385:身体で宇宙を知る
昆虫惑星バルダクチュンでカブトンのツノの上にまたがって移動していた冴内達はとても大きな大樹の元に到着した。
カブトンのカブキチはそのまま冴内達をツノに乗せたまま大樹をゆっくり登って行った。すると何やら甘い匂いが漂ってきて、大きな窪みから紅茶色の液体のようなものがこんもりと盛り上がっているのが見えた。
「アレガジュエキダヨ オイラノダイコウブツダ」
「すっごくあまい匂いがする!」(初)
「きっと美味しいに違いない!」(美)
冴内達はほぼ垂直状態になっているカブキチのツルツルのツノから落っこちないように両足でガッチリホールドして上半身を腹筋で支えながら目の前の樹液を見た。
カブトンのカブキチは口を樹液につけて美味しそうに舐め始めた。冴内達もツノの上から人差し指を樹液に付けてペロリと舐めてみた。
樹液はトロリとしており手に着くと結構ベタベタするので、途中から美衣が宇宙ポケットからお玉やスプーンを取り出して皆に配った。
「あんまぁ~い!」
「おいしぃ~!」
「うんめぇ~!」
「「「 アハハハハ! 」」」
美衣はお玉ですくって鍋いっぱいに入れたが、樹液はそれくらいでは全く減っていないように見える程いっぱいあった。しかしカブキチが満足いくまで飲み終わると半分くらいはなくなった。
他の昆虫達もカブキチを邪魔しないように大人しく樹液を舐めていたが、こちらの方はカブキチ程沢山飲まなくても満足して飛んでいったりして大樹から離れていった。
カブキチも満足してゆっくりと地面まで戻り、また何日かしたら樹液は溢れる程溜まるだろうと言って冴内達と別れた。
楽しい寄り道になったとバルダクチュンは笑い、また歩き出した。時折色んな昆虫と挨拶をし、様々な景色を見たり植物を見て色々と説明を受けながら歩き続けた。
いつの間にか坂道になり、さらに進んで行くと坂の傾斜がどんどんキツくなっていき、そのうち垂直近くになった。
バルダクチュンはフリースタイルクライミングのようにホイホイと登って行き、冴内は抜き手を岩盤に突き刺して登り、後に続く美衣達は冴内が穿った穴に手をかけて登って行った。
途中で良い棚状の窪みがあったので全員そこで腰かけて昼食をとることにした。
美衣は全然疲れていなかったが、樹液の料理を考案するのに集中したいたので花子に昼食の準備をお願いすると言うと、待ってましたとばかりに嬉しそうに花子は昼食の支度をし始めた。
さいしょの民達の主食のほんのり甘い厚手のナンに似たパンを焼き、恐竜肉の照り焼きを作り野菜を挟んでテリヤキバーガーにした。また、コーンスープも一緒に作った。
冴内達はバルダクチュンにもテリヤキバーガーをすすめたが、バルダクチュンは自分はこの星そのものなので物を食べることはないと答えた。
初が僕やグドゥルお姉ちゃんは星だけどヒトと同じように食べたり飲んだり眠ったりするよとバルダクチュンに話すと、それは初やその子が特別だからだと答えた。
確かに初は冴内から名前を、それも自分の子供だと言って名前を付けてもらったし、グドゥルも冴内の虹色粒子を身体いっぱいに浴びて復活したから普通の星とは違う特別な存在なのだった。
冴内は美味しいテリヤキバーガーを食べながら、心の中でつい自分はとうとう宇宙そのものに名前を付けてしまったが、果たしてパステルさんはどうなってしまうのだろうかと若干不安になった。
ちなみに今この場にはパステルはいない。
食後のお茶も飲んでしっかり食休みをとった後で冴内達は垂直登山を再開した。
3時のおやつの時にまたしてもいい感じの棚状の窪みがあったので、初からリクエストのあったあんころ餅を食べた。昨日は色々あって結局食べなかったのだ。
おやつ休憩の後も垂直登山を再開し、夕方頃にはとうとう山頂に到着した。
「この星はまだ若くてあんまり高い山がないだべ、そんな中でもこの山はオラの星の中でも一番高い山だべ」
冴内達は休火山と思しき山の山頂にいた。すごくスリムにした富士山のようなフォルムの山だった。標高はあくまでも仮の例えのサイズになるが、冴内達を普通の人間サイズとした場合、標高は千メートル程度といったところだった。
冴内達が下界を見渡すと、辺りは一面緑豊かな森林地帯がずっと続いており遠くの水平線がかすかに青くなっていて海の存在が確認された。
「まず洋さん達はここで修行して鍛えるだべ。そして十分強くなったら海さ行って獰猛なおっかねぇヤツと戦って強くなるだべ」
「やった!修行だ!」(美)
「修行だ!どうもうなのと戦うんだ!」(初)
「おう、おっかねぇぞヤツは。カブトンでも敵わないくらい強くて獰猛なヤツだ」
「わっ!楽しみ!そいつ美味しいヤツだといいな!」(美)
「ボクも楽しみ!」
「ガッハッハ!頼もしいが今の美衣ちゃん達じゃ、パクッと一口で飲み込まれちまうべ!」
「分かった!アタイ修行する!」
「ボクも!」
「おう!明日から修行するべ!」
バルダクチュンはそう言って今は休火山となってる火口の方に降りて行った。すると丁度良い洞窟が現れてその中に入って行った。
中は地熱でとても丁度良い感じに温かくなっており、近くには温泉も湧いていた。
「この温泉は疲れた身体に良く効くし怪我も治るし飲めば病気も治る良い温泉だべ。修行で疲れたり怪我をしてもこの温泉に入れば元気になるべ」
「それだ!閃いた!」
美衣は温泉にダッシュで近づき、手ですくってひとくち口に含むとウンウンと頷き、宇宙ポケットからマグカップと樹液を満たした鍋を取り出し、マグカップに温泉を入れて樹液を大さじ一杯分入れてかき混ぜて飲んでみた。
「ウンメェーーーッ!!」
初がすぐにすっ飛んできて美衣がマグカップを渡してひとくち飲むとやはり「ウンメェ~!」といってニッコリ笑った。
冴内達もすぐに美衣の元に集まって次々とカップを口にしてひとくち飲んでウンメェー!と言った。
「なんか、これまで色々真っ黒スライムの黒豆モチとかサクランボとか桃とかピーチスライムゼリーとか食べてきたけど、この樹液温泉お湯割りも飲むと凄く気分が良くなるし身体の疲れもなくなって、元気が湧いてくるね!」
「ここにいる間はここでとれたもんを口にするのが一番効果があるべ。恐らくそれを洋さんの身体は分かったんだべ。さすが洋さん大したもんだべ」
「そうか!そうなんですね!そしたらここで獲れた野菜や果物やサカナ、そして最後に獰猛でおっかないやつを食べたら力がつきますか?」
「その通りだべ、洋さん達はこの宇宙で暮らしてこの宇宙にある星の空気を吸って水を飲んで物を食べてこの宇宙を身体で知る必要があるべ」
「なるほど!すごく良く分かった気がします!そういうことだったんですね!」
「そうだべ、この宇宙と一体になるにはこの宇宙にある物を身体に取り入れるのが手っ取り早いべ!」
「分かりました!ようし皆、明日からはまず食材調達をやろう!この山を何度も行ったり来たりすれば体力強化にもなって丁度良いと思うんだ」
「「「 りょうかーい! 」」」
こうして冴内達はパステルの宇宙に来て初めての星で本格的な修行を開始することを宣言した。
冴内は最初の修行で宇宙と一体になったが、それは第一段階の精神的な融合であり、次の段階として物質的に、さらに言えば肉体的に融合して力を物理的に作用させるための修行を行う必要があったのである。
そしてその修行として最も効率が良いのが、その宇宙で生活してその宇宙にある物を身体に取り入れるということだったのだ。