378:借り物上手
冴内ログハウスのリビングに出現した真っ黒ゲートと真っ白ゲートはどうやら暗黒四天王の一人によるものらしいという衝撃の事実がもたらされた。
『これは少し計画を変更する必要があります』
「計画変更ですか?」
『はい、本来なら冴内様達自身で気付いてくれるまで待とうと思っていたのですが、既に暗黒魔王の手が差し向けられているとなれば、悠長に待っている事は出来なくなりました』
「なるほど、で、僕等が気付くとは一体に何に気付く必要があるのでしょうか?」
『それはこの宇宙を理解するということです』
「この宇宙を・・・理解・・・」
『そうです、こちら側の宇宙を理解する必要があるのです』
「なんかその・・・なんとなくですが、分かる気がします。なんというか・・・具体的な理屈は分からないんですが、感覚的にそれが必要かも知れないってことは僕にも分かる気がします」
『さすがです冴内様!いけません私ったら・・・決してそんなつもりはないのですが、少々不安になって少しだけ冴内様を過小評価してしまいました、自分がとても恥ずかしいです、お許しください!』
「えっ!?いや!そんな、謝らないで下さい、実際僕はそんなに大したことないですから」
宇宙を破壊するどころか、ひょっとしたら再生できるのではないかという程のスーパーパワーを持つ神のような存在が、自分は大したことがないと言うことほど強烈に皮肉なことはないが、冴えない元一般人の冴内という人間の偽りのない素の状態がこうなので、全く皮肉には聞こえなかった。
『冴内様は昨日の修行をやってみてどのように感じましたか?』
「そうですね・・・運動不足を感じました」
「うん!ボク全然ジャンプできなかった!」
「アタイも最近身体がなまってた!」
『ウフフ、皆様方が運動不足ですか。でもこのまま肉体鍛錬だけを続けてもきっと・・・いや、それでも皆様方なら肉体鍛錬だけで克服してしまいそうな気も少ししますが、それではこちらの宇宙を自由に行き来出来る程の力は得られません』
「そのために、宇宙の力を借りるんですね?そして宇宙の力を借りるためにはこの宇宙を知る必要があるということなんですね?」
『まさにその通りです!さすがです冴内様!』
「いやぁ・・・自分で言うのもなんですが、僕は本当にただの冴えない普通の人間で、宇宙から力を借りてるだけに過ぎないんです。だからここでも宇宙の力を借りないと僕は何も出来ないかもしれないなって思ったんです」
『何という御謙遜!暗黒魔王達にも聞かせてやりたいです!あの者達だって元はただ単に宇宙の力を借りているに過ぎないただの借り物上手なだけでしたのに、今ではさもそれが自分達にしかない特別な力だと言い張って信じ切っておごり高ぶって傍若無人の限りを尽くしているのです!』
「えっ!そうなんですか?」
『そうです、確かに非凡な存在だったからこそ上手に宇宙の力を引き出せたのでしょうけれど、それを自分達の特別な力だと思い込んでいるのです』
冴内は内心でやっぱり自分は特別じゃなかったんだと思った。それどころかむしろそれで良かったと安心すらしていた。
『まさか2日目でここまで話してしまうことになるとは思いもしませんでしたが、修行の本質、そして本当の目的はまさにそこにあるのです。暗黒魔王、暗黒四天王を懲らしめるためには彼等以上に宇宙の力の借り物上手になることなのです!』
「分かりました、借り物上手なら僕もちょっと自信があります。何せ常日頃宇宙さんからは力を借りまくっていますから」
「アタイは少し自信ないかも」
「ボクも上手に借りれるか自信ない」
「私も」
「私も借りるのは苦手かも」
「えっ!そうなの?」
「うん、アタイは父ちゃんみたいに宇宙のこととかよくわからん」
「ボクも星だけど宇宙はとてもおっきくてボクよりもすごく大人だから話しにくいかも・・・」
「私もちょっと怖い」
「私はそもそも苦手よ、一度宇宙を壊しちゃったから相当怒らしちゃったし・・・」
「そ・・・そうなんだ・・・」
『優様は・・・ともかく、恐らく冴内様以外の皆さんの反応は正しいというか、それが普通の反応なのです。宇宙の力はそれほどまでに無限に近しく強大なので、自然と身体が畏怖するものなのです』
「・・・確かに力はそうなのかもしれませんが、僕には宇宙はとても優しくて温かい存在に感じます」
『素晴らしい!冴内様はそのように捉えているのですね!宇宙はそれを感じる者の捉え方によってその姿と力のあり方を変えるのです』
「えっ!そうなんですか?」
『宇宙は一つではありますが一つだけでもないのです。どういうことかというとそれを捉える者の写し鏡のようにいかようにもその姿を変えるのです。強大で無限の力もその捉え方次第で在り方が変わるのです』
「そういうものなんですね、僕はてっきり僕の前に現れる宇宙が宇宙そのものなんだとばかり思っていました」
『いえ、それは一つの真実なのです。冴内様がいらした宇宙においてはそれこそが宇宙なのです、しかしこちらでは思い上がった借り物上手が4人もいるものですから、困ったことになっているのです』
確かにたかが借り物上手ごときに宇宙を崩壊されるというのは困ったものである。
「ということは、僕が5人目の借り物上手になればいいってことなんでしょうか?」
『はい!それもとびきり上手な借り物上手になればいいのです!』
「分かりました、やれるだけやってみます!」
「頑張れ父ちゃん!」
「頑張ってお父ちゃん!」
「お父さん頑張って!」
「洋なら出来るわ!大好き!」
完全に冴内任せの美衣達だった。
『それでは修行を再開しましょう。とはいってもやることは同じです。しかしやり方はお任せします。修行の核心とも言える答えは既に明かしてしまいました。後は皆様がそれをどう体得すのか、そればかりは言葉で教えて出来るものではありません。皆様自信で会得獲得するしかないのです』
「分かりました!」
美衣達は早速またジャンプし始めたのだが、冴内は地面に座って胡坐をかいて目をつぶった。
「やっ、父ちゃん・・・ハッ!?そうか!分かっためいそうだ!」
「迷走?」
「いや、父ちゃんは迷って走ってない、目をつぶって宇宙さんと話しをしようとしているんだ!」
「目をつぶると宇宙さんと話しが出来るの?」
「ウ~ン、めいそうは難しくて実はアタイにも良く分からないんだ・・・途中で眠っちゃうし・・・」
「自分自身と向き合って心を静かに穏やかにする、そして自我を解き放ってやがて宇宙と一体になる、っていう説明文は覚えたんだけど、私にも難しくて分からないの」
「私も洋の横で一緒に瞑想したけど、実際のところ洋を側で感じられて気持ち良かっただけで、宇宙と対話とかしてないのよね」
「あっ!アタイ閃いたぞ!父ちゃんが宇宙さんから力を借りて、アタイ達は父ちゃんから力を借りればいいのだ!」
「それならボク出来る!」
「そうか!さすが美衣ちゃん!それなら私にも出来そう!」
「やるわね美衣!さすが私達の娘!私も大好きな洋を感じるのは大得意よ!洋から力を借りればいいのね!」
「そうだ!だからアタイ達は父ちゃんの事を思う瞑想をすればいいのだ!」
「それならいくらでも永遠に出来るわよ!」
「ボクも!」
「私も!」
そうして冴内は宇宙の力を借りるための瞑想を、美衣達はそんな冴内を取り囲んで宇宙の力を借りた冴内の力を借りるための瞑想を行うことにした。
まるで借りた金を借りるというような有様だったが、債務超過にはならないのだろうか。