340:スライム
タクティカルベストの背中の大型ポケットに入れた端末AIが『ドローン回収』と言うと、ボール型ドローンは眩しくならないように照明を暗く落としながら近づいてきて冴内の目の前で停止した。
冴内はドローンを抱えてゲートを通過してリビングに戻ってきた。
早速壁掛け大型ディスプレイにてドローンカメラの映像を再生してみたところ、ちゃんと冴内の姿が映し出された。
「あっ!父ちゃんがおるアハハハ!父ちゃん以外ホントに真っ暗だ!」(美)
「ホントだアハハハ!」(初)
「赤外線映像表示」(最後ロボ)
「アハハハ!父ちゃんの形をした赤いのがおる!」(美)
「ホントだ!アハハハ!」(初)
「うむ、カメラの映像はちゃんと撮れているようだな」(最後ロボ)
「そうだね」
「ううむ、しかし有線でもデータの送受信は出来ないとは・・・」
「でもドローンや背中の端末のおかげで、とても便利になったよ」
「そう言ってもらえれば助かる。他にも何か思いついたらこちらで開発しておく」
「うん、よろしく頼むね」
「それじゃもう一度行くとするか。美衣宇宙ポケット貸してくれる?」
「分かった!はい」
「ありがとう、それじゃ夕食までに戻ってくるよ」
「「「 行ってらっしゃ~い 」」」
冴内は再度漆黒の闇のゲートの中に入ってドローンを手放して辺りを照らし、まずは電波距離計の母機をゲートのすぐ横に設置した。
「えっと、ドローンでゲートの真っ直ぐ先を進ませることって出来る?」
『出来る、ドローン、ゲートの正面を進め』
「おっ、これは便利だね!それじゃあちょっと速度をあげて進むから僕に合わせて移動させてくれるかい?」
『大丈夫だ、自動で速度調整する。ドローン、距離間隔を2メートルに設定』
「ありがとう、それじゃ行くよ」
冴内は少しづつ移動を速めていった。走るのが億劫なので飛行した。といっても身体を水平にして飛ぶのではなく、立ったままの姿勢で飛行した。徐々に速度をあげていき時速100キロ程で飛行した。
1時間程飛行したところで停止し振り返ると当然反対方向のゲートの明かりは見えなかった。
「これって今どこにいるか分かる?」
『問題ない、距離計の子機を使ってみたまえ』
「えっと・・・測定開始」
ピッという音と共に冴内の目の前の空間に93キロという文字が表示された。
「わっすごい、ちゃんと測れてる」
『うむ、ドローンと私の端末でゲートの横に置いた母機からの相対座標も把握しているので、迷うことはないだろう。今のところ遮るものもなければ電波に干渉するものもないので正確に測れている』
「それは安心だね、すごく助かるよ。それじゃもう1時間程進んでみよう」
『了解した』
冴内はさらに1時間程進み、再度距離を測ると213キロ地点との表示が出た。
「う~んどこまで行っても真っ暗闇だね・・・こりゃ困ったぞ。宇宙さんが言っていた通り、真っ暗闇で何も分からず何も見えず何も出来ないのかもしれない・・・」
『ううむ・・・だがしっかり空気はあるし、ドローンの明かりも目視出来るし、まるで違う物理法則というわけでもなさそうなのだが・・・』
「おぉーい!宇宙さぁーん!冴内 洋ですー!宇宙さぁーん!いませんかぁー!冴内 洋ですー!」
「・・・」
『・・・』
「うーん・・・実はまだちゃんとゲートが出来ていないってことかも。夢の中ではゲートが完成したらゲートの中で説明するって言っていたから」
『うむ?そうなのか?』
「うん、昨日夢の中で別の宇宙さんが出てきて、カタコトだけど会話をしたんだ。もう少しでゲートが完成するっていうのと、僕等の宇宙だとコミュニケーションをとるのが難しいらしくて、ゲートの中で説明するって言ってたんだ」
『なるほど、そういうことならば確かにまだ完成していないのかもしれないな』
「そうだよね、なら今日はもう戻ろうかな」
『了解した』
「えっと・・・ドローン、ゲートに戻って」
ドローンは向きを変えてゲートの方向に進み始めた。
「それじゃ行くか、帰りはスピード出すけど大丈夫?」
『最大でマッハ5程度まで出せる』
「分かった」
冴内は時速300キロ程度に抑えて飛行することにした。
飛び始めて30分程が経過したところでドローンから警報音が鳴った。
「何!?この音!」
『緊急停止だ!冴内 洋!!』
「分かった!」
冴内は時速300キロから限りなく0に近い時間で停止した。常人ならば確実に即死もので死体の姿もかなり惨たらしい姿になっていることだろう。
「どうしたの?」
『正体不明の何かのオブジェクトを検知した、生命体なのかどうかもまだ分からない』
「えっ!ホント!?」
『ドローン、対象物にライト照射』
「あっ!スライムだ!」
『すらいむ?・・・データ照合、なるほどゼリー状の生命体のことをスライムと言うのだったな』
「どうしよう・・・とりあえず近づいてみるかな」
『待て、今ドローンで解析している・・・うん?なんだこのデータは?』
「どうしたの?」
『これを見てくれ』
冴内のタクティカルベストの大型ポケットに入っている端末からどういう仕組みで投影しているのかは不明だが冴内の目の前に文字情報が投影された。そこには次の様な文字情報が表示されていた。
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スライム
生命力:5
特殊力:0
攻撃力:1
防御力:1
素早さ:1
-------------------
「あっ!ステータスだ!これってVRゲームなんじゃない?」
『いやしかし、あのスライムは物理的に存在しているぞ』
「えっそうなの?そういえばゲートシーカーの手代木さんが、モンスターのステータスも見えるようになったって言っていたよ」
「ほう、しかしドローンに仕込んでいるのは光学センサー以外には赤外線や電波などの探知センサーしか搭載していないのだ。しかしあのスライムの生体反応を測定したところ、今見ているデータをこちらのプロトコルでデータ受信したのだ。まるで向こうからデータが送られてきたかのように・・・」
「どうしようか・・・」
『捕獲・・・してみるべきか?』
「分かった」
冴内はスライムに近付いた。そのスライムは半透明で白く透き通っていた。
『気を付けろ』
「うん、でも大分弱いステータスだから問題ないと思うよ」
冴内はさらに近づき、いよいよ手が触れるところまで近づいたところ・・・
ボヨンッ!
「うわっ!」
スライムは冴内に体当たりしてきて、冴内は後ろに尻もちをついた。
「イテテ!あれっ?結構痛い!」
ボヨンッ!
「おっと!」
冴内は完全に身に沁みついている体捌きで身体を捻りながら素早くスライド回避し、同じく完全に条件反射レベルで身に沁みついている回避と同時のチョップをスライムにお見舞いした。
ブヨンッ!
「わっ、弾かれた!あっ!だけどスタータスが変わった!」
-------------------
スライム
生命力:5⇒4
特殊力:0
攻撃力:1
防御力:1
素早さ:1
-------------------
『冴内 洋、今の一撃はどれくらいの威力で放ったのだ?』
「うーん・・・どうだろう反射的にやっちゃったから分からないけど、そんなに強くはやってないよ」
ボヨンッ!
「おっと!それっ!」
冴内は今度はスライムの中心核を抜き手で貫こうとした。
ブヨンッ!
「あれっ?今度は少し強めにしたんだけど」
-------------------
スライム
生命力:4⇒2
特殊力:0
攻撃力:1
防御力:1
素早さ:1
-------------------
『だが狙いはいいみたいだぞ』
「そうだね」
ボヨンッ!
「それっ!」
ザシュッ!パンッ!
「あっ、消えちゃった。そうか、これくらいの威力だとちゃんと貫通出来るんだ。今結構強めに攻撃したよ。大分硬いんだねこのスライム」
『それはどれくらいの強さなのだ?』
「う~ん・・・以前試練の門で闘ったブラックの自分なら一撃で倒せるくらいだと思うけど」
『何ッそんな威力だったのか!?』
「うん・・・多分・・・感覚だから正確じゃないかもしれないけど・・・」
『これは少々由々しき事態だ・・・冴内 洋、とにかく一刻も早くリビングに戻るのだ』
「分かった」
冴内は猛スピードで引き返し1分もかからずゲートに到着した。その間別の反応はまったくなかった。