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376:修行

 一面薄紫や薄桃といったパステル調の色彩に彩られた砂丘のような不思議な世界で、冴内達家族は全員横一列に並んでひたすら屈伸運動をしていた。


『はい!イチニィサンシ!ニィニィサンシ!サンニィサンシ!あんよはじょうず!あんよはじょうず!』


「「「イチニィサンシ!ニィニィサンシ!サンニィサンシ!あんよはじょうず!あんよはじょうず!」」」


 ・・・1時間経過


『はい!イチニィサンシ!ニィニィサンシ!サンニィサンシ!あんよはじょうず!あんよはじょうず!』


「「「ヒィヒィハァハァ、ヒィヒィハァハァ、ハァヒィハァハァ、ハンヨワヒョウフゥ、ハンヨワヒョウフゥ」」」


 ・・・1時間59分経過


キュゥーーー・・・キュワァーーー・・・


「なっ、なんか非常に危険な感じの音がしますが!

?」(音ロボ)

「恐らく縮退限界が近いのだ」(最後ロボ)

「だっ!大丈夫なのですか!?」

「我々は爆散するだろう」

「そんな!!皆さんは!あっっっ・・・」


 それまでパステル調に彩られた世界は凄まじい光に包まれた。真っ白などという生易しいものではなく一瞬で何もかもが分子レベルで消滅する程の光のスパークに包まれた。


 光の奔流がおさまると、粉微塵に砕け散って全員光の粒子となって宇宙に四散して後には何も残らない暗黒空間が広がっているだけだった・・・はずなのだが、相変らずパステル調に彩られた不思議な世界は存在し続けていた。


 音声ガイドロボ2号機はすぐに冴内達の姿を目で追いかけたが、つい先ほどまで家族仲良く横一列に並んで楽しそうに屈伸していた姿はどこにもなく、プログラミングされた疑似的感情でしかなかったにも関わらず、音声ガイドロボ2号機は今にも泣き出して心が壊れてしまいそうになったのだが・・・


「いや~最近運動不足で身体がなまってたよ」

「アタイもなまってた!」

「ボクも!」

「私も最近美味しいものを食べてばかりであまり運動してなかったから疲れた!」

「そうね!ちょうどいいダイエットになったわ!」


 冴内達は椅子に腰かけてテーブルの上にあるクッキーを食べながらお茶を飲んでいた。


 冷静さを維持するための感情抑制機能が働いたのか、音声ガイドロボ2号機はすぐに平常運転のマインドになった。


「少々冴内様達を過小評価してしまいました。私の認識力もまだまだです」(音ロボ)

「ウ・・・ウム、そうか・・・」


『皆さんお疲れ様でした!そうだ!よければこちらも試してみませんか?皆さんのお口に合えば良いのですが・・・』


 クッキーをのせたお皿の上に薄紫と薄桃色の渦巻き模様のクッキーのようなものが出現した。


「やっ!美味しそうだ!」誰よりも速く反応し、すかさず手にした美衣は全く躊躇することなくすぐに怪しさ満点のクッキーを口に入れた。


「サクサク、ゴクン・・・ウンメェーーーッ!」


 それを見た冴内達も皆クッキーを手にして食べた。


「「「 ウンメェーーーッ!! 」」」


 バタン!!


 何が起きたのかというと、クッキー1枚を全て食べ終えた冴内達が秒で机に突っ伏したのだった。


「フゥフゥ」

「グゥグゥ」

「ムニャムニャ」

「スヤスヤ」

「スゥスゥ」


『皆さんお疲れ様でした』

「だっ!大丈夫なのですか?導眠効果のあるクッキーなのですか?」

『いえ、そのような効果のある成分は入っておりません。栄養満点の美味しいクッキーです』


 さいごのひとロボ4号機は眠っている冴内の首に手を当ててバイタルを測定し「身体に問題はない、ただ眠っているだけだ」と言った。


 冴内達が眠っている間、ジメンはこれまでの冴内の活動記録のようなものがあれば見せてもらえないだろうかとリクエストしてきたので、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機はこれまでの様々な記録動画や情報データをジメンに見せた。


 ジメンが映像記録を見始めてから1時間程経過したところで冴内達は目が覚めた。時刻は冴内達の時間軸で午前11時過ぎになろうとしていたので、いったん冴内達は家に戻って昼食を食べてくると言った。


 ジメンはさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機のどちらか一方に残ってもらって、引き続き冴内の映像記録を見たいと頼み、音声ガイドロボ2号機が残ることになった。


 そうして冴内達は扉を開いて冴内ログハウスへと戻って昼食をとることにした。


 原子レベルで圧縮反応を起こす程の凄まじい負荷の中2時間も屈伸運動を続けたので、全員とてもお腹が空いていて疲労回復とスタミナのつく料理を食べることにした。


 冴内達の食事中にさいごのひとロボ4号機はそれまで録画した映像を解析し、現時点で分かる範囲での見解を添えて地球、宇宙連合、宇宙連盟に状況報告を行った。


 ちなみにジメンのいる不思議世界とはやはり通信を行うことは出来なかった。


 食休みを十分とった冴内達は再度ジメンのいる不思議世界へと戻って修行を続けることにした。


 全木製の扉を開けて中に入っていくと、ジメンはまだ冴内達の冒険活動記録動画を見ているところだった。映像は冴内達が試練の門に挑んでいるところが映し出されていた。


『皆さんお帰りなさい。食休みは十分なされましたか?』

「うん!もうだいじょうぶ!元気だよ!」(初)

『それでは修行の続きをなさいますか?』

「やる!修行するぞ!」(美)


『さすがです皆さん!やっぱり皆さんはガッツがありますね!』

 ガッツがあるという言い回しを用いる辺り、やはりこの思念翻訳機能は非常に優秀だと感心する冴内だったが、実際のところジメンの方では何と言っているのだろうかとも思った。


『それでは皆さん楽しく空高くジャンプをしましょう!午前中にしっかりと屈伸運動をしたので、準備はしっかりと出来ています。筋肉をほぐし、健を伸ばし、関節を動かしたので、思いっきり高くジャンプしましょう!私がイチニィサンハイッ!と言うのでハイッ!のところで大きく高くジャンプしましょう!』

「「「 はぁ~い! 」」」


『それではいきますよ!イチニィサンハイッ!』


ドゥンッ!


 冴内達は不思議世界の成層圏を超えて大気圏を超えて真空宇宙空間へと辿り着いた・・・ということはなく、信じられないことに10センチも飛んでいなかった。


「えっ!?」

「やっ!?」

「わっ!?」

「うそっ!?」

「あらっ!?」


『はい皆さん、もう一度!イチニィサンハイッ!』

ドゥンッ!

『もう一度!イチニィサンハイッ!』

ドゥンッ!

『イチニィサンハイッ!』

ドゥンッ!


 ・・・3時間経過


「ゼェーッ!ゼェーッ!」

「カハァーッ!カハァーッ!」

「ヒィーッ!ヒィーッ!」

「フゥーッ!フゥーッ!」

「ハァーッ!ハァーッ!」


『あら、皆さんどうしましたか?もっと楽しそうに笑って!はい!ジャンプジャンプ!イチニィサンハイッ!』


ドゥンッ!


『笑って!笑って!イチニィサンハイッ!』


ドゥンッ!


『もう一度!イチニィサンハイッ!』


バダンッ!


「ゼハァーッ!ゼハァーッ!」

「キヒィーッ!キヒィー!」

「・・・」

「グフゥーッ!グフゥーッ!」

「ゲハァーッ!ゲハァーッ!ガハッ!洋ッ!初が息してないわ!」

「ゴホッ!ガハッ!わっ!分かった!」


 冴内は匍匐前進のように美衣のところまで腹ばいになって進み、うつぶせになって倒れている美衣の腹のあたりをまさぐって宇宙ポケットからサクランボを取り出して口に含んで噛んで初に口移しでサクランボエキスを飲み込ませた。


「ケホッ!ケホッ!ハァッ・・・ハァッ・・・お父ちゃんありがとう・・・ボク何か色んな夢を見た」


 たかが楽しいジャンプで死の淵をさまよい走馬灯を見た初であった。


 さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機はあの冴内達がここまでの状態になるとはとても信じられなかった。この想像を絶する程の過酷修行を見て、実はジメンが冴内達を弱らせてから倒そうとしている暗黒四天王の一人なのではないかと思ってしまう程だった。

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