36:草原エリアC
翌朝5時ちょっと過ぎに目が覚めた。今日は前日良野さんから誘われた草原エリアCの薬草採取に行く。朝6時に食堂を出発し、今日は最初から「駆け足」で現場に向かった。以前行った草原エリアBは全エリアの調査作業が完了したそうだ。
道中、洞窟探索内での出来事を「駆け足」しながら話すと、二人ともすごく食い付きが良く。話しに熱中していたら「片道2時間80キロの距離」があっという間に感じた。
草原エリアCは草原エリアBと違って起伏に富んでおり、結構うねりのある草原の続くエリアだ。遠目でようやく草原の端を確認することが出来て、その先は林ではなく深い森といった感じだった。森の先は山になっていてそれ程高い山ではない。
富士山麓ゲート内もおよそ80年近くに渡り探索されているが、ゲート内の広大さ、シーカーの絶対数とスキルの多様性、そしてほぼ全て「人力」による探索ということで、確かに一部探索がかなり進んでいる場所もあるが、それでもまだまだ未開の土地の方が多く、そもそもゲート内の世界の果てがどうなっているかについては全世界共通で全く分からない状況だ。
一説によるとゲートの入り口こそ世界各国にあるが、中の世界は実は全て同じ世界なのではないかという意見もあるそうで、かなり有力な説として認識されている。
今回の草原エリアCはまだほとんど手つかずの状態なので、良野さんも薬草採取に専念したいということで、自分は単独で危険対象物の調査発見撃退を行うことになった。一応事前に森林地帯で出現する可能性のある危険対象物についてはあらかじめ予習済みだ。
良野さんからは、もしも新種と思われる危険対象物がいれば、余裕があればでいいので戦う前に携帯で動画を撮るよう指示された。
早速行動開始ということでまずは草原内にいるかもしれない危険対象物を探して探索しはじめることにした。その際木下さんから今日の植生調査範囲を示したエリアを教わり、そのエリアが済んだら後は自由に探索してよいと言われた。
植生調査範囲ではイノシシが1匹とツノの生えたウサギを4匹、いや4羽か、を倒した。イノシシ肉はなかったが、ウサギ肉が2つとツノ3本を手に入れた。肉は小さくてティッシュの箱くらいの大きさしかなかったけど、これでも普通の感覚ではかなり大きいんだよな。どうもゲートにいると一般の感覚と狂ってしまうなぁ。
2時間もかからず植生調査範囲の危険対象物調査が終わってしまったので「そのまま周りを見回ってきます」と携帯で良野さんに報告。その際ウサギの肉とツノが手に入ったといったら頼むから全部ゆずってくれと懇願された。
そこまで言うなら草原をくまなく見回って、ひたすらウサギ狩りをしようかと思ったが、明日以降も探索するわけだし、何よりも一目見たときから深い森の方が気になっていて、そちらに行きたい気持ちの方が強かったので「駆け足」じゃなくて「早足」で森に向かうことにした。
事前予習で調べていたときに見た、森に生息するといわれている危険対象物のヘラジカとユニコーンをどうしても見たかったのだ。
「早足」で駆けること30分、草原に着いた当初は目を細めてようやく見える程の距離にあった深い森の前に到着した。時刻は昼前の11時半、ちょっと早いが弁当を食べることにした。携帯で良野さんに今森の前にいるので昼食は別々でと報告し了解の返事をもらった。
今日の弁当はいつもの幕の内風弁当ではなく、トカゲ肉のかば焼き弁当を買った。先着30食限定で飛ぶように売れて、自分もかろうじて買うことが出来たがギリギリだった。後ろにいたシーカーの残念そうな顔が今にも目に浮かぶ。そういえばあれから矢吹さんと鈴森さんを目にしていない。
深い森を目の前にして弁当を食べようとフタを開けた瞬間にかば焼きのタレの香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり思わず顔もほころび口の中は唾液で充満してきた。
この匂いでまた熊とか寄ってきちゃうかなぁと思った。どうせならヘラジカやユニコーンに寄ってきて欲しいけど多分草食だろうから寄ってこないだろうと思った。逆に逃げちゃわないといいけど・・・
その後食べたトカゲ肉のかば焼き弁当の旨さがあまりにも強烈で、また洞窟に行ってトカゲ狩りをしたいと強く思ってしまった。




