373:ゲート開通
冴内ログハウスの横に本当に文字通り扉と枠だけを作って帰っていったさいしょの民達を見送った冴内は一応念のため扉を開閉させてみた。
取っ手や取り付け可動部なども含めて一切金属が使われていない全木製の扉だが、非常にしっかりした作りになっており、丈夫で長持ちしそうだった。
そして一応少しだけ期待したものの、やはり扉を開けても向こうの景色が現れるだけだった。
しかし冴内には確信があった。恐らくこの扉は後日別の宇宙と繋がるであろうという確信が。
すると美衣達が近くに並ぶゲートから出てきて、冴内のすぐ後ろにある木製扉に集まって来た。
「これがゲートなのか?父ちゃん」(美)
「うん、今日小人さん達が作っていったんだよ」
「わっ扉だけだ!」(初)
「そうだね、でもきっと近いうちにこの扉は別の宇宙と繋がると思うよ」
「そうなのか?」(美)
「うん、別の宇宙さんが小人さん達に扉を作るようにお願いしたみたいだからきっとこれはゲートになると思う」
「なるほど、分かった!」(美)
「楽しみ!」(初)
「そうだ、今日のご飯はミャアちゃんのところのコックさん達と一緒にご馳走を一杯作って持ってきたから、しろおとめのお姉ちゃん達と一緒に食べるんだ!」
「わっ!それは嬉しいな!すごく楽しみだよ!」
しろおとめ団達はいったんおとめぼしに戻って、彼女達の正装である白装束からカジュアルな服に着替えて戻って来た。ちなみに彼女達が着ているのは日本全国にチェーン展開しているアパレルショップの服で、以前富士山麓ゲート研修センター近くの大型店舗で大量に買い込んだものである。特に下着は全員気に入っており何度もリピート買いしている。
冴内達はリビングのソファをずらしてスペースを確保し、いつものダイニングテーブルに別途テーブルを付け足して延長してしろおとめ団達と一緒に楽しい夕食会を開いた。
宇宙ポケットから次々と作りたてホヤホヤの状態の料理が出てきて、テーブル上にどんどん並べられていった。
肉料理、魚料理、どちらも獣人惑星の極上の食材と一流コック達と一緒に作ったもので、そこに美衣オリジナルのアレンジが加わったものだからヒト族である冴内達の舌にも合ってどれも絶品だった。
美味しい料理を大好きな家族と仲間達と一緒に食べるものだからより一層美味しく感じられ、会話も大いに弾んでとても楽しい夕食会となった。
夕食後、今度は冴内達がおとめぼしに行って、おとめ観光ホテルの温泉大浴場のお風呂に入りにいった。そのまま寝泊りしたいところだったが、ゲートに何か起こるかもしれないので冴内達はログハウスに戻って寝ることにした。
いつも通り夜の9時頃という早い時間に全員熟睡した。そして冴内は夢を見ることはなく、夜中に何かが起こることもなかった。
明けて翌日。
これまたいつも通りの腹時計で目覚め、美衣達は朝食の用意をし、冴内は朝イチで初と一緒に外に出てさいしょの民達が作った扉の元へと向かった。
「昨日とおんなじまんまだね」(初)
「そうだね、昨日と同じで扉があるだけだね」
それでも冴内はL字型の取っ手に手をかけて水平状態から垂直状態に90度回転させて扉を開けてみた。
当然いつも通り向こうの風景が見えるだけだと思っていたのだが、扉を開けると全く違う風景が出現した。
「「 わぁっ! 」」(冴内&初)
そこにはこれまで見たこともない風景が広がっていた。そもそもまず目に飛び込んでくる色彩が違っていた。冴内達が今住んでいる場所は緑の草原とその奥の湖の澄んだ青とさらにその奥にある山の緑の色彩なのだが、扉の先にあるのは薄紫や薄桃といったパステル調の色彩で、砂丘のような形をした風景が目の前に広がっていた。
冴内と初は扉の左右に回り込んで扉の裏側を確認したところ、扉が空いた状態でそこから見える風景は通常の冴内ログハウスの敷地内の風景だった。
もう一度扉の正面に戻ってみるとそこから見える景色はまるで別の世界の風景になっていた。
いったん扉を閉じて冴内は初に「今度は初が扉を開けてみて」と言い、初が「わかった!」と応えて少し背伸びをして扉を開けてみたところ、不思議な世界の風景はなく、冴内ログハウスの敷地と奥にある湖と遠くの山々がそのまま見えるだけだった。
「わっ!さっきのところじゃない!ただの扉に戻っちゃった!」
初はそのまま扉を通過してみたが、普通にただの扉の裏側に出ただけだった。
冴内がいったん扉を閉じて、もう一度扉を開くと今度は別の世界の光景が映し出された。
「あっ!またふしぎな場所だ!お父ちゃんが開けるとふしぎな場所になるんだ!」
「そうなのかな?」
「朝ご飯出来たよ~!」(美)
「とりあえず朝ご飯を食べてから本格的に調査しよう」
「うん!」
扉を閉めて、冴内と初は家の中に戻って朝食をとることにした。
朝食はいつもの炊き立てご飯に納豆に焼き魚と葉物野菜のお浸しと具沢山味噌汁と第3農業地の人達お手製の干し沢庵で、全員モリモリたらふく食べた。
食後のお茶を飲んで食休みしながら冴内達はあれこれ話し合った。
その後全員で家の外に出て扉の前に立ち、美衣から順番に扉を開けてみた。
結果はやはり冴内以外の全員、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機と花子と量産型花子も含めて誰一人として不思議な世界は現れず、冴内が開けた時だけ不思議な世界が出現した。
「ウム、これは恐らく安全装置のようなものかもしれない」
「安全装置?」(冴内)
「そうだ。冴内以外の者が扉を開けて間違って別の宇宙に入り込んでしまわないようにしているのではないかと思う」
「ひょっとして今回冴内様が見た夢の世界に私達が干渉出来なかったのも何かしら関連があると思われますか?」(音ロボ)
人様の夢の世界にまで干渉出来ることの方が大いに問題があると思わないでもないが、今この場合はスルーすることにしよう。
「ウム、その仮説は大いに有り得る」
「確かに事情を知らない小人さん達とかが別の宇宙に入り込んで行方不明になったら大変だよね」
「そっかぁ!」(初)
「「アハハハ!」」(美&良)
「早速入る?洋」(優)
「そうだね、これまでと同じ装備を準備して早速探索しようか」
「「「 りょうか~い! 」」」
「おっと・・・えっと、この事を関係各所に連絡してもらえると助かるんだけど・・・」
「あっ!それなら私が行います!私は残って留守番を致しますからさいごのひとさんも冴内様と一緒に探索なさって下さい!」
「冴内 花子、協力に感謝する」
「いいえ!」
「ありがとう花子、留守をよろしく頼むね」
「はい!お任せください!」
「よし、それじゃ出発準備開始!」
「「「 了解ッ! 」」」
早速冴内達はヘルメットを着用し、一人ずつ球体ドローンを抱えて扉の中へと入って行った。誰も弾かれることなくちゃんと不思議な世界の中へ入って行くことが出来た。
冴内達が全員扉の中の不思議な世界に入り込んだことを確認して、それを見届けた花子が最後に扉を閉じた。扉を開け放したままにして不用意にさいしょの民や放牧している家畜などが入り込んでしまわないようにするためである。
しかしすぐにまた扉が勝手に開いてしまった。
といってもこれは想定外の事故ではなく、冴内が向こうの世界から扉を開けたものであった。
その理由はちゃんと元の場所に戻れるのか確認するためのものだった。扉を閉めたが最後、向こうの世界で扉が消え去って、もう元の宇宙には戻れないなどということが起きないかどうかを確認したのだった。
家族全員中に入ってからそんな重要なことを確認するあたりがいつもの冴内クォリティだった。
もちろんさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機はあらかじめその危険性について考慮していたが、このトンデモ超人メンバー達にはどんな場所に飛ばされようとも命の危険などという言葉とはおよそ無縁であるので今回も事前に警告することなく黙ってついていったのである。
いよいよさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機も冴内クォリティに染まってきているのかもしれなかった。
ともあれ、冴内達はとうとう今度こそ別の宇宙だと思われる場所へと入って行った。
果たしてその場所は一体どんな場所で、これからどんな事が起きるのだろうか・・・