366:真っ白な世界
冴内達は久しぶりに何事も起こらない平穏無事な生活をまったりと過ごしていた。
この2日間冴内達は裏方に徹していたので、実際に結婚披露宴パーティーの様子がどんなものだったのか分からなかったので、大型ディスプレイでその様子を見て楽しんだ。
一応体裁としては結婚披露宴パーティーではあるのだが、異なる三つの宇宙による大文化交流会といった感じで、色んな宇宙人達が自らの文化を紹介する催し物が多くあり、それらを見ているだけでもとても面白かった。
配信映像はシステム化されており、個別の催し物や名産特産物産品に屋台まで、見たい情報全てに対して詳細な映像情報も収録されており、さらに個々のアイテムや料理に関する詳細情報も閲覧参照することが出来た。
美衣がこの料理を詳しく知りたい!とリクエストすればそのレシピや出自が明らかになったり、初があそこに飾ってあるモノはなぁに?と言えばそのアイテムが大きく様々な角度で映し出されて詳細な情報を知ることが出来た。
これはいつまでも何度も見続けられるほどに大変に面白い配信映像システムで、冴内達はすっかり昼食を作るのを忘れる程に見続けていた。
さすが宇宙一のメイドと言っても過言ではない花子が実に良く気が利くことに、昼食を作って量産型花子と一緒にダイニングテーブルに昼食を並べてきた。
昼食はさいしょの民達が良く食べるものでナンに似たパンと野菜と鶏肉に似た何かの肉のスープが出てきた。朝食に宇宙各国の一流料理をたっぷり食べたので、あっさりした素朴な家庭料理が良いだろうということを計算して出すあたりがさすがである。
スープはあっさりとした塩味なのだが、野菜や鶏肉の旨味がしっかりと溶け込んでいるので芳醇な味わいがあり、それに対してほのかに甘さを感じるパンが絶妙な組み合わせとなって、朝にかなり食べたにも関わらずこの昼食もなかなか手が止まらず、いくらでも食べられそうだった。
皆から絶賛されて嬉しそうな花子だが、これはさいしょの民達に教えてもらったのを作っただけで、すごいのはさいしょの民の人達ですと謙遜した。
午後も全く飽きることなく色んな宇宙人の催し物やアイテム展示品や屋台料理を見て過ごした。その間ずっとリビングにある壁掛け大型ディスプレイは三つの宇宙の様々な文化的なものを映し続けた。
夜は美衣が様々な屋台料理にインスパイアされたようで、食材は多少異なるが映像で見たものとほとんど同じ料理が並べられた。
定番の串焼き料理や煮込み料理、さらに惣菜団子や焼きそばのような麺類などもあり、いわゆるB級グルメのようではあるが、それでも各宇宙から選ばれただけあって、どの料理も即席で出来上がるようなものではなく本格的にしっかりと仕込まれ手の込んだ料理であり、どれも非常に美味だった。
結局その日は全く何事も起こらず、大フィーバーだった祭りの後をゆっくりまったりと自宅でくつろいで過ごした1日となった。
そして一夜明けた翌日・・・
「やっ!父ちゃんゲートだ!ゲートが出来てるぞ!」(美)
「ホントだ!ゲートだ!真っ黒じゃないゲートだ!」(初)
大型ディスプレイ横の壁にまたしてもゲートが出来ていた。
冴内達は相変わらず怖いもの知らずで腕をゲートの中に突っ込んだ。腕から先が切断されるとか消えてなくなるとかいう恐ろしい想像力は一切働かないようだった。
「今度のゲートは明るいね、向こうの世界が見える・・・けど、なんか真っ白い世界しか見えないね」
「ホントね、真っ白すぎて何も分からないわ」(優)
「真っ黒じゃなくて真っ白ゲートだ!」(美)
「アハハハ!まっしろゲート!」(初)
「どうする洋?」
「とりあえず朝ご飯を食べてから考えよう」
「「「 りょうかぁーい 」」」
再び得体の知れないものが自分達の住んでる家に出現したというのに、まるで気にせずそのすぐ側にあるダイニングテーブルで食事をするといういつもの冴内達だった。心臓に剛毛が生えているのではないかというくらい図太い神経とタフなメンタルを持つ一族だった。
朝食は美衣大好物の第3農業地の米と納豆で、美衣オリジナルブレンドの納豆専用醤油と最近良い感じに熟成してきた自家製味噌を使った具だくさん味噌汁と焼き魚と漬け物をたらふく食べた。
ちなみに美衣だけでなく冴内家は皆ご飯と納豆も好物である。
「昨日は夢を見た?洋」
「いや、何も見なかったよ」
食後のお茶をすすりながら冴内は答えた。
「今度もまだちゃんと完成してないのかも」(美)
「そうだね、まだ中に入っていないから分からないけど、さっき見た感じだと今度は真っ白で何もなさそうだから完全に出来てないかもしれない」
「またスライムがいるのかな?」(初)
「う~ん・・・そうだねぇ・・・」
「でも真っ暗よりもマシだと思う」(良)
「そうだね、真っ暗よりは良いね、でも夜も真っ暗だと明るくて眠れないかもしれないなぁ」
「そうなのか?アタイは眠くなったらいつでもどこでも眠れるぞ」(美)
「ボクも!」(初)
相変らず実に頼もしいというかタフで羨ましい限りの二人だったが、冴内はもしも眠れない時は以前さいごのひとロボが行った導眠効果のある音を出してもらえばいいかと心の中で密かに思った。
ともあれやはり実際に中に入ってみない事には何も分からないので、食休みを十分とった後で冴内達は真っ白ゲートの中に入ってみることにした。
初めてということでまずは様子見レベルで探りを入れる程度に探索すると皆に言い聞かせてまずは冴内が一歩中に踏み入れた。
続いて優が入ったが今回は弾かれることなくすんなり入れた。続いて美衣達も入り、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機も問題なく入っていくことが出来た。
ゲート内はまさしく真っ白の世界で、やはりゲートの側面は壁になっており正面方向に広大な部屋が続いているようだった。
「もしかしてこれって、真っ暗闇が真っ白になっただけなんじゃないかなぁ・・・」
「うむ、その可能性は大いにある」
「とりあえず皆こないだみたいに横一列に並んでくれるかい?」
「「「 りょうかーい 」」」
冴内達は漆黒の闇のゲートの時と同様に横一列に並んだ。今回も全員ヘルメットを被っており、浮遊ドローンも各自従えているが、当然ライトで照らす必要はなかった。
「父ちゃん前のまっくらゲートと同じくらいのところに壁があるぞ」(美)
「私のところも美衣ちゃんと同じだよ」(良)
「うむ、左右の幅は前回と全く同じ距離だ」
「うーんもしかして同じ部屋なんだろうか・・・ともかく前に進もうか、何か見つけたらいったん停止して合図を待ってね」
「「「 りょうかーい! 」」」
今度のゲートは真っ暗闇ではなく遠くを見渡せるので、障害物に激突する恐れがないので冴内達は最初から結構な速度で移動した。
障害物もスライムも出現しないので徐々に速度を上げていき時速700キロを超える程にまでなった。
「あっ!前方に何かある!」(冴内)
「アタイの所には何もない!」(美)
「ボクの所も何もないよ!」(初)
「私の所もないわよ!」(優)
「私の所もないよ!」(良)
「じゃあ全員僕の所に集まって!」
「「「 了解ッ! 」」」
前回同様に冴内達は横一列に並んで移動しているのだが、ちょうど冴内が真ん中を進んでいて、これはゲート入り口の真正面でもあった。
果たして冴内のコースだけに出現したものとは一体何なのだろうか・・・