350:温泉スライム
時刻は午後8時過ぎ、冴内達は漆黒の闇の中で試練の門から勝手に拝借してきたお風呂に心地よく入浴していたところ、自動巡回型早期警戒装置から警報が鳴り、さいごのひとロボ4号機はスライムが冴内達の方に集まってきていると伝えた。
スライムが近づいてきている方向に全てのドローンが照明を当てると、確かにスライムが近づいてきているのが分かった。これまでの遭遇率からそれほど多くのスライムが密集して発生しているようではないので大量のスライムが押し寄せてきたということはなかったが、それでも目視出来るだけでも5匹のスライムがいた。
冴内達は裸のまま臨戦態勢を整えて様子をうかがっていたが、スライム達は冴内達を攻撃するようなそぶりは全くなく風呂に近づいていき、少しだけ停止した後にプルプルと身体を震わせそのまま風呂の湯に向かって突入していった。
最初の1匹が湯に入ると他のスライムも次々と湯に突入していった。
とりあえず害はなさそうなので、冴内達は一応湯の方を警戒しつつ新しく作った洗い場の上に乗り各自身体を洗いはじめた。
すぐ近くに外敵がいるというのに悠長に身体や髪を洗いはじめるという驚異の精神構造であった。
一通り身体も洗って綺麗になったので、いつもならもう一度最後に湯に浸かるのだが、スライムが湯に浸かっているのでさすがの冴内達もシメの入浴は諦めて身体を拭いて、スライムの入浴を横目で見ながらあらかじめ冷やしていた戦利品のスライムゼリーを食べた。
ゼリーを食べ終わり全員歯磨きをすると、まず初が眠気に耐えきれなくなったので、冴内達は一応少しだけ距離をあけてベッドを設置し寝始めた。
外敵がいるのに距離的には10メートルも離れていないような場所で全員熟睡し始めた。
そして朝起きたら知らぬ間に全員スライムに殺されて天国にいたということもなく、普通に腹時計アラームによって目を覚ました。
顔を洗おうと風呂の洗い場に行くと、風呂にはスライムの姿はなかった。全く1匹もおらず、ドローンに水質調査を行わせてもスライムのバイタルは何一つ検出されなかった。
とりあえず安全は確保されたので、美衣はお風呂と洗い場を宇宙ポケットにしまい込んだ。どうみてもポケットの口の中にお風呂や洗い場設備など入るわけがないのだが、美衣がまるで重力を無視して片手で風呂を持ち上げて宇宙ポケットの口に近づけるとまるで空間が歪曲しているかのような光景と共にお風呂の水も何故か一滴もこぼれることなく宇宙ポケットの中に入って行った。
洗い場も同様にしまった後、今度はキッチンを取り出して設置し朝食の準備に取り掛かった。ちなみにテーブルやイスも一緒に取り出していた。
朝食は第3農業地からたっぷりもらった米と納豆に干し沢庵と、同じくまだたっぷり残っている魚を取り出して焼いて食べた。
食事中の話題はスライム達がどこに行ったのかという内容で盛り上がり、風呂に入って気持ち良くなったから帰っていったという説と、湯に溶けてなくなってしまった説が出たが、後者だとこれからあまり風呂に入りたくなくなるなどと弱音を吐く者は一人もいなかった。
さらにさいごのひとロボ4号機が花子との定時連絡通信に成功したことを告げてきて、花子からは特に急を知らせる伝言もなく「皆さんレベルアップおめでとうございます、今日もお気をつけて探索して下さい」という通信内容だったと教えてくれた。
食後の片づけと食休みをした後、冴内達は2日目の探索を開始した。いつも通り5人横に並び真っ直ぐ進んで行ったところ、10分も経たずに各自のドローンが聞き慣れてきた警報を鳴らしてきた。
全員いつものスライムだろうと思っていたが、ドローンがスライムに近づきバイタルチェックを実施したところ、各自が被っているヘルメットのゴーグルには次のように表示された。
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温泉スライム
生命力:7
特殊力:1
攻撃力:1.5
防御力:1.5
素早さ:1.5
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「わっ!なんだこれ!?いつものスライムじゃない!」(冴内)
「温泉スライムだって!」(初)
「なんかちょっと強くなってるわよ」(優)
「色も少しピンク色っぽい!」(良)
「いいお風呂に入ったから強くなったんだ!」(美)
そんなわけあるかとツッコミたいところではあるが、美衣の言っていることは真実だった。
「皆、気を付けて戦って!」(冴内)
「「「 りょうかぁーい! 」」」
全員気を付けて戦ったが、既に全員暗闇世界でのレベル3になっているので、全員ダメージを受けることなく1分以内で温泉スライムを倒した。
「あっ、何かでたよ!お父さん」(良)
「アタイは何も出なかった」(美)
「ボクも何も出なかったよ」(初)
「私も何も出なかったわ」(優)
「うん、僕も何も出てない。良子何が出たか教えてくれるかい」(冴内)
「うんわかった!・・・えっと・・・あっ!温泉スライムゼリーだって!」(良)
冴内達全員のヘルメットのゴーグルに次のように表示された。
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温泉スライムゼリー
効果:食べると元気になり、病気が治る
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「今度は元気になるだけじゃなく病気も治るんだね」(冴内)
「うちのお風呂に入ったからだ!」(美)
「そうだね・・・あっ・・・」(冴内)
「どうした?父ちゃん」(美)
「いや、その・・・変なこと考えちゃった」(冴内)
「何?洋」(優)
「日本の温泉とか銭湯でたまに果物を入れて入浴することがあるんだけど、そしたらスライムはまた違ったものに変化するのかなって思ったんだ」
「それは面白い!実験しよう!」(美)
「えっ、いや~・・・でも・・・」(冴内)
「面白そう!」(初)
「う~ん・・・」
「とっても気になる!面白そう!」(良)
「確かに・・・」
「どうなるのか気になるわね!」(優)
「だよね!気になるよね!よし!今晩やってみよう!」
「「「 やろう!やろう! 」」」
以前にもあったことだが、今回もさいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機は内心ではやめておいた方が良いと思いつつも、どうなるのか興味もあったので余計な口出しはせずに黙っていた。
ともあれ冴内達は進撃を続けた。
5時間程進み距離もおよそ500キロ近く進み、各自温泉スライムを10匹倒したところで全員レベルアップした。
♪ファァァ~~~ンッ
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冴内 洋
21歳男性
レベル:3⇒4
生命力:20⇒30
特殊力:20⇒30
攻撃力:3⇒4
防御力:3⇒4
素早さ:3⇒4
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「あっレベルアップした」(冴内)
「ボクも!」(初)
「アタイも!」(美)
「私も!」(良)
「私もよ!」(優)
「システム、全員のレベルを表示。・・・うん、やっぱり全員全く同じ値だね」(冴内)
「この特殊力って何だろう・・・」(良)
「魔法かも!」(美)
「わぁ魔法使ってみたい!」(初)
「ちょっと試してみるわね!」(優)
優はそれらしく構えて指先にイメージを集中したが、特に何も起こらなかった。
「あら、違うのかしら?」
「母ちゃん今何をやろうとしたんだ?」(美)
「なんていったかしら、洋が大闘技場で闘った魔法使いの技をやってみたのよ」
優がやったのは長身でとても美しいエルフの大魔術師【ΠΩΛーΛΩΠ】の最大攻撃魔法スーパーノヴァで、優は宇宙イナゴ討伐の際もこの攻撃魔法を使用して天文学的な数の宇宙イナゴを一瞬で消滅させたのだが暗闇世界では何も起きなかった。
果たしてこの「特殊力」とは一体どなんな能力なのであろうか・・・