381:力を貸すよ
不思議世界では瞑想を続ける冴内の周りで美衣達がひっくり返っていた。さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機もひっくり返っていた。
冴内は胡坐をかいたままであったが、またしても見る人によってはかなりグロテスクな状態になっており、シルエットは冴内の形をしているが全身パステル調のマーブル模様になっていて、まるでサイケデリックアートのオブジェのようになっていた。
『す・・・すごい・・・冴内様、う・・・宇宙と一体になったのですね・・・わずか2日目で・・・信じられない・・・なんと・・・なんと優しく温かく、そしてなんという強大な力・・・』
「う~ん・・・イテテテ・・・やっ!父ちゃんがまたすごいことになってるぞ!」
「う~ん・・・あっ!父ちゃんがジメンさんみたいになってる!」
「う~ん・・・えっ!?あれがお父さん!?」
「う~ん・・・わっ!洋!?すごく綺麗ね!」
『ア・・・アンムルメンドウ?』(冴内)
「あんむるめんどう?なんだそれ?にほんごで話してくれ父ちゃん」
『シュチッ!』
「しゅちっ!」(美)
「しゅちっ!・・・ってどういう意味?」(初)
「分からん・・・きっとうちゅう語だと思うが、なんか気合が入る感じがする」
「お父ちゃん、にほんごで話して」
冴内は目も鼻も口もない顔でコクリと頷いた。すると、徐々にパステルカラーのマーブル模様は薄れていき、ヒト型オブジェクト状態だった冴内は元の冴えない冴内に戻っていった。
「洋、宇宙とお話しすることが出来たのね?」
「うん、話しをしてそれから一緒にこの宇宙の端まで見てきたよ」
「アタイも一緒に見た気がする!」
「ボクもなんかいっぱい色んなものを見た!」
「私も見た!多分暗黒四天王だと思う4人の驚く顔も見た!」
「やっ!アタイもそれ見たぞ!」
「ボクも見た!」
「私もしっかり目に焼き付けたわよ!」
「えっ!?そうなの皆!スゴイな僕はあまりにも沢山のものが一瞬でどんどん頭の中を駆け抜けていったから何を見たのか覚えきれなかったんだけど」
「アタイはめいそうして宇宙と一つになるのが難しいから、父ちゃんのことをずっと感じるように集中した。そしたら父ちゃんが宇宙と一つになったのが分かった。そして父ちゃんは木っ端微塵に大爆発して宇宙のあちこちに飛んでいった。父ちゃんはアタイには数えきれないほどのものすごくいっぱいの粒子になってすごい速度で飛んでいった。そして色んなものを突き抜けて行った」
「うん!そしたら数えきれないお父ちゃんりゅうしがものすごくいっぱいいる生き物や石とか土とか木とか色んなものを突き抜けて行ったよ!みんなとても驚いた顔をしたけど、その後みんな温かくて優しいお父ちゃんを感じていたよ」
初の説明を聞いたさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機はいよいよ冴内はニュートリノにまでなってしまったのかと驚いた。
地球にいたら恐らく岐阜県飛騨市神岡町にあるスーパーカミオカンデか2027年の実験開始を予定しているハイパーカミオカンデにしっかりと計測されていたことだろう。
「なるほど、あれはそういうことだったんだ」
冴内は宇宙が引き起こしたこととはいえ、自分がやらかしたことなのに美衣と初に説明されてようやく何が起きたのか分かるという有様だった。
「いや~なんかすごくスッキリした気分だ、なんだかすごく爽やかな感じがするぞ!今ならなんだか高く飛べる気がする!ようし!エイッ!」
ドゥッ
冴内は全員の視界から一瞬で消え去り垂直に上昇していった。
『あっ!』(ジメン)
ドゴンッ!!
「ゲェッ!!」
冴内は成層圏と突破し大気圏を突破し真空の宇宙空間へと飛び出した・・・かのように思われたが、透明な天井にしこたま頭をぶつけて落下した。
そんな冴内がジメンの地面に激突する前に、軽々と優が冴内をお姫様抱っこした。冴内の頭頂部を丹念に調べてたんこぶが出来ていないことを確認し、一応頭のてっぺんにせっぷん(口づけ)した。
「ありがと優」
「いいのよ洋!大好き!」
「僕も大好きだよ優」
今度は頭じゃなく冴内の唇に熱い口づけをした。
『申し訳ありません冴内様!ここは宇宙ではないのです!』
「そうだったね・・・つい、心も身体も軽やかになったので舞い上がっちゃったよ・・・」
確かに物理的にも舞い上がった冴内だった。
「まさか天井があるとは思わなった」
『大変申し訳ありませんでした、お怪我はありませんでしたでしょうか?』
「うん、平気だよ。ちょっと驚いちゃったけど」
恐らく常人ならば頸椎損傷、頭蓋骨陥没、いや、それどころか頭のてっぺんからつま先までくっつくくらいペチャンコになっていたことだろう。
『まさか冴内様があそこまで大ジャンプするとは思いませんでした。最高レベルに達しても冴内様達の世界で言うところの10メートルまでしか飛べないように設定してあるのですが・・・』
ちなみに冴内は500メートル程の高さで見えない天井に激突した。
「すごいな父ちゃん!」
「お父ちゃんすごい!やっぱりさいきょうだ!」
「いや、多分美衣達にも出来ると思うよ」
「どうしてだ?アタイはめいそうして宇宙とお話し出来なかったぞ」
「ボクも・・・」
「でも僕は瞑想中に美衣達をハッキリと感じることが出来たよ、僕は宇宙さん・・・えっと、名前はパステルさんって僕が付けたんだけど、パステルさんの力を借りることが出来るようになったから、美衣達は僕の力を借りることが出来ると思うよ」
「ホントか!?」
「ほんとう!?」
「うん、多分パステルさんの力を借りた僕の力を美衣達は借りることが出来るはず、少なくとも僕の方は美衣達に貸してあげる気まんまんだよ」
貸す気まんまんって、お前はどこの悪徳金融業者だといった感じだが、そもそも貸す側が貸す気まんまんだから宇宙の強大な力を借りることなど出来るのだろうか。
「どうすればいいんだ?」
「そうだね、全員手を繋いで輪になってくれるかい?」
「「「 りょうかぁ~い! 」」」
冴内達は、冴内⇒美衣⇒初⇒良子⇒優⇒冴内の順にリング状になって手を繋いだ。
「それじゃ貸すよ」
「「「 いいよ~! 」」」
冴内の丹田の辺りが光り輝きパステル調に光り輝く球が冴内の手を伝って冴内⇒美衣⇒初⇒良子⇒優の順に移っていった。
光の球はそれぞれの丹田の位置でいったん停止して強く光り輝き、その際美衣達は目を大きく開き、口もあっと丸く開けて驚いた。
光の球が一巡して冴内のとことに戻ってきて、冴内達は手をほどいた。
「どう?みんな」
「すごいぞ!みなぎってきた!」
「あったかい!」
「うん!優しくて温かい!」
「洋と一つになった感じがするわ!」
「それじゃジャンプしてみようか、軽くだよ、思いっきり飛んだら見えない天井に頭をぶつけて痛いからね、じゃあいくよ、イチニィノサン、ハイッ!」
「「「 ハイッ! 」」」
ドゥッ!
冴内達は本当に軽く飛んだように見えたが設定限界の10メートルの10倍の100メートルまで飛んだ。
「すごいぞ!アタイ10センチぐらいしか飛べなかったのに今100メートルは飛んでるぞ!」
「ホントだ!ボクも高く飛んでる!」
「昨日までと全然違う!」
「さすが洋!やっぱり洋が一番ね!大好き!」
「さすが父ちゃんだ!」
「さすがお父さん!」
「お父ちゃんがさいきょうだ!」
『な・・・なんていう人達なんでしょう・・・』
「これが冴内 洋とその家族だ」
「はい、これまでも私とさいごのひとさんは何度も信じられない光景を目にしてきました。これこそが冴内様達なのです」
『昨日まで駆け足で冴内様の活動記録を見てきましたが、こうして目の前の現実として見るまでは正直なところほんのごく僅かですが、果たしてこれは本当のことなのだろうかと思った部分もありました。しかし今目の前の現実を前に私は冴内様達を完全に一点の曇りもなく信じることにします。冴内様達ならば宇宙崩壊の危機を救ってくれると確信します』
冴内達は手を繋いで不思議世界の上空に空中停止して、パステル調に彩られたマーブル模様の砂丘を見渡した。
リングの中央にはまさしくこの宇宙そのものである球体状のパステルさんが優しく温かく光り輝いていた。