367:石像
真っ白な世界に初めて出現した何かを察知した冴内は常人ならば即死級の緊急減速で停止し、美衣達の集合を待った。
美衣達はさらに速いマッハ級の速度で数十秒ほどで冴内の元に集合した。
「父ちゃんスライムか?」(美)
「いや、違うみたい」
「何か四角いのがある!」(初)
「えっ?アレって・・・」(優)
「うん、アレは・・・」(良)
以前も時折記載してきたが、冴内以外は全員とんでもない視力を持っているのでいち早く何かを認識したようだった。
「皆には何か分かるの?」
「うん、アレは多分・・・」(良)
「ボク分かった!アレはヤタイだ!」(初)
「屋台だ!あそこにあるのは屋台だ!」(美)
「えっ!?屋台!?そうなの?優」
「うん、あれはどう見ても屋台よ」(優)
真っ白い世界にようやく初めて出現したモノ、それは何故か屋台だった。しかも真っ白い屋台だった・・・
冴内達は一応警戒しつつ屋台に近付いた。
「ホントだ・・・なんで、なんで屋台なんだ?しかも真っ白い屋台だ」
「誰もいないぞ!屋台の料理を作ってる人はいないのか!」(美)
「屋台料理ないの?ざんねんだ!」(初)
こんな得体の知れない場所の屋台料理など、普通は食べようという気にはならないと思うのだが、彼等にはそういう常識よりも興味と好奇心と食欲の方が遥かに上回っていた。
冴内達はさらに屋台に近付き、あちこち詳しく見て回った。
「本当に屋台だね、全部真っ白だし何で出来ているのかさっぱり分からない、木でもなさそうだし鉄でもなさそうだし、これ何で出来てるんだろう?」
「ウム・・・成分的には石に近いな」(最後ロボ)
「そうですね、石灰っぽいですね」(音ロボ)
「何で屋台なんだろう・・・」(冴内)
「まだ一つの可能性の域を出ない推論が幾つかあるがその中で最も有力なのが先日の結婚披露宴パーティーの映像記録ではないだろうか」(最後ロボ)
「私もそう思います」(音ロボ)
「えっ?どういうこと?」
「先日君達はずっと大型ディスプレイで結婚披露宴パーティーの様子を見ていたが、もしかしたらその情報が影響しているのかもしれないのだ」
「ゲートが壁掛けテレビのすぐ横にあるからってこと?」
「うむ・・・実の所かなり安直な連想なのでその可能性について言及するのはいささか抵抗があるのだが、全く何の手がかりも未だ見つけられない状況下では、今目の前で結婚披露宴パーティーで映された屋台そっくりなオブジェクトが突然出現したという極めて異質な現象からは、大型ディスプレイで君達が見た映像データが影響を与えたとしか考えられないのだ」
「なるほどそうだよね、そうじゃなきゃ突然屋台が現われるなんていうまったく意味不明なことは起きないよね」
「いらっしゃい!何にしますか!」(初)
「お肉の串焼きとお団子下さい!」(美)
「わかりました!・・・はい!出来立てほやほやで熱いから気を付けて下さい!」(初)
「ありがとう!ムシャムシャムシャ!うんめぇ~ッ!」(美)
「「「 アハハハハ!! 」」」
冴内達は屋台ごっこをしている初と美衣を見て大いに癒された。
それから屋台をくまなく観察して持ち上げてみたりなどしたが、本当にただのオブジェクトだったので一応サンプルとして美衣の宇宙ポケットに格納してから冴内達は再度全員横に並んでから移動を再開した。
見通しが良いので一気に加速してマッハ近い速度で飛行しながら進むと、またしても冴内のコースに何かが出現したので同様に全員を召集して注意しながら近づいた。
「あっ!りゅう君だ!りゅう君がおる!」(美)
「ホントだ!りゅう君だ!」(初)
「白いから龍美さんかもしれないわよ」(優)
「ツノの形がりゅう君に似てるかも」(良)
「すごいな皆、よくこんな遠くからでも分かるね」
冴内達がさらに近づいたところ、確かにりゅう君にそっくりの白い石像が佇んでいた。ただ大きさは3メートル程度で10分の1スケールに縮尺されていた。
「これ、どうやって浮いているんだろう?」
「りゅう君だからお空に浮いてるんだと思う」(初)
「そうだね、多分何か重力制御装置のようなものが入っているのかも」(良)
「うむ!良く出来てる!りゅう君そっくりだ!記念に持って帰ろう!」(美)
「さんせい!」(初)
またしても誰の許可も取らずに無断で勝手に美術品とも言っていい程の素晴らしい彫刻の石像を美衣は宇宙ポケットに格納した。
再度冴内達は横に展開して進み続けると、やはり冴内のコース上に何かが出現した。
「あっ!今度はきっとしろおとめ団のお姉ちゃん達だ!」(美)
「ホントだ!たくさんいる!」(初)
「そうね!あれはしろおとめ団の皆ね!」(優)
「あっすごい!まだヒトの形だった頃の龍美お姉さんがいる!」(良)
「えっ?そんなところまで分かるの?僕には人っぽい集団がいるくらいしか分からないよ」
ちなみに冴内ですら今や視力にしたらアフリカの大自然に住んでいる人達以上の視力を誇る程に進化しているのだが、過去に記載してきた通り美衣達は何かの光学観測機械レベルの視力なのであった。
もうほとんど警戒心もなく、すぐに石像に近づいた冴内達はその出来栄えに非常に感心した。
「うわぁ・・・すごく良く出来てる」
「お姉ちゃん達みんなとってもきれいだ!」(初)
「人間の龍美お姉ちゃん懐かしいな!」(美)
「ニアちゃんも可愛い!」(良)
「ウフフ、恵子と温子は石像でも仲良しね」(優)
「これも良く出来てるから持って帰ろう!おとめ観光ホテルのロビーに飾ると良いと思う!」(美)
「そうだね、それは良いアイディアだ」(冴内)
またしても芸術品を無断で勝手に持ち去る冴内達だった。
「ところで大分遠くまで来たような気がするけど、今どれくらいの距離にいるのかな?」
「ウム、既に4千キロに到達している」(最後ロボ)
「えっ!そんなに移動しているの?」
「はい、冴内様達は今日は平均してマッハ2から3程度の速度で移動しているので既にその距離にまで到達しているのです」(音ロボ)
「なるほど、やっぱり真っ暗闇と違って前に何もないのが分かるから飛ばしても怖くないんだよね、そしたらもう少し進んで5千キロまで行ってみよう」
「「「 りょうかーい! 」」」
冴内達はいよいよマッハ5超という速度で飛行したので10分程度で5千キロ付近まで到達した。
「また何か出てきた、あっそして行き止まりだ!」
「アタイの所も行き止まりだ!」(美)
「ボクのところも!」(初)
「私の所も目の前は壁よ!」(優)
「私のところも行き止まり!」(良)
「わっ!コレは!!」
「どうした父ちゃん!」(美)
「どうしたのお父ちゃん!」(初)
「洋!」(優)
「お父さん!」(良)
美衣達は秒ですっ飛んできた。すると・・・
「あっ!父ちゃんだ!父ちゃんがおる!」(美)
「ホントだ!お父ちゃんだ!」(初)
「すごい!お父さんの石像だ!」(良)
「洋そっくり!洋そのもの!これ欲しい!」(優)
そこには真っ白な冴内の石像が置いてあった。冴内十八番のポーズで、敵を足捌きで半身になって躱し敵のガラ空きになった側面をチョップで打ち下ろしている姿だった。
石像彫刻のせいか冴えない冴内なのに実に美しい姿勢で精悍な顔つきに見えた。
美衣が何も言わずに速攻で宇宙ポケットに格納しようとしたので冴内は「えっ、持って帰るの?」と慌てたが「コレは記念に必要なものだ。コレは良いモノだ!」と冴内の記憶で見たとあるアニメの登場人物のようなセリフを言って有無を言わさず格納した。
結局あちこち見て回ったが漆黒の闇のゲート同様に5千キロで行き止まりで他に通路も何もないので、冴内達は猛スピードで引き返すことにした。