387:ぎんちゃん
冴内は目測ではなく自分の脚力の力加減を誤り、休火山の山頂から下界を見た際に、良子がそっちからは危険な感じがするという方向に転がっていってしまった。
その結果良子がまさに危険だと感じた肉食昆虫のオニヤンマに似た巨大昆虫に掴まれ今まさに冴内は捕食されようとしていた。
「やっ!すごいな父ちゃん!早速ムシさんと仲良くなって空を飛んでるぞ!」
「おっきなトンボさん!いいなぁ!」
「そ・・・そうなの・・・かな?」(良)
「キミハ イママデミタコトガナイ イキモノダ デモ トテモオイシソウナ カンジガスル」
「うわぁーーーっ!ちょっとまって!ちょっとまって!ストップ!ストォーーーップ!」
いよいよこの小説も今度こそバッドエンドで唐突に完結するのかと思われたが、そこで冴内の身体はパステルレインボーカラーに光り輝き、巨大オニヤンマを包み込んだ。
冴内はこの時チョップで攻撃して巨大オニヤンマを絶命させることはせず、全身からパステルレインボー粒子を放出させたのだ。
冴内自身は無意識でやっているのだが、自分の命の危機が迫っているにも関わらず、自衛のために止むを得ず巨大オニヤンマを倒すことをしなかったのは、オニヤンマがしっかりと冴内とコミュニケーションをとることが出来る存在で、割と理性的な発言をするので、なんとか殺さずに解決出来ないかと咄嗟に思ったからかもしれなかった。
巨大オニヤンマの口は冴内の目の前で大きく開けたまま静止しており、オニヤンマは羽ばたくのも止めてグライダー滑空のまま飛行を続けた。
「アタタカイ・・・コノヒカリハ アタタカイ・・・ワタシノ ハハオヤヲ オモイダス・・・ワタシハ、ワタシハ・・・」
ピカーッ!!
全身パステルカラーのレインボー粒子に包まれていたオニヤンマは全身が見事に光り輝きシルバーのオオギンヤンマに変化した。
「私は・・・私は一体・・・」
大きさは変わらないが見た目がなんとなく優しくなった感じのする巨大な複眼と冴内はしばし見つめ合った。
「あなたは・・・あなた様は一体どなた様なのですか?」
「僕の名前は冴内 洋、この宇宙を守るために別の宇宙からやってきた者です」
「さえない・・・よう・・・あなたが世界を守る」
「そうです、そのためにここで修行するために来ました」
「ああ、私は危うくとんでもないことをしてしまうところでした、本当に申し訳ありませんでした」
オニヤンマからオオギンヤンマに変化した途端、その身体だけでなく急に性格が一変した。元々理性的で知的なところがあったことも関係しているかもしれなかった。
「いえ、いいんです。分かってくれたようで良かった」
グゥゥゥーーーッ!!
「冴内様、お腹の具合が良くないのですか?」
「いや、なんだか急にすごくお腹が空いてきたんです。だいたい虹色の粒子を放出した後はすごくお腹が空くんです」
「そうなんですね、私も実はお腹が空きました。あちらに凄く美味しそうなフルーツがありそうですから一緒に行って食べましょう」
「それはいいですね!お願いします!」
冴内によって強制的に変えられてしまった元オニヤンマに似た現オオギンヤンマに似た巨大トンボは姿だけでなく性格だけでなく食べる物まで肉食から草食のベジタリアンに変わってしまったようだった。
「わっ!トンボさんの色が銀色になった!」
「やっこっちに向かってくるぞ!」
冴内を掴んだオオギンヤンマは元々行こうとしていた方角に進路を変えて飛行していた。そして向かう先には美味しいフルーツがあるとのことだった。
「わっ!なんだあれ!ブドウみたいなのが沢山なってる!」
冴内の向かった先には薄紫色の丸い実が沢山なっている木が現われた。その方向からは実に良い香りが漂ってきて、その時点で既に相当美味しいだろうということが容易に想像出来た。
巨大オオギンヤンマがフワリと大きな実のなる木に4本の足で着地し、残る2本の足で冴内の脇を抱えて優しく冴内も木の枝の上に置いた。そして大きなブドウの実を一粒取って冴内に渡した。その大きさは冴内の頭よりも少し大きいくらいだった。
「ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
冴内は皮ごとガブリとかじりつくと、まさにブドウの味がして少し酸味を感じつつも非常に甘く美味しいジューシーな味わいだった。果肉もみっちりしており噛み応えもあってこれなら大きな粒もあっという間に完食出来てしまえそうだった。
「コレすっごく美味しいよ!」
「本当ですね!こんなに美味しいもの食べたことありません!これまで私は肉食で果物など目もくれなかったのですが、こんなにも美味しいものだったんですね!これも冴内様のおかげです!」
「おぉーい!父ちゃぁ~ん!」
「あっ!美衣~ッ!皆ぁ~ッ!こっちだよーっ!」
冴内が一粒食べ終わり、オオギンヤンマに良く似た巨大トンボが二粒目を食べ始めていた頃に、美衣達が冴内達のいる木の近くまで辿り着いてきた。
冴内はチョップでブドウの実を切り落とすと、美衣達は上手い具合に各自自分達の頭よりも大きなブドウの実をキャッチした。
「「「 うんめぇーーーッ! 」」」
下の方からも美衣達の喜ぶ声が聞こえてくるのを確認した冴内は満足そうに微笑んだ。
やがて美衣達も木を這い上がってきて、冴内がいる枝まで登って来た。
「うわぁ!きれいなトンボさんだ!」
「コレ知ってる!父ちゃんの記憶にあった!オニヤンマだ!でもちょっと違う・・・銀色だ・・・銀色だから・・・ぎんちゃんだ!」
「ぎんちゃん?」
「そう!綺麗な銀色だからぎんちゃん!」
「私は・・・ぎんちゃん・・・」
美衣から勝手に名付けられたオオギンヤンマに似た巨大トンボはその瞬間光り輝いた。冴内が名前を付ける時ほど強烈な閃光ではないが、それでもやはり冴内の血を引く英雄勇者コックだけあって名付け親の力は強かった。
オオギンヤンマに似た巨大トンボのぎんちゃんは名前を付けられたことにより、さらに一回り巨大になってしまった。お腹の周りも銀色の体毛がフサフサととても美しい毛並みに覆われた。
「わっ!ぎんちゃん大きくなったぞ!」(美)
「カッコイイ!すごくきれいになった!」(初)
「私達と同じ銀色ね!」(優)
「有難う御座います!えっと、あなたは・・・」
「アタイは冴内 美衣!冴内 洋の娘で英雄勇者で炎の料理人だ!」
「ボクは冴内 初!冴内 洋の息子で別の宇宙のお星さま!」
「私は冴内 優!愛する冴内 洋の全宇宙でただ一人の妻よ!」
「私は冴内 良子!冴内 洋の娘で昔はワルだったけど今は良い子です!」
「あと下にいる可愛いのが花子お姉ちゃんで、頭が良さそうなのがさいごのひとで、残ったのが音声ガイドさんだ」
若干音声ガイドロボ2号機の紹介がぞんざいに感じる美衣の家族紹介だった。
「そうですか、美衣様、大変素敵な名前をくださりありがとうございます!洋様と美衣様のおかげで私はとても良いものに生まれ変わった気がします!」
「私の時とおんなじだね!」
「良子様もそうだったのですか?」
「うん!私も皆がとても優しく迎えてくれたおかげで良い子に変われたんだよ!」
「そうなんですね!」
「皆さんも洋様と同じくこの世界を救うために別の世界からやってきたんですか?」
「そうだよ!ボク達はあんこくまおうを倒すため、まずはここで修行するんだよ!」
「あんこくまおうですか?」
「うん!ぎんちゃん知ってる?」
「いえ、あんこくまおうかどうかは分かりませんが、遠くこの先にいる大きな水たまりの奥にはこの世界で一番恐ろしい者がおります」
「あっ!それはバルダおじさんが言ってたやつだ!どうもうなヤツって言ってた!」
「そうです、その恐ろしい者がいたせいで、私達の祖先は遠い昔に大きな水たまりから逃げてきたと言い伝えられております」
やはりバルダクチュンの言っていた通りこの先の海にはこの星で一番強い存在がいるようだった。