390:エビカニ獲り
大きな川の岸辺で大きな魚を食べた冴内達は身体が5センチ程大きくなった。
「なんか体が軽くなった気がする!」(美)
「ボクも!」
「今度はもっと泳げる気がする!」(美)
「ボクも!」
ザブン!
またしても止める間もなく美衣と初は川に飛び込んだが、今度はちゃんと前進することが出来た。冴内のように魚雷のように進むのではなく、競泳選手のように手足をバタつかせるのでもなく、身体をくねらせて魚のように泳いでいた。しかしまだそれ程機敏に動くという程ではなかった。それを見た良子と優も後に続き水泳を開始した。
全員なかなかサマになっていて、動きは素早くはないが一応自由に泳ぎ回ることまでは出来るようだった。ちなみに全く息継ぎはしなかった。
「モガッ!ガボボビ、ベビガボブ!」(美)
※訳:おやっ!あそこに、エビがおる!
「ボンボガッ!」(初)
※訳:ホントだっ!
「ゴベビババ、ボベブガボ!」(良)
※訳:小エビならとれるかも!
美衣達は川にいる小エビならば今の自分達にも獲れるかもしれないと思い早速攻撃を開始した。
まずは美衣が正面から近づきゴールデンチョップの斬撃波を放ったが、真正面からの攻撃なので小エビは斜め後方にエビぞりバックで回避した。しかしさすが姉弟コンビということで、回避した先を予測して初がスイミング・クロス・チョップで小エビの頭に激突した。
小エビはその一撃で即死の脳死になったため、暴れることなく水中で停止した。すぐに美衣と初の二人がかりで小エビを抱きかかえ、なんとか陸揚げすることに成功した。
それを見た優と良子も別の小エビに狙いを付け、良子が真正面からブラックホールパンチの衝撃波を飛ばし、小エビが同じように斜め後ろにエビぞりバックしたところに、優があらかじめ美衣の宇宙ポケットから取り出していた久しぶりに使用するレイピアを小エビの脳天に突き刺して仕留めた。
美衣達が陸揚げした小エビは手長エビによく似ており、大きさはそれぞれの身体よりも一回り程大きかった。ちなみに手長エビはかなり美味しいが、やはり淡水に生息するものは寄生虫を有する可能性が高いため生食は避けるべきである。
その様子を岸から見ていた冴内は、自分も何か獲ろうと川の様子を見ていたところ、何やら大きな物体がゆっくりと岸に近い川の底を横向きに歩いているのが見えた。
「あっ!大きなサワガニだ!あれも美味しそうだ!でも自分一人だと引き上げられないかなぁ」
「私も手伝います!」(花)
「ウム、私も手伝おう」(最後ロボ)
「私も微力ながらお手伝いします!」(音ロボ)
「ホント!?有難う!」
「先程と同じような方法で引き上げるのが良いだろう」
「そうだね、了解!」
冴内はまた自分の身体に超強力軽量カーボンナノチューブ製ロープを巻き付け、あらかじめ今度は先ほど利用した大木に端を巻き付けた。
「それじゃ行ってくる!」
「洋様お気をつけて!」(花)
冴内はまたしても静かに入水したが、今回は冴内スクリュー魚雷ではなく普通に素人フォームの平泳ぎで進んで行った。
サワガニは冴内を見ても全く脅威対象として捉えていないようで、完全に冴内を低い相手として見て無視して歩いていた。
冴内は易々とサワガニに近付き背後に回って、どこが弱点か分からないが目と目の間の甲羅にモンゴリアンチョップを食らわせた。果たしてモンゴリアンチョップと書いて通じる読者がどれくらいいるか分からないが、とりあえず両方の手を頭の上から振り下ろして斜め下に打ち付ける技である。本来人間相手の技なので左右の鎖骨付近に打ち付けるのだが、今回は冴内オリジナルとして両方の手が激突する箇所を1点に集中させたのであった。
哀れ巨大サワガニは冴内オリジナルモンゴリアンチョップの一撃で甲羅にヒビが入り絶命した。冴内は急いでサワガニの周りをぐるぐると周り自分のロープをサワガニに巻き付けた。
とても綺麗な川なのと一撃で倒したのでサワガニが暴れて水が濁って見えにくくなることもなく、岸辺からでもその様子はハッキリと見ることが出来、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機とオリジナル花子は綱引きの要領で深く腰を入れて一糸乱れぬ隊列でジワリジワリと引き揚げ始めた。
先ほどの大魚に比べればサイズは小さいがそれでも仮のサイズ的には軽自動車程の大きさがあり、引き上げるのはそう容易いことではなかった。水中からは冴内もグイグイと押して歩き、なんとか4人の力で陸揚げすることに成功した。
「わぁ!父ちゃんすごいぞ!すごく美味しそうなカニだ!今晩はカニ鍋だ!」
「ホントだ!すごい!すごい!」
「わぁお父さんすごい!」
「ステキよ!洋!」
美衣達も既に10匹程手長小エビを確保していた。美衣達の身長よりも大きいので決して小エビではなかったが。
時刻は午後3時を回っていたので、そろそろ仮住まいの休火山の洞窟に戻ろうということになり、冴内達は捕まえたエビとカニを美衣の宇宙ポケットに格納して引き返すことにした。
例のサクランボを各自2粒食べて、一気に全力疾走して駆け抜けた。
「やっぱり!朝よりも身体が軽いぞ!」(美)
「うん!ボクも全然疲れない!」(初)
「不思議です、私達は金属製の機械の身体なのに、冴内様達が言っているように身体が軽くなった気がします!」(花)
「ウム、実際私の各関節部にあるアクチュエーターやモーター駆動力も2割以上も向上している数値が計測されている」(最後ロボ)
「お昼にお魚の骨を体内に取り込んだからでしょうか?」(音ロボ)
「ウーム・・・本来単なるカルシウムと微量なリンと各種ビタミンしかないはずなのだが、何故我々の機械の身体にも作用しているのだろうか・・・」
とても冷静に淡々と話しながらロボット3人組も凄まじい全身運動で草原と林と森の中を駆け抜けた。
行きの半分の時間もかからず、冴内達は休火山の麓まで来て上を見上げていた。
冴内はさいごのひとロボ4号機に足がかりになりそうな段差がある場所を探してもらって登山ルートを設定した。といってももはやそれは登山ルートと呼べるものではなく、正確に説明するならば垂直ジャンプルートと言うべきものだった。
まずは美衣が先発したがジャンプポイントは高さがおよそ10メートルもあり、それを助走もつけず垂直に一気にジャンプして、片足が足場に着いたと思ったらそのままその反動でまたジャンプして次のジャンプポイントまでほぼ垂直に飛んでいった。
しかしひたすら垂直というわけではなく、若干斜めにジグザグに移動していた。
美衣に続いて次々と各自テンポ良くジャンプしていき、10回程ジャンプして丁度高度100メートル近くの場所が踊り場のようになっていたので、いったんそこで全員とまって息を整えた。
そのような1セットを10回繰り返したところでようやく山頂に到着した。時刻は間もなく午後5時になろうとしており、やはり冴内達のお腹は不平不満の猛抗議集会のようにけたたましく鳴り響いていた。
すぐに極めて巨大な寸胴鍋を取り出して手長エビを茹で始めた。さらに別の巨大な鍋ではサワガニを茹で始めた。ちなみにお湯は火山の温泉の上流部に行って高温の源泉を利用したので、水を沸騰させる時間が短縮された。
当然冴内達の背丈よりも大きい手長エビも軽自動車程もあるサワガニもそのまま鍋に入れることは不可能なサイズなので、各々チョップで切断して投入している。
ただしサワガニの胴体部の甲羅については鍋に入れるのは諦め、その代わり火を焚いて直接蟹甲羅焼きをすることにした。
これは日本酒好きがいれば相当にたまらないことになっていただろう。