370:それぞれのお勤め
獣人惑星に遊びに来ていた美衣達はしろおとめ・ニアが獣人族最強の伝説的英雄【ギャオウギャウウギャミィー】の血を受け継いでいるらしいという大事件に巻き込まれていた。
獣人惑星でもしろおとめ団達の勇姿は知れ渡っており、白装束に身を包んだ凛々しい乙女の戦士達の中に自分達と同じ獣人がいるということでしろおとめ・ニアは大変な人気を博していた
そんなニアが実は獣人族にとっての伝説的英雄の血を強く受け継いでいるとあっては獣人惑星の住人にとっては衝撃的な大事件である。
ミャアと臣下達はニアに深々と頭を下げながらニアの出生について知っていることをどうか教えてくれないだろうかと懇願したところ、ニアは良く覚えていないけどアタシは単なる捨て猫だったニャと答えた。そして冴内 洋に名前を与えてもらうまでは弱虫だったということを正直に答えた。
良子が捕捉するかたちでしろおとめ団達は元々ポテンシャルは高かったが、冴内 洋に新たに名前を与えられたことで新たに生まれ変わって皆強く美しくなったのだと言うと、誰一人疑うことなく全員完全に納得して信じきった。
ニアも強く頷き、アタシが今こうしてあるのは全て洋さんのおかげニャ!と言った。そしてさらに美衣から色々と手ほどきを受けたおかげで強くなったと言った。
「久しぶりに稽古するかニャアちゃん!」
「やるニャ!お願いするニャ!」
これは非常に興味深いことになったとミャアちゃんの宮殿内は騒然となり、美衣達は神聖な闘技場へと移動することになった。
獣人族の申請な闘技場に到着すると、非常招集された獣人族の一流選手達が整然と整列しており、マシーンプラネット製の高性能ドローンカメラも沢山宙に浮かんでいた。
美衣とニアは闘技場の中央に向かい合って立ち、互いに礼をした後すぐにお互い戦闘獣モードになった。二人とも毛が逆立ち四つん這いになり、美衣は銀色の美しい毛髪から輝かしい黄金色に変わり、ニアも銀色の美しい毛並みから輝かしい純白に変わった。そしてニアの方は爪と牙が鋭く尖って長くなった。さらにニアの目は赤く輝き美衣の目は黄金色に輝いた。
もの凄い威圧感と殺気と闘志がぶつかり合い、闘技場の周りに整列していた一流戦士達はそのオーラに負けじと必死に精神を集中した。
「行くぞっ!」
「ギャウッ!」
まるで手抜きアニメのように何も見えなくなり、凄まじい激突音と衝撃波だけが闘技場に轟き響いた。
それでもさすが一流戦士達だけあって、収束して縦に細くなった瞳孔が目まぐるしい速度で動いており、なんとか美衣とニアの動きを捉えようとしていた。
突然二人の姿が闘技場の中央に現れたかと思ったら、頭と胴体だけは見えるのだが四肢の動きがまるで見えず手足が透明になっているようだった。
恐ろしいことに相当頑丈であるはずの闘技場の石畳が削られていびつな爪痕が次々に出来た。
「もう一段上げるぞ!ついて来れるかニャアちゃん!」
「お願いするニャ!」
いよいよ残像が残り始めて、美衣とニアが闘技場の上に何人も現れた。
ミャアちゃんも臣下達も一流戦士達も呆然として見守るだけで開いた口が塞がらなかった。本人達はいたって真剣なのだが、その顔は高齢の臣下も含めて物凄く可愛かった。
突然ビキィッ!という音がしてニアが倒れた映像が現われた。ニアはかなり痛そうな顔をしており、立ち上がることが出来ない様子だった。
美衣はニアに近付き、チョップヒール!と言ってニアに手をかざすと黄金色の粒子がニアを優しく包み込みニアの表情はとても穏やかになった。
そして美衣は宇宙ポケットからサクランボを取り出してニアに与え自分も一粒食べた。
「やっぱり師匠にはまだまだ敵いませんニャ!」
「いや、ニャアちゃんは前よりも強くなった。アタイは真っ暗ゲートで前よりも強くなったのだ。そのアタイにここまでついてきたニャアちゃんは確実に強くなっているのだ!」
「有難う御座いますニャ!美衣ちゃん師匠!」
「ウム!見事だニャアちゃん!」
闘技場は割れんばかりの拍手と歓声が響き渡った。当然今の模様はマシーンプラネット製の高性能カメラ内臓ドローンでしっかり録画されており、後日獣人惑星内の世間に公開されることだろう。ちなみに二人の動きが速すぎて画像解析にかなり時間がかかった。
臣下達は大いに頭を悩ませ、ミャアちゃんもニアこそ獣人惑星の新たな王に相応しいのではないかと話したが、ニアは自分は生涯しろおとめ団の一員であり、今後もおとめ観光事業としろおとめ基金活動に専念するので獣人惑星の一員になることは出来ないと丁重に断った。
とりあえず獣人惑星の名誉市民と名誉顧問という肩書だけは引き受けることにして、双方の折り合いがついた。獣人惑星の住人の獣人達もこれなら納得して誇らしく思うことだろう。
そうした一幕もあり、その夜は盛大な晩餐会となった。前日も相当豪華な食事ではあったのだが、この夜はさらに豪華な晩餐会となった。
獣人惑星の各地から名のある名士達がやってきて、次々と美衣達に喜びの言葉を言い、貴重な土産物を渡していった。
その後晩餐会の場にて特別に美衣とニアは戦いの舞を披露して会場は大盛り上がりとなった。
一方冴内ログハウスの食卓もなかなかにゴージャスなことになっていて、精のつくスタミナ料理がズラリと並んでいた。ただしステーキについては昼におかわりするくらい食べたので、夜は魚介類とニラやニンニクのようなスタミナ成分が多く含まれる野菜やスパイスの素になる植物を使って、フランス料理のブイヤベースに似た煮込みスープを作った。
他にもウナギに似た魚のかば焼きやさいしょの民達に伝わるトロイモをタップリすりおろして何かの鳥の卵を割って混ぜ合わせたとろろご飯など、様々な精のつく料理があった。
久しぶりに夫婦水入らずで風呂に入り。風呂上りには若干興奮気味になる副作用のあるピーチスライムゼリーをほんの少しだけいつもより大目に砕いてクラッシュゼリーにして混ぜ合わせたフルーツポンチを食べて、優お待ちかねの夫婦のスキンシップ活動の時間となった。
昼に続いて二回戦目の夜の戦いは延長戦があるボクシングの世界タイトルマッチのように激しい戦いとなり冴内は大分ハッスルして消耗したが実に心地良い汗を流す戦いだった。
8時頃に試合開始のゴングが鳴り、そこから2時間以上二人は激しい戦いを繰り広げ、いつもは9時過ぎに就寝しているのだが、この日は10時近くまで延長戦となり、最後には10カウントで冴内はノックアウト負けとなり、冴内の意識は深い深い海の底へと沈んでいった。しかし決して不快な気持ちで深い海の底へと沈んで行ったのではなく、天にも昇る心地よさで海の底へと沈んでいった。冴内は久しぶりに泥の様に眠った。
そして深い深い眠りの底へと辿り着いたとき、遠くから冴内を呼ぶ声がしてきた。
『モシモシ・・・』
「うぅ~ん・・・」
『モシモシ・・・』
「うぅ~ん、ムニャムニャ・・・」
『モシモシ・・・』
「うぅ~ん、ちょっと待ってくださいね」
『モシモシ・・・』
「・・・はい・・・冴内 洋です、すいません、ちょっと疲れちゃってまだよく頭が働かないです」
『アタマガ ハタラク?アタマガ ロウドウスル?』
「いや、そういう意味じゃなくて・・・あれ?それで合ってるのかな?う~ん・・・」
やはり冴内はかなり消耗していたらしくなかなか脳が覚醒しなかった。そもそも深い眠りについている夢の中なのではっきりと頭脳が覚醒することの方が難しい状況だった。