39:白馬の王子様
ユニコーンは立ち上がり泉の水を飲み、何かの木の根元に生えている草を食み租借し飲み込んだ。するとすっかり元気になってヒヒーン!とまるで「元気になったよ!」と言っているかのように冴内の前で前足をあげて見せた。ユニコーンは冴内の顔に何度も顔をこすりつけた。
熊が消滅した跡にはこれまでの熊の爪とは明らかに形も大きさも違う爪と、バナナの大きさ程もある牙が落ちていたのでリュックに入れた。
時刻は間もなく午後1時になるところだ。まだ時間はあるけどもう戻ろうと思った。戻る前に泉で顔を洗い、涙と鼻水の跡をきれいさっぱり消し去った。
ユニコーンに「元気になってよかったね。それじゃあ元気で」と言い草原に向かって歩き出すが、ユニコーンは冴内の後をついてきた。多分草原まで見送ってくれるのだろうと思ったが草原に出てもユニコーンはついてきた。
ユニコーンは冴内の前に出て頭を下げる。前足で地面をカッカッと踏んで頭を上下にふる。もしかして・・・乗れってこと?ユニコーンの側面に回って背中に手を乗せるとユニコーンは頭を下げて動きを停止させた。
これまで乗馬どころか馬の背中にすら乗ったこともなかったが、意を決してエイヤッとユニコーンに飛び乗った・・・が、勢い余って反対側に落っこちた。2度目はうまくいってとりあえず乗ることが出来た。しかしどこを持っていいのか分からない。後ろ髪を掴んで引っ張るわけにもいかないしどうすればいいんだ?と、思うが早いかユニコーンは駆けだした。当然後ろにすっぽ抜けてしこたま後頭部を打った。多分常人なら頸椎損傷か後頭部の内出血で全治にどれくらいかかることだろう。
なんとなく申し訳なさそうな顔(のように見えた)でユニコーンは戻ってきて、冴内はもう一度馬に飛び乗った。ユニコーンも理解したのか今度はゆっくり歩きだした。首に手を廻してみようとしたがユニコーンが動くと首も前後にゆれるし、冴内が座る位置からだと結構首まで遠い上にガッシリと太い首なので思いっきり前傾になって腕もすぐすっぽ抜けてしまう。結局ユニコーンの胴体を挟んだ足に力を入れて、手はフリーに上半身をリラックスしてバランスをとるしかないということが分かった。
何度か落馬したが次第に慣れてきた。なんとなくユニコーンが次にどう動くのか分かるようになってきて、冴内がバランスを崩しそうなるとユニコーンの方も動いて修正してくれた。そのうち走れ曲がれ止まれゆっくり歩けなどの意思疎通が出来るようになった。
その様子はしっかりと良野、木下コンビにガン見されており、当然携帯のズーム機能を使って録画されていた。
約束の2時近くになったので良野、木下コンビのところに戻ったが、二人を前にして20メートル程の距離でユニコーンは止まった。ユニコーンから降りて何となく冴内は察し「また明日くるから泉で会おうね」とユニコーンに言うと、ヒヒーン!と前足をあげて返事して森の方へ去っていった。
「言いたいことは山ほどあるけど、時間内まで調査を継続します」と良野さんは言って、木下さんと撤収時間まで植生調査を行った。
木下さんの地図を見ると今日調査した範囲と思われる箇所に斜線がひかれ、ビッシリと細かくメモ書きが書き込まれていた。なんか自分一人だけ乗馬遊びをしていたような気持ちになり、すごく申し訳ない気持ちになった。木下さんが自分とは違って一人前のプロの探索者に見えてまぶしかった。ウサギの肉とツノは当然無料で献上しようとそっと心に誓った。
ゲート村に帰る途中はひたすら二人からの質問攻撃で集中砲火を浴びた。話しの時間を稼ぐために少し歩を緩めようとまで言い出す始末だった。