374:ジメンさん(仮)
冴内達はさいしょのほしにある冴内ログハウスの玄関扉の横に出来たただの木製扉の中に出現した不思議な世界へと入って行った。
その世界は辺り一面砂丘のような形状で、最も特徴的なのはその色彩だった。全体的にパステル調の薄紫や薄桃色の世界で空は薄い青色だった。
砂丘のような形状なので足元は砂かと思ったが砂ではなかった。美衣が突然抜き手を地面に叩き込んだがガキンッ!というとても素手で叩いたとは思えない音がした。
美衣は全ての指が複雑骨折して泣き叫ぶということもなく、それどころか突き指すらしていない様子で平然と「わっ!この地面硬いぞ!」と言った。
「フム・・・成分分析してみよう」
さいごのひとロボ4号機にはこれまでの初号機から3号機までとは異なる追加機能が搭載されていて、早速その機能を披露した。
といってもはたから見たらただ突っ立ってるだけで何も変わっていないようだった。
しかし何やらチュイーン!という音がしており、この音は何?と冴内が聞くと、足の裏にあるドリルで地面を削り成分分析用のサンプルを取得している最中だという答えが返って来た。
「ドリル!?カッコイイ!」(美)
「カッコイイ!」(初)
やはり子供はドリルが好きなようだった。
しばらく地面を削る音が続いたが、やがてさいごのひとロボ4号機は諦めた。
「宇宙最強硬度を誇る金属のドリルでも傷一つつけられない。これは大したものだ」
「えっ?そんなにスゴイの!?」
「アタイ、ドリルチョップを試してみる!」(美)
「ボクもやる!」(初)
いかにも子供らしい発想でドリルチョップなる新必殺技を試すと美衣と初は奮起した。
今度は先ほどまでのチュイーン!などという生易しい音ではなく、ギャリギャリギュギィーン!という常人ならば失神してしまいそうな凄まじい音が鳴り響いた。
ちなみに二人とも逆さまになって両手を抜き手状態にしてコマのように回転していたが、あまりの回転速度で何か一本の棒が立っているようにしか見えなかった。
開始から3分後に二人ともバタンと倒れてうつぶせになった。冴内達が近寄ると小声で「目が回った」という二人の言葉が聞こえたので、美衣のお腹にある宇宙ポケットからサクランボを取り出して美衣と初に食べさせたところ、すぐに二人とも回復した。
「ダメだ!アタイ達のドリルチョップじゃ勝てない!父ちゃんカタキをとってくれ!」
「父ちゃんやっつけて!」
「えっボク?」
「頑張って洋!」
「お父さん頑張って!」
「わ・・・分かった!」
何故そこで熱くなる?と思わないでもないが、冴内達は地面を掘り起こすことに躍起になった。
「えっ・・・えーと、ドリルチョップだっけ?」
冴内は目を閉じて呼吸を整え始めた。
「スゥー・・・ハァー・・・」
「スゥー・・・ハァー・・・」
「スゥー・・・ハァー・・・」
それはこれまで何度か冴内のターニングポイントと言っても良い時にやってみせた精神集中作業と同じもので、冴内は無意識のうちに自分のゾーン状態に入ろうとしていた。
冴内はひたすら深い呼吸を繰り返し、頭の中で螺旋を描く様子を思い描き瞑想状態に突入した。
やがて冴内は無意識のうちに両手を前に突き出すと、虹色粒子の螺旋が冴内の両手にまとわりついて凄まじい高速回転を開始した。
フォーン!というどこか神聖な感じのする音が鳴り響き、空気の揺らぎまでが見て取れた。
美衣達は目を大きく開いてその様子を感動しながら凝視し、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
冴内は突然カッ!と目を見開き、美衣達はいよいよスゴイものが見れるぞ!と期待度MAXで身を乗り出した。
「行くぞ!ドリルチョッ・・・」
『チョっと待ってェェェーーーッ!!ストップ!!ストォーーーーップ!』
フォォォーーーン・・・・
冴内の両手の螺旋音がフェードアウトして、虹色粒子の螺旋は霧散した。
「今の声はだれだ!?」(美)
「だぁれ?」(初)
『冴内家の皆さん初めまして!私は・・・えっと、私は・・・私・・・アレ?私は誰でしょう?』
「アタイには分からん」(美)
「うん、ボクにも分からない」(初)
「っていうかどこから声が聞こえてるの?」(冴内)
『えっと、私は今皆さんが立っている場所そのものです』
「えっ?そうなの!?」冴内は少し大げさに片足を浮かして足元を見た。
「わかったジメンさんだ!地面さん!」(初)
「えっ?地面さん?」(冴内)
『えっと・・・そうなんでしょうか?』
「いや、私に尋ねられても分からんが・・・」(最後ロボ)
「地面ってことはあなたも初と同じでこの星そのものってことじゃないですか?」
『いえ、ここは星ではありませんよ』
「うん、ここはお星さまじゃないよお父ちゃん」(初)
「えっ!?星じゃないの?じゃあここは一体何?」
『えっと・・・何でしょう?』
「地面だ!」(美)
「うん、地面だ!」(初)
「いや、確かにそうだけど・・・」
『じゃぁとりあえずジメンということにしましょう』
「えっ?そんなんでいいの・・・」
『はい、あまりそこには固執しません、私を指す場合の仮の識別子ということでお願いします』
「そうですか・・・分かりました。えっとジメンさん初めまして僕は冴内 洋です」
「アタイは冴内 美衣!冴内 洋の娘で英雄勇者コックだ!シェフとも言う!」
「ボクは冴内 初!冴内 洋の息子でさいしょのほし!」
「私は冴内 良子!冴内 洋の娘でげんしょのひとの末裔の良い子です!」
「私は冴内 優!愛する夫、冴内 洋の妻よ!」
「私もげんしょのひとの末裔で最後の思念体、皆からはさいごのひとと呼ばれている」
「私は音声ガイドAIです、冴内様達のお世話をしております、主に情報担当です」
『私はジメンです、この通り今皆さんがいる世界そのものです。皆さんが別の宇宙と呼ぶ存在によって造り出された出来立てほやほやのものです』
「ジメンさんは大分こちらの言葉が流暢なんですね」
『私には皆さんの言葉を話している認識はありません。恐らく私を作った宇宙さんの思念翻訳機能が優秀なのだと思います』
「ホウ!そちらの宇宙にも思念翻訳機能があるのか!」(最後ロボ)
『その発言から察するにさいごのひとさんの所にも思念翻訳機能があるのですね』
「ウム、それには高性能な演算装置が必要であり、その装置がカバー出来る範囲内でしか機能しない」
『おお!それはこちらでも同じです。皆さんとこうして自然と対話出来るのも現時点では皆さんがいるこの私の世界だけのことなのです』
「なるほど、貴君は存在そのものが高性能演算装置のようなものなのだな。そしてその役割はこうして冴内 洋達とコミュニケーションをとるためのものなのだ」
『その通りです!貴方は非常に優秀な洞察力と知識を持つ方なのですね!』
「さいごのひとさんは頭が良いんだ!」(美)
「ボクもそう思う!」(初)
『そうですね!私もそう思います!』
「ウ・・・ウム・・・」
最近ごく僅かに少しづつではあるが人間味らしい仕草をすることがチラホラ出てきたさいごのひとロボは若干照れているように見えた。
『さて、色々と皆さんにお話しすることがありますので、時間をいただけますでしょうか?』
「もちろんです!そのために僕達は来ました!」
『有難う御座います冴内様、少々お時間がかかりますがご容赦願います、それではお話しします』
こうして、別の宇宙から造り出された出来立てほやほやのコミュニケーションスペースそのものである仮名ジメンは冴内達に説明し始めた。