339:闇の世界へ
だいぶ風通しが良くなった冴内ログハウスのリビングにて、漆黒の闇のゲートを前に冴内達は家族会議を開いた。
ちなみに冴内以外は全員漆黒の闇のゲートを通過することは出来ず、当然さいごのひとロボ4号機と音声ガイドロボ2号機も例外なく入ることが出来なかった。
「父ちゃん、中はどんなんだったんだ?」(美)
「それが中も真っ暗で、ライトをつけても何も見えなかったんだ。でもちゃんとライトは光っていて自分の手をかざすとちゃんと見えたよ。でも本当に真っ暗だからあまり動かずに何歩か歩いて手を伸ばしたりしてみたんだけど全く何もない空間だった。でも振り返ってみたらちゃんとリビングの明かりは見えるから明かりが見える範囲であれば迷わず帰れるね」
「どうする洋?このままだと洋しか向こうの宇宙に行けないってことになるわよ」
「うーん、どうしようか・・・でも向こうに行かない事には何も分からないし、とりあえず自分だけでも行くしかないかなぁ」
「お父さんの話しだと別の宇宙さんはゲートの中で説明するって言ったんだよね?」(良)
「うん、もしかしたらまだ完全に準備出来ていないのかもしれないね」
「ちゃんと準備出来たらボク達も入れるようになるかな?」(初)
「そうだね、もしそれでダメだったら向こうの宇宙さんに会ったときに皆も入れるようにしてもらえないか聞いてみるよ」
「「「 了解~ 」」」
「それじゃ、もう一度入ってみるよ。そうだ美衣、このライト全部出してくれるかい?」
「分かった・・・はい」
「あっそうだ!ロープとかってあるかな?」
「ロープ?・・・あっ、あった・・・はい」
「はい、ありがとう」
「えーと・・・優、悪いんだけどこれをお互い腰に巻いてくれる?もし僕が迷ったり何かあったら引っ張って欲しいんだ。あとお昼ご飯の時に引っ張って教えてくれると嬉しいな」
「分かったわ!」
「よし!これで準備出来た、それじゃもう一度行ってくる」
「「「 行ってらっしゃ~い 」」」
冴内はもう一度準備を整えて漆黒の闇の中へと入って行った。
まずは片手を前に出して真っ直ぐとゆっくり歩いて行った。そのままかなりゆっくりした足取りで歩くこと1分程度でロープが張ってしまったので、今度はそのまま右方向に円を描くことにした。すると、ちょうどゲートがあるところが壁になっていることが分かった。
冴内は一度リビングに戻り、ロープが短すぎるのと壁があったから壁沿いに行けば迷わないから大丈夫だと告げてロープ作戦を早くも終了させた。
ついでに3っつの宇宙でならどこでもつながる白い消しゴムのような形状の携帯端末がつながるか試してみたが当然繋がらなかった。
さらにゲートシーカー専用携帯端末で時刻を確認するとちゃんと時計は進んでいたし、動画撮影機能やその他のアプリは正しく動作するのを確認した。
今度は冴内はゲートに入って左側の壁伝いに左手を添えながら歩くことにした。とても慎重にという程ではないがややゆっくりした足取りでどんどん歩いて行った。
10分程歩いたところで美衣から借りたライトを進行方向に向けて照らして床に置いた。さらにそこから10分程歩いたところで同様にライトを置いた。
ライトは試練の門に挑んだ時にタクティカルベストに装着していた超強力フラッシュライトだったので冴内と優と美衣の分しかなく、これで床に置けるライトは使い果たした。
さらに10分程歩いてみたらなんと壁に突き当たった。
「あっ、ちゃんと壁がある。良かった、このまま無限に暗闇が続いたらどうしようかと思った」
冴内は振り返って元の場所に戻り始めた。ゲートまでは小走りで戻り、途中ライトを回収してゲートまで戻ってそのままゲートを通過して今度は右側の壁伝いに進んだ。恐らくまた30分も歩けば壁に突き当たるだろうと思ってやや歩く速度を速めところ、20分程で突き当りに辿り着いた。
一応そこの角でライトを設置して、今度は90度に左を向いて壁伝いに歩き出した。歩く速度はややゆっくりめで歩いて行った。歩くこと実に3時間、こちらの方はまだ突き当りに達しなかった。時刻は午前10時過ぎというところで、冴内は振り返って壁伝いに小走りでゲートまで戻ることにした。
問題なくゲートを通過して無事リビングに戻ってみるとちょうどお昼の支度が済んだ様子で、リビングに空いていた大穴も綺麗に塞がって完全に元に戻っていた。穴が空いた箇所を間近でよく観察しても継ぎ目が分からないくらい完璧に仕上げていた。
お昼には手作りでしかも石窯で焼いたピザが出てきてこれまで宅配デリバリーのピザしか食べたことがなかった冴内は本格的なピザが出てきて大喜びだった。
「小人さん達の石窯を借りて焼いてみた!」(美)
「すごいね、こんな本格的なピザを食べるの初めてだよ!」(冴内)
「チーズは花子ちゃん達が庭にいるモフモフから作ったのを使ってみた!」(美)
「そうなんだ、めちゃくちゃ美味しいよ!」(冴内)
「ボクおかわり!」(初)
「あいよ!」(美)
「中はどうだった?」(優)
「相変らず真っ暗だった、左右には壁があったけど進行方向はどこまで続いているのか分からない。午後はもう少し先に行ってみる」
「気を付けてね洋・・・」(優)
「うん、ありがとう」
昼食を食べ終え、食後の休みも十分にとったところで冴内は再度ゲートに入ろうとしたところで、さいごのひとロボ4号機に呼び止められた。
「色々と用意してみたものがある、使えるかどうか試してみてくれないか?」
「ありがとう!それは助かるよ」
「まずは電波距離計だ、これが母機になるからゲートのすぐ側に置いてくれ、そしてこっちの子機を母機に向けて測定開始と言えば距離が分かる」
「距離が分かるのは便利だね、どれくらいの距離までいけるの?
「数キロ程度ならすぐに測定結果が出るが、数万キロだと10分以上はかかる。測定可能限界はないに等しいが途中で何か遮るものがあれば測定不能だ」
「分かった」
「次に白い携帯端末の代わりにこっちの端末をタクティカルベストの背中の大型ポケットに格納して欲しい、この中に私の思考AIプログラムを組み込んでみた」
「分かった、あっ思ったよりも重くないね」
「うむ、可能な限り軽量化してみたつもりだ」
「さらに照明兼多機能カメラ付きドローンを作ったのでこれも持って行ってくれ、手を離せば自動で浮遊して今渡した端末を自動的に追尾する、数年近くは連続運用可能だ」
「分かった、これも便利だね」
「まず有線ワイヤーケーブルで接続してみるから、あちらの状況が受信出来るかどうか確認したい」
「分かったやってみよう」
さいごのひとロボ4号機はバレーボールのボール程の大きさの球体に直径2ミリ程の細いケーブルを接続して冴内に手渡した。
「まずはリビングで動作確認をしてみる」
さいごのひとロボ4号機は漆黒の闇のゲートのすぐ横にある壁掛け大型ディスプレイ付き通信装置にケーブルを接続して「映像出力開始」と言うと、大型ディスプレイに冴内達が映し出された。
「わっ、ものすごく綺麗に映るね」
「うむ、問題は向こうの世界の映像が受信できるかだ」
「分かった早速やってみよう」
冴内はボール型ドローンを持ってゲートの中に入りドローンを手放してみた。自動的にドローンは音もなく重力制御で浮遊し、大体冴内の頭上1メートル程の上空で照明を照らした。
「わっ、明るいね!でも相変らず真っ暗だ」
『ドローン、自撮りモード開始』
「あっ、その声は背中の端末のAIだね」
『そうだ、情報量と処理能力はロボット状態の私よりも大幅に劣るが、一応スタンドアロンでも稼働する・・・おっと、ダメだ。リビングにいる私と接続出来ない。恐らく今カメラで撮影している映像データも向こうでは受信出来ていないだろう』
「えっ、そうなの?」
『うむ、残念ながら有線でもデータ送受信は出来ないようだ。今撮影している自撮りの映像はどうなのか知りたいところだ』
「分かった、いったん戻ろう」
冴内はリビングへと戻った。果たしてドローンカメラで撮った自分の映像は撮れているのだろうか。