34:全世界合同調査
翌日からゲート村は大騒ぎになった。世界各国から一流の研究職員、探索任務、鑑定、歴史考古学など、その方面におけるトップクラスのシーカー達がぞくぞくと富士山麓ゲートに集結してきた。
当然全世界にそのニュースは報じられ、今回発見された壁画の画像や動画も公開された。
その壁画は高さ約10メートル長さ約20メートルにも及ぶ巨大壁画で、壁画の中央には翼の生えた巨大爬虫類、ありていに言うとまさにドラゴンが描かれており、それを大勢の生き物や人、さらに「人のような形をした何か」が取り囲んでいる。
その絵で最も目を引くのがドラゴンの前に白く輝く女性の姿のように見える人の絵で、ドラゴンはその女性のように見える人に、こうべを垂れているようにも見えた。
まさに衝撃的な発見であった。80年の歴史に及ぶゲート内での様々な発見報告において、知的生命を感じさせる物的証拠が出てきたのは今回が初めてのことだったのだ。まさしく驚天動地の事態で全世界を揺るがす一大事件となった。
富士山麓ゲート研修センター内では上級職員の神代が徹夜明けにも関わらず精力的に仕事をこなしていた。次々と更新されて報告されてくる冴内に関する最新情報、そこへきて今回の壁画騒ぎ、そもそもルビー(仮)一つとってもとんでもない発見だ。
壁画もルビー(仮)も客観的にみれば冴内とは直接関係のない偶発的事象だがそれにしてもだ・・・「まったく冴内君、君は一体どれほど楽しませてくれるんだい」
神代は徹夜したがそれは仕事だから嫌々こなしたのではなく、続々と送られてくる情報がたまらなく魅力的だったからで、ゲート職員として情報部に配属されたての頃の熱い情熱が呼び起こされ、むさぼるようにそれらの情報を読み進めていたのだ。
神代は20歳になった時ギフトは授けられなかったが、小学生の頃にゲートシーカーの探索記録を読んで衝撃を受け、すっかりゲートに魅了され、以降の彼の人生はゲートに関する情報を見聞することが何よりのいきがいとなった。
むしろゲートから一歩退くことで、ゲートシーカーのもたらす情報を客観的にとらえることができるうえに、神代自身が何か一つの探索作業に没頭することがないため、一人の視点ではなく他のシーカー達のもたらす情報を総合的に判断し、人知を超えた様々なゲートでの出来事に対して着実に真実を解明してきたのである。
欲を言えば今の身分での職務権限のみを有したまま、ひたすら一情報研究職員として研究に没頭したいところであったが、神代家の血筋は代々社交的な性格であり、彼自身もその性格に起因して交友関係は多く、人とのコミュニケーション能力が高かったため、本人はまったく昇進意識はなかったのだが、異例の若さで今の役所についたのであった。
手代木からの報告を受けた神代はすぐにチームを編成し、手代木から報告される資料を精査編集し、いち早く世界各国の機関に対して情報公開した。
数時間後には緊急ネット通信会議を開き、各国代表の激しい集中飽和攻撃のような質問攻めを見事にさばききった。
一連の彼の仕事ぶりは高く評価され、後に富士山麓ゲート局長になるのだが、それはまだ少し先の話しである。