の方へと進んで行った。すると・・・


「アーレェーーー!ダレカ タスケテェー!」

『おっ!何やら格好の絶好のシチュエーションのようだよ冴内君!』

『みたいですね!急ぎましょう!』


 助けを呼ぶ声の方へと飛行すると、そこには大きな蜘蛛の巣に引っかかっている綺麗な巨大カラスアゲハ蝶がいた。そしてゆっくりと近づいてくるさらに巨大な毛むくじゃらの巨大マダラグモが現れた。


『ウワァーーーッ!ムリ!アレは生理的に無理です僕!』

『えっ!?どうしたの冴内君!?』

『僕ああいう毛むくじゃらで足がいっぱいあって、しかもあの色!あの毒々しい縞々模様!とにかく見た目が全部ダメです!』


『そうなの!?でも冴内君あれと似たようなカニとか言ったっけ?は美味しそうに食べてたじゃない』

『いやいやいや、全然違うじゃないですか!』

『えっ、でもカニも毛は少し生えていたし足もいっぱいあるし、同じようなもんじゃないの?』


『全然違いますよ!心の中の会話だから言いますけど、そもそも実は僕そんなに虫って好きじゃないんですよ、なんていうか苦手なんです』

『えっ!?そうなんだ!それは悪いことしたね、別の星を探してあげれば良かった』


「タッ!タスェテェーーーッ!」


『でも、どうする冴内君?』

『さすがに見捨てるわけにはいかないです!』

『そうこなくちゃ!』


 冴内は生理的に受け付けないヴィジュアルの巨大マダラグモへと果敢に挑んでいった。

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