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372:史上初の木製ゲート

 しろおとめ・ニアの授賞式に参加する途中で冴内ログハウスに立ち寄ったしろおとめ団達から、冴内も一緒に参加しないかと誘われて、今の所ゲートもないようだし久しぶりにミャアちゃんの星に行こうかと思っていところ、何やら家の外でトントンカンカンと音がし始めた。


 窓から外を見てみるとさいしょの民の何人かが木材を運んで大工仕事をしているようだった。


 すると量産型花子の一体がやってきて、彼らが言うにはゲートを作っているとのことだった。


 とりあえずしろおとめ団達には一緒には行けなくなったと言い、美衣達にもこっちのことは任せてニャアちゃんの授賞式に参加するように伝えてとお願いして冴内は家の外に出た。


 冴内が家の外に出ると、さいしょの民が数人何やら木の枠を作っているところだった。


「みんなおはよう、何を作ってるの?」

「げーと だよ!」

「げーと 作ってるんだよ!」

「げーと 作ってってお願いされた!」


「えっ?お願いされた?誰にお願いされたの?」

「わかんない!」

「しらないひと!」

「でも さえない よう のためって言ってた!」

「言ってた!」

「カミサマ さえない よう のためだって言ってた!」


 冴内は頭の中でこれは考えようによってはちょっと危険な香りがすると思ったが今は飲み込んだ。

 冴内を神様だと信じ切っている純粋な民達が悪意ある者に騙されて煽動されて間違った方向に進んでしまう危うさを感じたのだ。


「冴内 洋、どうやらさいしょの村にある航宙艦AIからの報告だと、そこにいる数人のさいしょの民達は昨晩夜遅くに起きだしてこの家の方に来たそうだ。量産型花子と防衛システムも彼等を捉えていたが、それほど近くまでは来なかったのと、警戒レベルも極めてゼロに近く、すぐに彼等は引き返したので特に問題視しなかったそうだ。ただ航宙艦AIからの報告ではこれまでこうしたことは一度もなく、彼等の足取りも何か夢遊病患者のようで、何かに催眠操作されている可能性も考えられるとのことだ」


 冴内は催眠操作という言葉に反応し、少し緊張感が高まったが、とりあえずそのままさいしょの民達の様子を見守ることにした。


 さいしょの民達は実に器用で、洗練された大工道具を使っているわけでもないのに、上手に木材を切削加工していった。


 彼等は設計図のような図面もなしに各パーツを作っていった。ただ時折ポケットからヒモを取り出して長さを測り、鋭いエッジのある小さな石で目印を付けて切削加工していた。


 非常に興味深いのが、彼等はクギを使わず特殊な形状の凹凸を作って大きな木筒で叩いてはめ込んでいき、口に水を含んでから霧状にそこに吹き付けて木を膨張させるとガッチリ接合されてビクともしなくなった。


 冴内は不思議と彼等の大工仕事作業を見るのがとても面白くずっと見ていた。特に何か小さな部品を作っている者の様子が気になり、近づいてその様子をしっかり観察した。


 その者は何本もの小さな鋭利な石を布の上に並べており、使う石を取り替えながら器用に小さな木を削って形を整えていった。その木は目が細かくて硬くて丈夫そうな木だったので、削るのも大変そうだった。


 形が整うと今度は布の鞄から何やら竹筒のようなものを取り出し、栓を抜いて中に入っていた液体を別の布に染みこませてから小さな木の部品にその液体を塗りこんだ。そしてそれが乾くまでの間別の部品を作った。乾いた後はさらに同じ液を塗りこむということを5回繰り返した。


 やがて一通りの部品が完成すると、小さな木枠に丁寧にはめ込んでいった。まだ未完成の状態だが冴内にはそれがドアの部品だということが分かった。


 L字型の取っ手を垂直状態から90度回転させて水平状態にすると小さな部品が連動してストッパーがピョコっと飛び出してきた。思わず冴内は手を叩いてすごいすごいと喜んだ。


 途中で優がお茶と焼き菓子を作って持ってきて、作業をしていたさいしょの民達に配った。和気あいあいとした会話をしたが、そうした会話の中からは怪しい催眠的な暗示をかけられたような気配は全く感じず、いつもの至って平和で素朴な可愛らしいさいしょの民達そのものだった。


「昨日の夜僕の家の近くに来たかい?」

「う~ん・・・覚えてない!」

「寝てたから覚えてない!」

「覚えてない!」

「寝てた!」


「えっと・・・でもゲートを作ってって頼まれたことは覚えてたんだよね?」

「うん!覚えてる!」

「覚えてる!」

「げーと 作れば カミサマ さえない よう 喜ぶ!」「さっき カミサマ さえない よう 喜んでた!」

 先ほどドア部品を作っていた者が言った。

「うん、あれは見事だったね。君達はすごく器用で凄いなと感心したんだ。とても楽しくてずっと見ていられたよ」

「「「 えへへへ! 」」」


 小休止後も作業は続き、その後昼食の時間になったのでまた作業は一時中断した。さいしょの民達は各自美味しそうなお弁当を持ってきていたので、冴内はリビングに戻って昼食を取ることにした。


 朝はガッツリスタミナどんぶりを食べたので、昼食は軽めのものをとり、食後にリビングの大型ディスプレイにてニャアちゃんの授賞式の模様を見た。


 獣人達が整列し、片方にはいかにも戦士と思われる凛々しい獣人達がいて、もう片方にはお偉いさんと思われる恰幅の良い獣人達が並んでいたが、冴内からすると皆可愛らしいネコ科の動物に見えた。


 一段高い壇上には中央にミャアちゃんがいて、その横に家臣と思われるヒゲが立派な年長の獣人達がおり、その反対側にしろおとめ団達と美衣達も並んでいた。


 やがてニャアちゃんの名前が呼ばれて、正面の豪華な扉が開き凛々しくもやっぱり可愛いニャアちゃんが登場し、ミャアちゃんの正面にまで来るとそこで恭しく片膝をついて頭を下げた。するとミャアちゃんは良く通る声で祝辞の言葉を述べ、その後二つの勲章を授けた。


 ニャアちゃんが起立して一礼すると、斜め後ろに付き従えていた従者がすぐにしろおとめ団の白装束の胸の位置に勲章を取り付けた。


 そこで音楽隊の音楽が鳴り渡り、盛大な拍手が送られた。さらにその場にいる者達にグラスが配られて、ミャアちゃんの祝杯の元グラスが高らかに掲げられて皆一気に飲み干した。ちなみに美衣達のはリンゴに似た味のジュースだった。


 冴内が見ている映像は午前中の録画のもので、今のライブ映像では豪華な昼食会の様子が映し出されていた。どれもとても美味しそうな料理で、美衣と良美(よしみ)の元にはいかにもコック長と分かる白くて背の高い帽子を被った獣人がおり、何やら真剣に話し合っていた。恐らく料理に関して語り合っているのだろう。


 家の外ではまたトントンカンカンと音がし始め、さいしょの民達が大工仕事を再開したようだった。


 やがてドカンドカンと大きな音がして地面も揺れているのが分かり、外に出てみると杭を地面に打ち込んでいる様子が見てとれた。


 どうやら作業は終盤に差し掛かっているようで、最後に扉を固定するための基礎と土台を作っているのだと分かった。


 やがて扉とその枠がTの字を逆さにした基礎部分にしっかりと固定されて木製の扉が完成した。


 美しく派手な装飾はないが木目が美しくとてもしっかりした作りでかなり頑丈そうな印象を与えながらもどこか温かさを感じる見事な扉だった。


 しかしながらそこにあるのはただの扉だった。頑丈な枠と扉があるだけだった。当然扉を開けても向こうが見えるだけだった。


 さいしょの民達はゲートが出来たと冴内に報告すると、優がまたお茶とお菓子を用意して和気あいあいと会話をし、その後普通にさいしょの民達はそれぞれの家へと帰っていた。


 さいしょの民達の誰一人として、ただの枠と扉を作っただけのことについて疑問を感じたり不思議がったりする者はいなかった。


 後には頑丈そうな扉だけが残され、冴内ログハウスの玄関扉の横に扉だけが存在するというシュールな光景が展開されていたのであった・・・

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