362:パーティーフィーバー
そしてとうとうその日がやって来た。二つの宇宙をまたにかけて、二組のカップルの大結婚披露宴パーティー当日である。
カップルは二つの異なる宇宙だが、来場者は三つの異なる宇宙からやってくるので、正確には三つの宇宙をまたにかけた一大イベントであった。
当然1日だけでは足りないので、2日に渡って繰り広げられることになっていた。
まずは朝早くから各宇宙代表の一流料理人や各宇宙から選りすぐりの文化的な催し物を開くためのスタッフ達が続々とやってきた。
野外会場は巨大な楕円形状で中央にはステージがあり、ひな壇上になった観客席もあるが基本的にはあちこち歩き回れるように中央ステージを囲むように陸上トラックのような外周路があった。ところどころ雨や日差し避けの屋根付きの場所も用意されており、当然トイレや更衣室や休憩所などの建屋も複数個所に用意されていた。
ホールケーキセンターのしっかりしたキッチンを使う料理人もいれば、屋台を設営してあらかじめ仕込んできた料理をその場で作り始める料理人達もいた。
同様に文化的な催し物を展示するための簡易的な建物を作る者達もおり、さらに貴重な文化資産などが続々と持ち運ばれてきた。
一応名目上は結婚披露宴パーティーではあるが、辺りはいよいよ宇宙万国博覧会のような様相を呈してきた。
事前に集まって来た者達は各宇宙から選りすぐりの者達であるので不手際など一切なく、非常に優れた手際の良さで次々と準備を整えていった。
広大な野外会場にどんどん様々な屋台や催し物特設会場や各種展示小屋などが出来て行くのを見て、冴内達は大興奮してきた。
しかし美衣と一番弟子の良美の二人はそんな光景を見るヒマなどなく、二人で真剣に料理作りに集中していた。
各宇宙代表の一流料理人達も自らの腕を振るっていたが、広大なオープンキッチンなので、嫌でも美衣達の凄まじい料理の技が目に入ってしまい、無意識のうちに近づいてガン見してため息を漏らしたり食い入るように見惚れてしまっていた。
それでもしっかり我に返って自分達の戦場に戻り気概だけでも美衣達に負けじと意気込んで持てる全ての技を注いで自慢の料理を作っていった。
招待客達の入場時間は午前10時からで、あちこちのリングゲートや通常ゲートから続々と宇宙人達がやってきた。
おとめぼしのゲートを中継して宇宙連盟からも次々と要人がやってきたが、宇宙連合所属の様々な宇宙人達を見て大いに驚いた。なかでも全長100メートルもある巨大龍の名誉会長グワァーオーゥゥを映像ではなく本物の実物をその目で直に見て、宇宙連盟司令長官ゴスターグ・バリディエンシェですら桁違い過ぎる存在の圧と貫禄に言葉を失う程だった。
冴内はそろそろ時間だと言って、白い消しゴム状の携帯端末を取り出して準備は出来ましたかと尋ねたところ通話先の相手から準備完了の返事が返って来たので、優にそれじゃ迎えに行ってくるといってその場から消えた。
冴内が向かった先は富士山麓ゲート研修センターで、迎えにいった相手はもちろん神代達である。
神代の親類縁者やお世話になった研究職員、もちろん道明寺や他の国のゲート機関の局長達もいる。彼等の中には神代のようにギフトを授からず、本来ゲートに入れない人々もいたが、冴内の範囲瞬間移動であれば問題なくゲートの世界、この場合は別の宇宙ではあるのだが、彼等にとってはずっと憧れでしかなかった場所へと行くことが出来るのである。
神代もだがそうした人々は皆興奮を抑えきれない様子で、彼等の瞳はまるで少年少女のように光り輝いていた。
「冴内様!このような・・・このような日が来るとは・・・この感動を表す言葉が浮かびません!まるで夢のようです!」
神代が冴内の前に跪こうとするのをなんとか制止して、冴内は皆さんお集りですか?と神代に尋ね、全員揃っているということで冴内は大声で今から皆さんをみんなのほしの野外会場へと運ぶと伝えた。
これから別の宇宙のはるか遠い星へと移動するのだと全員しっかり身構えてカウントダウンを待ったのだが、冴内はそんなことはお構いなしに、じゃあ行きますと実にあっさり言い、その場にいた全員は瞬時に野外会場のステージに移動した。
何人かは目をつぶって身構えたりしたのだが、1秒もかかってないのではないかという間で、冴内がつきましたとそっけなく言った。
神代達は辺りを見渡したところ、そこはもう彼らが映像でしか見たことのない世界が広がっていた。
まずとにもかくにも龍である。巨大龍である。全長100メートルはある名誉会長グワァーオーゥゥと会長よりも一回り小さいその側近の巨大龍である。本物が悠々と宙に浮かんでいるのである。
さらに見回してみるとクリスタル女王とその側近達、最上級に美しい芸術作品のクリスタルの彫像そのものが歩いていた。他にも長身エルフ達や獣人達や機械人達が歩いているのを見た。これまで立体映像でしか見たことのない宇宙人達が本当に自分達の目の前に広がる光景に実在しているのである。
少年の頃から憧れ続けてきたゲート世界を軽く上回る衝撃的な光景を目の当たりにした神代は言葉を失いただただ呆然と立ち尽くしていたが、そんな神代の心境を理解している妻の誠は神代を後ろから抱きしめて空を飛んだ。
誠は今日の披露宴ではしろおとめ団の白装束に身を包んでおり、さらに試練の門「最高に難しい」第7ステージクリアボーナスの重力制御マントをしていたので空を飛ぶことが出来たので、夫の神代を抱いて空を飛ぶ龍やそれ以外の地球では見れないみんなのほしの風景を神代に見せてあげた。
神代は涙を流していた。といっても飛行による風圧で涙が出たとか高所恐怖症で涙が出たとかいうのではなく、叶う事のない長年の夢が叶った事と、多くの人達の心遣いへの感謝の気持ちで涙を流していたのである。
しかし神代はすぐに気持ちを切り替えて「あれを見たい!」「あれは何だろう!?」と、まさに少年のような笑顔と好奇心で誠にリクエストした。
誠もそんな神代の笑顔を見るのがとても嬉しく、二人は多くの宇宙人達の頭上を飛び回り、あちこちで歓声や拍手があがり、一通り神代に見せた後上空で停止して誠は神代の向きを変えてキスをした。
その様子はステージ上の巨大なスクリーンでしっかり映し出されており、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。さすがにドラゴンブレスは控えたが大型龍達も咆哮をあげたので凄まじいまでの大音響となった。
まさしくそれが大結婚披露宴パーティーの開始合図となった。
ちょうど良いタイミングで冴内の範囲瞬間移動によってりゅう君と龍美もステージ上空に登場し、辺りは爆発的な大フィーバーとなった。
気を利かせた冴内は虹色粒子を噴出しながらまるでアクロバット飛行機のように上空を飛行し、空に大きなハートのマークを描くと、会場はさらにいっそう割れんばかりの拍手喝采となった。
美衣達宇宙代表の料理人達渾身の料理がどんどんゲートを介して運ばれてきて、同時に野外会場上にあるあちこちの屋台もオープンし、さらに喜びの歓声が沸き上がった。
優、初、良子に汎用作業支援ロボ達もせっせと料理を配膳した。さらに美衣から借りた宇宙ポケットから大型龍人族用の大量の干し柿と干し芋を取り出して並べ、さらに大きな果物を大量にカットしてフルーツポンチを作った。例のピーチスライムゼリーも砕いてフルーツポンチの上に爽やかソースに絡めて混ぜ合わせた。
みんなのほしは冴内が思い描いていた通り、まさに多くの宇宙人達が大勢集まり皆笑顔で大盛り上がりとなった。
小さな老人の姿になったみんなのほしは、その様子を一人遠くでとても嬉しそうに眺めていた。