389:おさかな
冴内は目の前を流れる大きな川を前にし、腕を前方に突き出し、スクリューが水の中で回転する様をひたすら思い描いた。まるで自分が潜水艦か魚雷になったかのようにイメージした。
やがて冴内の突き出した前腕からパステルカラーのレインボー粒子が出てきて螺旋を描き始めた。
その回転は徐々に高速回転していき、フォーンという甲高い音がし始めてきた。
「やっ!父ちゃん前にジメンさんに止められた時みたいになったぞ!」(美)
「今度は最後まで見られるのかな!」(初)
「すごい!何が起きるんだろう!」(良)
「きっとすごいわよ!楽しみね!」(優)
これは凄い物が見られるぞという期待に胸を高まらせ、冴内以外の全員が冴内を凝視した。
冴内は勢いよくズバァッと着水することはせず、ゆっくり静かに入水した。
すぐに凄い速度で進むかと思われたが、冴内はその場にとどまっており、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機だけがこの状態の冴内でもやはりダメなのかとほんの僅かだけ思ったのだが、冴内が前腕の向きを変えてその先にいる極めて大きな魚影に狙いを定めた途端冴内は前進し始めた。
最初はゆっくりした動きに見えたがすぐに速度は上昇していき、音も泡も波も立てずにグングンと加速して行った。岸から見ているとまるで最新式の最重要機密の超高性能魚雷のようだった。
不気味に進み続ける魚雷のような冴内に、大魚はまるで気付かず悠然と川の流れに逆らってその場に留まり続けていた。
大魚の視界の死角から迫った冴内はそこから速度をさらに上昇させて急角度で向きを変えて、大魚の目の付け根の後ろとエラの間にある縦の線と横の線が交差するポイントを正確に貫いた。そここそまさに魚の急所でもある脳がある場所だった。
「すごい!やったぞ!父ちゃん!」
「お父ちゃんすごい!」
「お父さんすごい!」
「みんな!喜んでる場合じゃないわ!ロープを引くのよ!」
「「「 分かった! 」」」
冴内が繋がった超強力軽量カーボンナノチューブ製ロープはどんどん川へ引き込まれていった。冴内は一発で大魚の脳天を貫いたので魚は全く暴れることはなかったが、まるで小型船程の大きさもある大魚は下流へと流されていったのだ。
全員フルパワーでしっかりと踏ん張ってロープを引っ張ろうとしたのだが、大魚の凄まじい重さと、ゆっくり流れているのに凄まじく強い川の流れにより、ズルズルと引きずられていった。
「グゥゥッ!すごい力だ!ヤバイぞ母ちゃん!」
「頑張ってみんな!」
「全員そのまま川に平行に走るんだ!下流に大木がある!そこでロープを固定する!」(最後ロボ)
「「「 分かった! 」」」
美衣達はロープを引っ張るのをやめて、全員ロープをもって川と水平に下流方向に走り始めた。短期間ではあるが、鍛えてきたせいか陸上では川の流れよりも速く走ることが出来た。
美衣達がプカプカと転覆した小型船のように流れる大魚を追い越して、さいごのひとロボ4号機が示した大木に近づくと、さいごのひとロボ4号機が1~3号機にはない新機能の一つのアンカーワイヤーを大木に向かって射出した・・・しかしやはりここでもバルダクチュン星の大自然の力は強く、さいごのひとロボ4号機の超硬質金属製ブレード付きのアンカーは大木に跳ね返されてしまった。
「想定通りだ!」ますます人間味を帯びてきた言葉を発するさいごのひとロボ4号機は走って近づき、アンカーワイヤーを大木に巻き付けて、先端のカラビナを冴内が繋がっているロープのカラビナにガチリと接合した。
「よしいいぞ!後はそのままでも自然と冴内は岸に寄ってくるはずだ!」
さいごのひとロボ4号機が言う通り、ロープはアナログ時計の針のように逆回転し、プカプカと浮いた大魚は岸に近づいてきた。大木からはミシミシという音はするがしっかりと根を張っているようでビクともしなかった。また、ロープについてもちぎれそうな気配はなかった。
ラッキーなことにうまい具合に浅瀬の川べりのところに差し掛かっていたため、大魚の引き上げは皆で押してゴロゴロと転がして岸に陸揚げすることが出来た。
ちなみに冴内は大魚を貫いた後は自分が棒のようになってストッパーの役割をしていた。文字で表すとTの字になっていて、天井にある水平の棒が冴内で、垂直の縦線の部分がロープである。普通の人間ならば胴体は真っ二つになっていたことだろう。
大魚は地球にいるサケやマスに似た魚で体側に綺麗な薄ピンク色のラインがはいっていた。
昼食前で空腹だった上に今体力をかなり消耗したので冴内達の空腹はさらに増して全員腹の虫が一斉に不満を爆発させてグゥグゥ鳴り響いていた。
とりあえずなけなしの力を振り絞って、家族全員で切り身を作る所で地べたに座り込み、後は花子が調理することになった。
まずはすぐにでも口に入れられるものとして、極上のトロサーモンのような部位をそのまま刺身にして食べた。美衣渾身の手作り刺身醤油につけて箸も使わず指でつまんでパクリと食べた。ちなみに淡水に生息する魚などは寄生虫を有する可能性があるので生食は十分に注意が必要である。
「「「 うんめぇ~~~ッ!! 」」」
「甘くてトロトロに溶けて抜群にうんめぇーッ!!」(冴内)
「この醤油すっごく合う!」(良)
「パクッ!ゴクン!パクッ!ゴクン」(初)
「なんて美味しいお魚なの!こんなの食べたことない!」(優)
「ややっ!もうなくなってしまった!」(美)
あくまでも仮のサイズによる説明になるが、2頭身状態の冴内達からすると大魚は小型漁船程の大きさがあり、いくら希少部位のトロ肉とはいえ相当な量があったはずなのだが、冴内達は5分もかからず平らげてしまった。
しかし今度は横からすぐにまたたまらない香りがしてきた。それは花子がちゃんちゃん焼きを作っている香りだった。やはり美衣手作りの自家製味噌にニンニクとゴマとさらにアレンジを加えて日本全国あちこちのスーパーで手に入るホワイトクリームシチューのルーを少し加えて大きな鉄板の上で野菜と一緒にジュウジュウ焼いていた。
珍しいことにさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機も料理を手伝っていて、米を炊いたり魚や野菜などの具材をカットしていた。
冴内達は出来たそばからあっという間に完食してしまうので、花子は絶えず休みなく焼き続け、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機も絶え間なく調理のサポートをし続けた。ちなみに花子は上機嫌で鼻歌を歌っていた。曲は盆踊りの曲だった。
大魚との激闘の後は冴内達の胃袋を満たすための激闘の末、小型漁船程もあった大魚は跡形もなかった。ちなみに兜焼きにして頭も綺麗に食べ、残ったのはまさに骨だけで、宇宙ポケットに入れて後で分解再生成して有効活用することにした。
さすがの冴内達も相当疲れたのか、珍しく昼食後はそのまま昼寝した。
冴内達はスヤスヤと眠っていたので、その間花子は食事の後片付けをし、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機は周辺探索を行い、有効な鉱石資源の調査と採掘を行っていた。
そうした状況だったので冴内達の微妙な変化に誰一人気付かなかった。当然眠っている当の本人達も気付かなかった。
2時間程経過して冴内達は目を覚ました。起きたら全員容姿が変わっていた・・・ということもなく、見た目は変わらず2頭身のままで、誰一人として変化に気付いた者はいなかったが、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機が鉱石採取から戻ってきたところ、微妙な変化に気が付いた。
「ウム?冴内 洋、君達はわずかだが大きくなっているようだぞ」
「えっ、ホント?」
「そうですね、実寸ではない仮のサイズで分かりやすくメートル法で説明すると皆さん5センチメートル程大きくなっています」
「やっ!ホントだ!花子お姉ちゃんと背比べしたら花子お姉ちゃんが少し小さくなってる!」
「ホントですね!美衣ちゃん背が伸びましたね!」
「分かった!お魚いっぱい食べたからだ!」(初)
「そうだ!花子お姉ちゃん達もお魚食べたら大きくなるぞ!」(美)
「そうですね!私もお魚食べてみます!」(花)
そういって花子とさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機は先ほど宇宙ポケットに入れた魚の骨を取り出して、各自ドリルや素手で粉々にしてボディに内臓されている貯蔵タンクに採り入れた。
魚の骨だけにカルシウム抜群で背が伸びるかもしれないが、果たしてロボットにも効果はあるのだろうか・・・