354:ミラクルスライム
4日目の探索を無事終えた冴内達は、各自いつも通りの役割で夕食の準備や各種設備の設置を行った。
今日の夕食はおでんを作った。まぼろしの放浪衛星0141で獲った例のザブトンのような生き物の肉も煮込んだが見た目がまさにハンペンなのでおでん種として全く違和感がなく、それどころか極めて美味しく煮込まれていた。
「うまっ!うまっ!これすごく美味しいよ美衣!おでんにも凄く良く合う!」
「う~む、ニッポンの料理はさすがだ。奥が深い。この組み合わせでもここまで食材の味を引き出すのか・・・まだまだ研究が足りんなアタイも」
いつも通りこういう時の美衣は何か別の人格が憑依しているかのような口ぶりであったが、それを気にするものは誰一人いなかった。
「このお芋も美味しいね!」(初)
「それは小人さん達からもらった芋だよ、ペロイモも美味しいけど、ニッポンの料理にも合うと思ったんだ!」(美)
「確かに美味しいね、ホクホクしてジャガイモのようなんだけど、柔らかい粘り気があるところが山芋みたいだし、塩気と芋のもつ甘味がすごく調和してると思う」(冴内)
「むっ、さすが父ちゃん、実に冴えてる評価だ。まるで食通のようだ」(美)
「この大根も美味しいわよ」(優)
「コワイコワイのロールキャベツ煮も最高!」(良)
冴内達は色んなおでん種を楽しみつつ夕食を味わい、一息ついたところで美衣が切り出した。
「ところで父ちゃん、今日のお風呂には何を入れるんだ?」
「もっと沢山桃を入れるの?」(初)
「他の果物を入れるの?」(良)
「うん・・・実は・・・」(冴内)
「「「 ・・・ゴクリ 」」」
「ミラクルミックスジュースをほんの少しだけ入れようかと思うんだけど・・・」
「「「 !!! 」」」
「えっ!洋それはさすがに危険じゃない!?」
「ボク知ってる!死んだ人も生き返るすごいジュースなんでしょ!」
「私もちょっと危ないと思う!」(良)
「やるな父ちゃん!アタイは桃を10個くらい入れるのかと思ってたけど、まさかそこまでやるとは思わなかった!」
「ほんの少しだけ、数滴くらいならどう?」(冴内)
「あらたった数滴だけ?それなら問題ないんじゃない?」(優)
「うん、それなら安心!原液をコップ一杯分入れるとか言うんだったら反対だったけど、たった数滴なら全然問題ないと思う!」(良)
「さんせい!」(初)
「ううむ、コップ一杯入れるんじゃないのか、でも確かにそれで不死身のスライムが出来ても困るからそれでいいのか・・・分かった賛成!」(美)
さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機はさすがに今回ばかりは口を挟もうと声をあげかけたが、数滴だけしか入れないということを聞いて口をつぐんだ。
やはり今回も好奇心が上回ってしまったのだが、いよいよもって冴内達のこの予想の遥か斜め上を平気で実行してしまうことに対して、呆れるどころかむしろ敬意すら覚え始めてきた。
ともあれ、腹一杯おでんを食べて上機嫌になった冴内達は本当にミラクルミックスジュースを風呂の湯に入れることにした。
「それじゃ美衣、僕の水筒を出して」
「うむ・・・はい」
「・・・はい、ありがとう」
「父ちゃん気を付けろ、うっかり沢山入れたらすぐにお風呂は回収して今日はお風呂ナシだぞ」
「そうだね、十分気を付けるよ」
冴内は美衣の言う通りうっかり手を滑らせて沢山入れてしまわないように、まずは極々少量をフタ兼カップに注いだ。その量はコーヒースプーン一杯にすら及ばない程の少量なので万が一手を滑らせても大惨事にはならない量だった。しかも冴内はさらに念を押してカップを傾けて風呂に入れるのではなく、人差し指をカップに付けてその指を風呂の湯に浸した。
「なるほど、さすが父ちゃん、これなら大丈夫だ」
「そうね、この量なら問題ないわね」(優)
「うん、これくらいなら問題ないと思う!」(良)
「もっと入れないの?」(初)
「そうだね、さすがに少なすぎるかなぁ」
「父ちゃんコップの中見せて」(美)
「うん・・・はい」
「わっすごくチョビッとだ、これなら全部入れても大丈夫じゃないか?」(美)
「私にも見せて」(優)
「私も」(良)
「ボクも」(初)
「あらホント、大分ちょっとの量なのね」(優)
「ホントだ!チョビッとだ!」(初)
「う~ん・・・私は飲んだことがないから分からないけど確かにこれなら大丈夫・・・かな?」(良)
「じゃ・・・じゃあこれ全部入れちゃおうか?」
「「「 さんせ~い! 」」」
さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機はやはりまたしても悲しいことに好奇心が勝ってしまい、自分達も見てちゃんと量を確認してから助言するというタイミングを逃してしまった。
そうして結局冴内はコップの中身を全て風呂の湯に入れた。といってもコーヒースプーン一杯にすら満たないごく微量ではあったが。
ともあれまずは冴内達が風呂に入ることで一体どうなるのか検証した。
「あ~・・・今日もいい湯だなぁ~」(冴内)
「そうね、いつもと・・・いつもよりちょっといい湯かもしれないわね~」(優)
「スゥゥハァァスゥゥハァァ・・・なんか湯気を吸うととっても気持ちが良い感じがするゥ~」(美)
「スゥゥハァァスゥゥハァァ、ホントだぁ~」(初)
「あ~なんだか疲れが取れて・・・取れ過ぎて、気持ち良くてこのまま寝ちゃいそう~」(良)
「グゥゥ~」(美)
「ブクブクブク・・・」(初)
冴内は頭の片隅でこれはちょっとヤバイかもと思いつつも、美衣も初もまだ小さい子だから今日のピーチスライム戦で疲れたのかもしれないと、自己肯定的なバイアスをかけて、二人を湯から引き上げて身体を拭いてあげてベッドに寝かしつけた。
冴内達も意識が朦朧とするのをなんとかこらえて歯磨きをしてから寝た。
その後スライム達がやってきて入浴したのかは全く分からなかったが、さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機はしっかりとその戦々恐々とする光景を最後まで見届けた。
明けて翌日。
全員すっかりスッキリこの上ない程に晴れ晴れとした様子で目が覚めた。
朝からいつも以上に食欲も旺盛で、例の大型恐竜の特上のステーキを何枚も食べた。
全員見るからに力がみなぎっている様子で、溢れ出て零れ落ちそうな力を爆発寸前で抑えているかのようだった。
さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機は何一つ見逃さないように集中して彼等を観察した。
冴内達は全員やる気満々闘志満々で進撃を開始した。そして開始後すぐにスライムと会敵した。
そのスライムのステータスは各自のヘルメットのバイザーに次の様に表示された。
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ミラクルスライム
生命力:99
特殊力:99
攻撃力:9
防御力:9
素早さ:9
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「・・・!」(冴内)
「どうする洋!私達よりも強いわよ!」(優)
「まさかこんなに強くなるなんて!」(良)
「大丈夫だ!今のアタイ達なら勝てる!今日は力がみなぎってる!負ける気がしない!」(美)
「ボクも!いくぞ!フライング・クロス・チョップ全開だ!」(初)
「わっ!待って二人とも!」(冴内)
「むっ!止めてくれるな父ちゃんよ!」(美)
お前はどこの時代劇の登場人物かと言いたくなる美衣だったが、それでも美衣も初も素直に攻撃を止めて冴内の次の言葉を待った。
「美衣と初と良子は3人で一匹を相手にするんだ!僕と優は二人で僕の目の前にいるスライムを相手にしよう!」
「「「 なるほど!了解ッ! 」」」
そう、何も一対一の戦いにこだわる必要はないのだ。これまで試練の門で強敵に挑んだ時と同様に戦えばなんとかなりそうな力の差だった。
とはいえ、果たして冴内達は無事に勝利することが出来るのだろうか・・・